第30話 元婚約者からの手紙
ウエディングドレスの採寸をしてから数日後、マーガレットに王城から1通の手紙が届いた。
「お嬢様、王城から手紙が届きました」
「ありがとう、アン。でも、どうして…」
「あの、差出人なのですが…」
(まさか…)
困惑した表情のアンから手紙を受け取って確認すると、皇太子の印である、3枚のコマドリの羽根が小さな王冠に挿された形を模した蜜蝋で封がされていた。
つまり、この手紙の差出人は皇太子エドワードだということだ。
(元婚約者が一体何の用だろう?)
マーガレットはペーパーナイフで封を切って内容を確認する。
手紙には、マーガレットに婚約者として不適切な態度を取ったことへの謝罪と、エミリーの皇太子妃教育が進んでおらず、婚約を継続することが難しいこと、マーガレットさえ良ければ、自分はエミリーと婚約を破棄し、マーガレットを再度婚約者として迎えることが書かれていた。
(謝罪は受け入れるけど、婚約者がいる相手に婚約を申し込むとかありえないから!)
読み終えたマーガレットは、心の中で盛大に叫ぶ。
(手紙の内容も問題だけど、それよりもさらに問題なことがあるわね。これはアーサー様に報告案件だわ)
マーガレットは手紙をたたむと、アーサーの部屋に向かった。
「アーサー様、お時間よろしいでしょうか」
「もちろんだ、マーガレット」
「たった今、エドワード皇太子殿下から手紙を届きました」
その言葉に、アーサーがピクリと反応する。
「皇太子殿下から?」
「はい。こちらをご覧ください」
マーガレットから受け取った手紙を読み進めるうちに、アーサーの顔に青筋が浮かんできた。
(気のせいかしら、部屋の温度が下がっていく気がする…)
アーサーは気持ちを落ち着けるかのように息を吐き出すと、マーガレットに尋ねた
「君は、皇太子殿下の申し出を受け入れるつもりは…」
「ございません」
さながら、某大ヒット医療ドラマの孤高の女医のように、マーガレットはキッパリと答えた。
そのはっきりとした返事を聞いて、ようやくアーサーの表情を緩んだ。
「良かった。もっとも、私も我がノースフォード辺境領に貢献してくれた貴女を手離す気は更々ないがな」
アーサーのストレートな言葉に、マーガレットは少し顔を赤らめた。
「ありがとうございます。手紙の内容も問題ですが、それよりももっと大事な問題がございます」
「そのようだな。この手紙には、国王陛下の印章がない」
グレートブリテイン王国では、王侯貴族が他家へ書類を送る場合、当主の印章が必要であると法律で定められている。
つまり、王家の場合は国王の印章が必要なのだが、この手紙にはそれがない。
皇太子であるエドワードがそれを知らないはずがない。
もし知らないとすれば、それはそれで次期国王としての資質に問題がある。
「この件は、国王陛下にご報告しなければならない。マーガレット、証人として一緒に王都に行ってもらえるか?」
「もちろんです」
マーガレットは力強く頷いた。




