表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第5楽章 魔術師と疑い

世界の隠れた仕組みが見える者は、見えぬ人々の目には、魔術師と映る。

 領主ネイピアの評判は、年を追って奇妙な色を帯びていった。


 彼は夜ごと窓に灯りを点し、何やら多くの数字を相手に、明け方まで何かを企てている。

 黒い雄鶏を飼い、話しかけている。

 箱の中に黒い蜘蛛を飼い、占いに使うともいう。

 彼が歩けば作物がよく実り、彼が睨めば井戸が涸れる。――村人たちは、領主を「メルキストンの魔術師(マーヴェラス・マーキストン)」と呼んで、畏れ、遠ざかった。


 ある年、城で銀の器がいくつも消えた。盗んだのは使用人の誰かに違いなかったが、誰か分からない。だがネイピアは騒ぎ立てなかった。ただ一羽の黒い雄鶏を連れてこさせ、その羽に厨房のかまどから取った煤を、たっぷりと塗り込めた。そして使用人たちを暗い納屋に集めて言った。


「この雄鶏は、嘘を見抜く。一人ずつ中へ入り、闇の中でこの鶏の背を撫でて出てこい。やましい者が触れれば、鶏は鳴く。潔白の者が触れても、鶏は黙っている」


 一人ずつ、納屋へ入っては出てきた。鶏は一度も鳴かなかった。使用人たちは顔を見合わせ、誰も咎められぬのかと訝った。だがネイピアは「手を見せよ」と全員の手を検分した。


 ほとんどの者の手は、煤で黒く汚れていた。ただ一人、汚れていなかった。盗人だけが、鶏が鳴くのを恐れて、暗闇の中で、その背に手を触れなかったからだ。


 村人はこれを魔術と噂した。だが、もちろんそれは魔術ではなかった。人の心の動きを読んだだけのことだ。やましい者は、罰を恐れて行動を変える――その必然を、彼は煤と闇の中に仕掛けた。世界には隠れた仕組みがあり、正しく仕掛ければ、隠れた真実は必ず姿を現す。彼にとって雄鶏も、聖書の数も、星の動きも、同じ一つの理のもとにあった。


 けれど、その明晰さは、彼を孤独にした。

 世界の隠れた設計図が見える者は、設計図の見えぬ人々の目には、ただの魔術師にしか映らない。彼が「これは理だ」と言っても、人は「魔だ」と聞いた。妻も子も彼を愛してはいたが、どこか理解を超えた人間だと感じてもいた。彼の頭の中で鳴っている、二つの数の列の歌を聴ける者も、一人もいなかった。


 夜、彼はしばしば北の窓辺に立った。眼下にエディンバラの灯。その向こうに、鉛色の海。海の上を、いつものように帆が一つ、ゆっくりと滑っていく。

 あの船は、どこかの港で、誰かの帰りを待たせている。世界は広く、時は短い。少年の日に骨で覚えたその感覚は、今や、止まった二つの拍子の重みを加えて、いっそう深く彼の中に沈んでいた。


 彼は知らなかった。自分の生涯の本当の務めが、まだ始まってさえいないことを。

続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ