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第3楽章 予言の書

世界の終わる日は計算できた。けれど、わが子の死期だけは、数えられなかった。

 帰郷したジョンは、メルキストンの領主としての務めを継ぎ、エリザベス・スターリングを妻に迎えた。スターリングは近隣の名家で、エリザベスは物静かな、けれど芯の通った娘だった。彼女は夫が深夜まで蝋燭を灯して数字と聖句に向かうのを、咎めもせず、ただ熱い葡萄酒を運んできて、肩に毛織りの掛布をかけた。


 やがて子が生まれた。長男アーチボルド。続いて娘。

 そしてある冬、双子の娘が産声をあげた。二人は鏡のようにそっくりで、片方が泣けばもう片方も泣き、片方が眠ればもう片方も眠った。ジョンは、その二つの小さな手が、別々でありながら一つの拍子で動くのを見て、あの算術書の二つの数の列を思い出した。離れていながら、見えない橋でつながっている二つのもの。


 だが、橋は途中で断たれた。


 その冬、双子は同じ日に熱を出した。ジョンは町から医者を呼んだ。医者は二人の薄い胸に交互に耳を当て、長いあいだ黙っていた。やがて顔を上げたが、ジョンの目は見なかった。それが、答えだった。


 蝋燭を灯し、彼は枕もとに座った。エリザベスは片方を抱き、もう片方の小さな手を握っている。二人の呼吸が、夜の底で、かすかに、ばらばらに鳴っていた。これまでは、眠るのも泣くのも、同じ拍子だったのに。


「ジョン」とエリザベスが囁いた。「数えてくださいな。この子たちの息を。あなたは、数えるのが得意でしょう」


 彼は数えた。一つ、二つ……間が、少しずつ伸びていく。三つ……四つ。やがて、片方の拍子が、数えるのをやめた。彼は声に出すのをやめ、残るひとつを数えつづけた。数えてさえいれば、止まらずにいてくれるかのように。


 明け方、二つめの拍子も、消えた。


 握った小さな手を、彼はいつまでも放さなかった。終わりの日を計算するために、何千、何万と数を数えてきたこの指で、わが子に残された息の数だけは、ついに、数えそこねた。


 それから数年の後、エリザベスもまた、静かに世を去った。


 彼は信仰によって自らを支えようとした。

 ジョンは、この頃スコットランドに根を下ろしつつあった新しい信仰に深く帰依していた。ローマ教皇の権威を離れ、聖書だけを拠りどころとする、プロテスタントの教えである。その導き手の一人ジャン・カルヴァンは、人の救いは善い行いで勝ち取るものではなく、世界の初めから神が選び定めている、と説いた。後に予定説と呼ばれる教えだ。すべては神の主権のうちにある。主は与え、主は奪いたもう。選ばれた者の魂は、すでに御許にある――その教えは、ジョンにそう告げていた。


 だが教えは、夜ごとの空白を埋めてはくれなかった。彼は、神の摂理を頭で受け入れながら、胸では受けとめきれずにいた。その引き裂かれが、後の年月、彼を机に縛りつける糸となる。

 悲しみを、ただの悲しみのままにしておくことが、彼にはできなかった。それを何か、人の役に立つものへと、変えずにはいられなかった。それにより自らの生を価値あるものとできたならば、その子や妻の魂も、また神の御許にあると信じられる。その確信を、彼は欲したのかも知れない。


 彼は『ヨハネ黙示録の解明』の執筆に没頭した。

 聖書の数を一つひとつ突き合わせ、ラッパと封印の年月を積み上げ、ついに世界の終わりを、一六八八年から一七〇〇年のあいだと弾き出した。彼自身の寿命の、はるか先。けれど、そう遠くもない先。

 この書物こそ我が生涯の務めである、と彼は信じた。一五九三年に世に出ると、それは実際に評判を呼び、幾度も版を重ねた。


  彼はその書を、スコットランド王ジェイムズ六世に献じた。巻頭に長い書簡を添え、王にむかって、宮廷からカトリックの影を一掃し、神の側に立つようにと、領主の分を越えてまで説いた。終わりの日が近いのなら、王たる者こそ、誰より先に身を正さねばならぬ――そう信じたからだ。

 数を読む者の務めは、書斎にこもることだけではない。彼は本気で、自分の計算が、国の行く末を変えうると考えていた。


 時代には、終末の不安が満ちていた。

 カトリックのスペインが、新教の島々を呑み込もうとしていた。ジョンは祖国を守るため、戦の機械を構想した。陽の光を一点に集めて敵船を焼く巨大な鏡。地を掃くように弾を放つ新型の砲。装甲をまとって進む車。

 だが彼は設計図を引きながら、ふと手を止めた。これは、人を殺すための数だ。世界の秘密を読むはずの数が、ここでは人を焼くために使われようとしている。彼はその図を、抽斗の奥にしまった。二度と取り出すことはなかった。


 やがて彼は、アグネス・チザムを後添えに迎えた。アグネスはよく笑い、よく働き、次々と子をなした。城には再び子どもの声が満ちた。けれどジョンの胸の奥には、あの日止まった二つの小さな鼓動への想いが消えずに残っていた。

続く

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