表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都を追放されて自由なスローライフを満喫中なのに、伝説の銀狼と村娘が毎日俺の火と料理をよこせと迫ってくる  作者: 黒崎 隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

第16話「雪解けの足音と、新しい春の匂い」

 数日後、森の木々を覆っていた雪がすべて溶け落ち、ルーメンの村に本当の春がやってきた。

 ノアは広場の入り口に立つ結界灯の炎をわずかに弱め、外の暖かな春風が村の中へと自然に流れ込むように調整する。

 土と新緑の匂いをたっぷりと含んだ風が頬を優しく撫で、長く厳しい冬がすっかりと終わったことを知らせてくれた。

 村人たちは朝早くから広場に集まり、雪解け水を豊富に吸い込んだ畑を耕す作業に精を出している。

 ノアもまた、分厚い外套を脱ぎ捨てて身軽な衣服に着替え、村の男たちに混じって大きな鉄のクワを力強く振り下ろしていた。

 魔法を使えば一瞬で土をひっくり返すこともできるだろうが、自分の手と筋肉を使って働くこの心地よい疲労感が、ノアは好きだった。

 振り下ろした刃が湿った重い土を切り裂き、植物の根を断ち切るたびに、大地の豊かな匂いが鼻腔を強くくすぐる。

 ノアは額ににじんだ汗を手の甲で拭いながら、冬の間に作った温室から移植する苗の場所を頭の中で計算した。


「ノアさん、少し休憩にしませんか。雪解け水で冷やした果実水を持ってきましたよ」


 畑の端から、エルナが大きな木彫りの水筒を掲げて声をかけてきた。

 彼女の隣では、冬の間に分厚く伸びきった冬毛を梳いてもらっているルーが、気持ちよさそうに黄金の目を細めている。

 足元には、梳き落とされた銀色の毛玉が小さな山のように積み上がっていた。

 ノアは手にしたクワを土に突き立てて置き、エルナの元へと歩み寄って水筒を受け取る。

 喉を大きく鳴らして冷たい水を飲み干すと、果実の爽やかな酸味と甘みが口いっぱいに広がり、体の内側から新しい活力が湧き上がってくるのを感じた。


「いい天気だな。こうして土の匂いを嗅ぎながら汗を流していると、なんだか体の底から力が湧いてくる気がするよ」


 ノアがそう言って笑うと、エルナも嬉しそうに真っ直ぐな視線を向けて微笑み返した。

 彼女の頬には土汚れが少しだけ付着していたが、それがかえって彼女の健康的な美しさを引き立てている。


「はい。ノアさんがこの村に来てくれてから、村の景色が以前よりもずっと明るく、美しくなったように感じます。ノアさんの火が、私たちの心まで温めてくれたんです」


 彼女の言葉は、いかなる打算も含まない純粋な感謝に満ちていた。

 ノアは視線を上げ、春のまばゆい陽光に照らされた村の風景をゆっくりと見渡す。

 笑顔で言葉を交わしながら畑を耕す村の男たち。澄んだ音を立てて森へと流れていく小川。そして、自分の足元で静かに息づく銀色の相棒と、隣で微笑む少女。

 ここには、王都の冷たい地下室では決して得られなかったすべてのものがある。

 誰にも見下されることなく、ただ自分のために火を灯し、誰かの笑顔のために働く日々。

 ノアは深く息を吸い込み、春の生命力に満ちた匂いを胸の奥底までたっぷりと満たした。

 彼が灯した小さな火は、もう誰かの身勝手な都合で奪われることも、冷たい闇の中で虚しく消されることもない。

 この温かな辺境の地で、大切な人たちを守るための穏やかな光として、永遠に燃え続けるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ