第七〇九話 新たな人類の拠点
過剰なくらいがちょうどいいと、森や沼地での食料生産が順調にすすみだした人類国。
これで今後人口は爆発的に増加しようと、肉はダンジョンや従魔契約による畜産で、森や沼地での穀物・野菜・果物で、国民全員を余裕で賄えるだけの食料を生産できる目処が立った。
その上で防衛も、手にいれた各陣営の領域を全て囲い込み、この地を狙って攻めてくる他大陸のモンスターとて、そうそう手が出せないように最低限の対策は済んでいる。
それでもやはり領土の広さと人口が釣り合っていないが故に、数による一点突破で抜けてきてしまうモンスターもいた。
「クエェェエエ…………────」
「さすが入ってきただけあって、そこそこの実力はあったな」
長距離飛行できるようにしたヒクイドリとでもいうべき見た目のモンスター。
それが何千羽と一斉に飛んできて、ボス個体が配下を盾にして対空砲をやり過ごして内側まで入り込んできたのだ。
数にして百羽以下まで減っているので、アイゼンの対空砲はしっかりと仕事はしてくれたようだ。
「せんせ、また強くなってる!」
「ブラット様、すごーい。魔導学の講義して欲しいなぁ」
「強すぎて、まだ俺じゃよく分かんなかったなぁ」
しかしモンスター側からすれば間が悪いことに、ちょうどブラットたちが近くにいるときだった。
そこで軽い運動がてら相手をしていると、ブラットの子供たち三人が応援要請を聞きつけやってきた。
三人が兄弟姉妹だからというよりは、将来有望だからこそ経験を積ませようと国側の意向で最近は一緒にいることが多い。
今回も確実に勝てる相手だろうと判断し、この三人にプラスしてその護衛が十人ほどついてきている。
なら全部取るのは止めておこうかと、ブラットが適当にあしらったところで、その子たちに経験を積ませ、糧稼ぎに使わせてもらった。
ゼイン流剣術使いの獣人『スコル』、魔法が得意な精霊『シエル』と、所属は生産部門ではあるが戦闘もこなせる、リザードワーフ(リザードマンとドワーフの混合種)の『ヴェルンド』。
さすがブラットの遺伝子を引き継いで生まれただけあって、三人とも周りに比べて群を抜いて優秀だ。
順調に進化をしてきたスコルだけでなく、まだ生まれてさほど経っていない長女と次男も既に国内で頭角を現してきていた。
長女シエルは母親と同じ知性派で魔導学にも適性があり、生まれながらにして高い魔法の素質をもっている。
魔法という分野においてはブラット隊をのぞけばトップレベルの才女であり、雷と風、氷の魔法を器用に使いこなし、自分の取り分として残されたモンスターをあっさりと狩っていた。
次男のヴェルンドは糧稼ぎのために、こうした狩猟任務にも参加したりしているが、基本的には生産職で既に国でもトップレベルの技術者として知られてきている。
アイゼンにもその才能を見込まれているようで、補助ユニットをヴェルンドの側につけて、遠隔で英才教育をほどこしているほどだ。
ヴェルンドはアイゼンのことを師匠と呼び、互いに師弟関係のようなものが結ばれていた。
「師匠。やっぱり第一領壁につけた、あの対空砲だけじゃ対処しきれてないみたいだぞ。ここはやっぱり、前に言ってた兵器を作ってみないか?」
「あれでスか。コスト面の問題もありマすかラね。それに第二、第三領壁の建造も終わっテません。やるとシても、その後にナるでしょう。
課題として、できるダけコストカットした兵器の設計図を提出してくダさい」
「わかった!」
物作りへの意欲も非常に高く、ヴェルンドは師であるアイゼンとさっそく打ち合わせをはじめていた。
その光景を温かく、ブラットとアデル、ヌイは見守った。
「生産部門もヴェルンドくんの登場で更に活気づいてきてるみたいだね」
「アイゼンも張り合いが出てきたみたいで、楽しそうにしてるし良いことだ」
「人類の未来も明るいわね」
年功序列ではなく、超が付くほどの実力主義の人類国では、年若いヴェルンドも既に開発事業をいくつか任され、実際に結果がではじめてもいる。
戦いも重要だが、国を支えてくれる人材の重要性も改めて意識させられながら、ブラットたちは次の視察場所へと向かった。
「こう言う場所も、もっと開拓していかないといけないよな」
「今後もっと人口を増やしていくというのなら、アイゼンやブラットが持ってくる素材だけで回していくのは不可能になって来るでしょうからね」
「さすがに新人の練習や普段使いの調理器具にまで、二人を頼るのはもったいないしね」
続いてやってきたのは採掘場。石材や鉱石を掘って、鍛冶、錬金、建築の分野で活用していく予定となっている。
現在は比較的に加工が簡単なものを優先しているが、ただの石材や鉄鉱石一つとっても、土地の力が強く働いてBMOの同素材よりもむしろ質が良い物ばかりだった。
採れる種類も多種多様で森林地帯、沼地帯それぞれの場所でしか採取できないもの。七大陣営それぞれが長く居着いたことで、各勢力の王だったモンスターの影響を受けた特殊素材もあちこちにある。
ブラットやアイゼンが現れるまで、爪に火を点すように資源をやりくりしていた人類国からすれば、想像もできないほどの状況になってきた。
「文字通り湯水のヨうに採掘できマすからね。海底にも鉱物はアりますし、これらノ地を守り続けらレれば、人類が素材に困ることは今後ナいでしょう」
「ゲームみたいにリポップするのを見たときは、ちょっとビックリさせられたなぁ」
七大陣営の各ボスたちによる大戦争で、森林地帯も沼地もほぼ更地状態になっていた。
なのにもう草一本生えていなかったような場所にも、既に木々が生い茂っているため特殊な木材なども入手できている。
蒸発してただの荒野となっていた沼地も、水に溢れた豊かな土壌が復活している。
そしてその再生力は地下に眠る資源にも適用されているようで、豊富な地脈の力を使って、鉱脈を掘り尽くしても数日後には新しい鉱脈が自然復活してくれる。
どれだけ採っても枯渇しないのだ。最初にそれを聞かされ、実際にその目で見たときは、ブラットですら開いた口が塞がらなかった。地球の常識では、絶対にありえないことであり、サバイバルゲームでもやっているような気分にさせられた。
ただ悪いことではないし、今後の人類にとってはプラスでしかない。それならどんどん採って有効活用していこうと、ブラットもすぐに採掘場建設にGOサインを出した。
「実際にそのおかげで、技術力の平均も高くなってきているらしいわ」
「鉱石かラ、インゴットへ加工する。それだけデも、その金属を知る勉強にナりますノで」
「失敗しても誰にも怒られず、のびのびやれるっていう精神的負担の低さも背中を押してくれている気がするね」
「これまでは、気軽に練習させてあげられるほど資源に余裕はなかったからなぁ」
多種多様な金属を生み出せるアイゼンは一人しかおらず、一度に生成できる量も限界がある。
ブラットもBMOでかなり資金的に余裕はあるが、それでも無尽蔵に素材を持ってこられるわけでもないため、できるだけ零世界で自給できない稀少素材を持ち込んでいる。
それらは零世界の住民にとっては貴重品であり、とてもではないが新人に触れさせることなどできない。
精々形になったものの組み立て作業に参加するくらいであり、なんなら熟練した技術者でも扱う際には失敗して駄目にしたら──と緊張を強いられていた。
だがベグ・カウが興味を示さなかっただけで、人類が手に入れた領土は世界的に見ても、他大陸から自分たちの縄張りを捨ててまで住みたがる一等地。
そこから得られる資源は膨大であり、新人は素材を使い捨てるような気持ちで練習ができるようになった。
熟達者も素材が消滅してしまうようなクレイジーな実験を気軽にできるようになったことで、人類国はこれまでの停滞していた歴史を塗り替える勢いで知識を育みだしている。
それもこれも土地からほぼ無尽蔵といっていい資源を、自由に採取、採掘して使い倒せるようになったからこそ。
「王由来の素材はいつか枯渇するんだろうから、あんまり浪費してほしくはないけど、そのあたりはちゃんと管理してるんだよな?」
「勿論でス。王たちの魔力が色濃く染みついてイるとはいエ、それもいなくナりましたかラね」
特に各王たちが塒として使っていたお気に入りスポットは、王たちの魔力が浸透しその土地の植物や鉱物にも影響を及ぼしている。
けれどその力の元がいなくなったことで、時間が経つにつれて抜けて変質していくことは確定だ。
もう二度と手に入らない素材だろうと、アイゼンも死蔵する気はないが、いくらでも湧いてくる素材より大事に使うよう各部門に通達、協力を求めている。
他の採掘場もアイゼンがお勧めしてくれた場所を視察しに行ったが、どこも順調に採掘作業が行われていた。
この調子なら、半年もすれば使い切れないほどの資源が、倉庫に溢れかえって、管理する者たちは嬉しい悲鳴を上げることになりそうだ。
そんな明るい未来を思い描きながら、ブラットたちは採取した素材を加工するための工場や、人の多いところでやるには危険な実験をするために、沼地の奥に建てられた研究場なども見て回った。
まだまだ建設途中なところも多いが、この短期間でよくここまでと称賛してしまうほど、アイゼンの差配で新しい国の下地がどんどん出来上がってきていた。
「それで最後は、やっぱりここだよな。けどこれはまた……えぇ?」
「何か気ニなるとこロでも? 今なラすぐ修正できマすが」
「いやぁ、ブラットくんが言いたいのはそういうことじゃないんじゃないかぁ」
「ええ、私もブラットの言いたいことが分かるもの。この速度で都市って、できるものなのかしら……」
最後に視察としてやってきたのは、ベグ・カウを倒し、その土地を奪うまでは暫定的に首都となる新しい人類の拠点都市。
凄いというよりは戸惑いが先に出てきてしまうほど、都市としての形が出来上がっていた。
七大陣営を倒してまだそれほど経っていない。だというのに今日から町として、こちらを本拠地として本国の住民を移住させても問題ないレベルの完成度である。
「まだドこも仮の建造物ばかりナので、そこマで驚かれるトは思っていませンでしたね。まだこレから、外縁が伸び続ける予定でスし」
「ここからさらに大きくなっていくのか」
「けど人口を増やしていくというのなら、確かにもっと広い方がいいわよね」
「窮屈な町は歩きたくないからねぇ」
一言で表すとしたら、『城塞都市』が一番近いか。ブラットでも容易く破れないほど、強固な城壁に囲まれている。
入ってきた門の横にある壁を【把捉の瞳】で確認してみても、アイゼンが気合を入れて作った前人類国の国壁よりもさらに頑丈だと分かる。
「なんかオーラみたいなのも見える気がするし、とんでもない壁だな。本当に建材として使うのかって思ってた素材なんかも、これに使われてそうだ」
「そうでスね。この都市が落とサれたら終わりダと想定して作られてイますから。
いずれはベグ・カウが攻撃を仕掛けてキても、しばラくは保つくらイにしたいとコろです。これでは、まだマだです」
「想定が高すぎる気がしないでもないけれど、確かにそれが理想ではあるわね」
「城壁に置かれた兵器も、一番外側の領壁にあった物より性能が高そうかも」
「はい。実際に海に行く前の私が作れル、最高の兵器ヲ設計しましたノで。でも今ならもっと……フむ」
イカの王と戦う前に捧げられた配下たちのおかげで、アイゼンは進化している。であるならもっと強い兵器が作れるはずだと、肩に乗っているアイゼン(の補助ユニット)はさらなる改良を頭の中で考え出して動きが止まる。
その間にブラットたちは、門からさらに進んで中央に見える王城というよりは、巨大要塞と呼ぶにふさわしい建造物を目指して進んでいく。
足もとは綺麗に敷き詰められた石畳……ではなく、石畳風の模様がついているだけで、実際はもっと硬いアスファルトとも違う物質で舗装されている。どこまでも平らで、綺麗にならされた良い道だ。
馬車のような凹凸に弱い乗り物でも、ここなら安定して走れるだろう。
「確かに近くで見ると、外側の家屋は仮住居って感じだな」
「すぐに撤去して、資材として使いまわせるように計算されているようね」
「無駄がないなぁ。さすがアイゼンくん」
門から入ってすぐの場所に建てられている真新しい家屋は、よく観察してみると建てるのも簡単なら、ばらすのも簡単な作りになっていた。今現在は、都市建設のための作業員たちがそこで暮らしている。
さらに都市には天然の川を利用した水路まで作られており、大量の物資を船で輸送することも想定して設計されているようだ。
そうすることで、各所で生産、採取、採掘された物資なども、リミナル・ウェッジの転移を使わずに、あちこちから一度に荷物の受け渡しができるようになる。
「旧人類国を最終的には海の方に伸ばシて港町に変えて、そチらとも水路と繋ごうと考えてイます」
「そこで採れた資源も素早く、こっちに送れるようになるのか」
「リミナル・ウェッジでの転移の方が早いデすが、個数や回数にも限りハありますかラね。日常的に使ウなら、水路を経由すルのがいいと考えたノです。
いずレは魔導列車を開発して、高速で行き来でキるインフラも作ってみタいですが、それはモっと落ち着いてからでシょう」
「水路は大きくて重いものを運んで、魔導列車は人や簡単な物の輸送って分ける感じなのかな。夢が広がるねぇ」
「本当ね。これからの人類が、どれほどの発展を遂げていくのか、未来が楽しみで仕方がないわ」
「そうデしょう。そうデしょうとも」
色葉の世界をスフィア越しに見せてもらったことで、魔導列車など見たことも聞いたこともないが、ヌイやアデルにもどういうものなのか想像がついた。
アイゼンも分かってくれますかとばかりに、ブラットたちの反応を見てご機嫌だ。地球やBMOの光景を見たことで、アイゼンのインスピレーションは止まらない。
より便利に、より豊かに。アイゼンには未来像が既に見えているようで、ちゃっかりと線路を敷くためのスペースを最初から確保しているらしい。
「それでここが、都市の心臓部か」
「立派なものね。こちらはもう外観は完成しているといった感じかしら」
「そうでスね。行政区に、司令本部がメインです。我々の居住区も、こちラですね」
中央の巨大要塞内には、様々な施設が出来上がっていた。
各部門の上層部が入ることになる行政区だけでなく、兵站の貯蔵や医療、研究を行うための区画も用意されている。
まさにこれからの人類国の中枢であり、最悪外の壁が全て突破されても籠城できるだけの避難物資が詰まった地下シェルターも完備している。
巨大要塞の作り自体も頑丈で、下手すると外の頑丈だと称賛した壁よりも壊すのに苦労しそうだ。
「ここはいずれベグ・カウのいるところに首都が移っても、第二の首都みたいな感じになりそうだな」
「早くブラットが治める王都を作りたいもノです。その頃には私ももっト成長しているでしょウし、ここですら見劣りする場所を作ってミせますよ」
「王都かぁ。そんな大層な人間じゃないんだけどな」
「ブラットは、その強さを見せてくれればいいのよ。そうすれば、人類はみんな貴方についていくわ」
「もちろん私たちもね。全力でブラットくんを支えるから安心してよ。
それに補佐ができそうな、これまで助けてきた導師たちだっていずれ復活するんでしょ? だったら余計にお飾りでも、いてくれるだけで国はまとまっていくはずだよ」
「アデルやヌイもいてくれるなら安心か。グリードやスフィアたちもいてくれるだろうしな」
ブラットも世界を救った後に全てを投げ出すなんて考えていない。
中身はただのゲーム好きの女子高生だったとしても、王として人類をまとめる御輿になれというのなら、やる覚悟だってある。
この世界はもう、色葉にとっても第二の故郷のようなものなのだ。全てが終わったからと、地球に帰って二度と戻ってこないなんて無責任だとすら思っている。
「そのためにも、ベグ・カウを。そしていい加減、ちょろちょろと鬱陶しいルインたちとも決着をつけていかないとな」
「そうね。ルインたちは私たちの糧にして、ベグ・カウ戦の準備に使わせてもらいましょう」
「だね。イカの王との戦いで結構稼げはしたけど、まだまだ足りないし。
他大陸のモンスター狩りも視野に入れておいた方がいいんだろうけど、やっぱりベグ・カウ以外だと一番の大物ってことになっていきそうだからね」
「そのくらいできなきゃ、ベグ・カウに勝つなんて夢のまた夢だろうしな。各所も順調に開発が進んでるみたいだし、明日からは本格的にルイン討伐に向けて動いていこうか」
「ええ」
「そうだね」
「お任せヲ」
アイゼンに関しては働き過ぎなような気もしたが、本人はむしろもっと忙しい方がいいとばかりに元気そうだ。
ならアイゼンはアイゼンの好きにしてもらえばいいかと、ブラットは小太郎にもルイン討伐に向けての相談を持ち掛けていった。




