第31話 再びの王都
それから、アーサーは国王陛下に謁見を申し出る書簡を作成し、早馬で王城に送った。
同時に、マーガレットは父のフレデリックに、これまでの経緯と王都の屋敷に滞在させて欲しい旨を書いた手紙を送った。
1週間後。
「マーガレット、国王陛下との謁見が決まった!10日後だ!」
そう叫びながら、アーサーがドアを勢いよく開けながらマーガレットの部屋に入って来たので、驚いた彼女は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「…アーサー様、ノックをしてください」
マーガレットは眉をひそめて苦情を言うが、アーサーが気にする様子はない。
「ああ、すまない。あのバカ皇太子殿下の所業を陛下にお伝えできるのが嬉しくてな」
「お気持ちは分かりますが、不敬罪になりますよ…。私の方も、ちょうど父から返事が届いたところです。王都の屋敷に滞在できるよう、準備しておくと快諾してくれました」
マーガレットは読んでいた手紙をアーサーに示した。
「そうだろうな。出発は3日後だ。準備を頼む」
「はい」
その後、結婚式の準備はセバスチャンとアンに、開校準備はアダムたちに引き継ぎ、2人はオリヴァーを護衛として王都に出発した。
謁見日の前日、一行は無事に王都の侯爵邸に到着した。
「お父様、お久しぶりです」
「マーガレット、元気にしていたかい?アーサー殿、遠いところ、娘の為にありがとう」
「レスター侯爵、ご無沙汰しております。婚約者として当たり前のことをしたまでです」
アーサーの頼もしい返事に、フレデリックは満足げに頷いた。
「長旅で疲れただろう、マーガレット。顔色が少し悪いようだね。明日に備えて、今日はゆっくり休みなさい」
マーガレットの顔色が悪いのは、長旅の疲れだけではない。
この世界の道路は舗装されておらず、馬車はガタガタと大きく揺れる。
今までは時間に余裕があったので休憩を挟みながらゆっくりと移動できたが、今回はそうはいかなかった。
スピード重視で乗り心地は二の次だったため、彼女は馬車酔いしていた。
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
マーガレットは礼を言って、久しぶりの実家でゆっくりと休んだのだった。
いよいよ謁見日当日。
「アーサー•ノースフォード辺境伯閣下並びにご婚約者マーガレット•レスター侯爵令嬢でございます」
近衛兵の合図で2人が謁見の間に入ると、国王陛下とエドワード皇太子の姿があった。
アーサーが代表して挨拶をする。
「国王陛下、皇太子殿下におかれましては、ますますのご健勝のことお慶び申し上げます」
「良い。此度は、私に上奏したい旨があるとのこと。遠慮なく述べよ」
「ありがとうございます。我が婚約者、マーガレット嬢が皇太子殿下からいただいた手紙につきまして、申し上げたいことがございます。まずは、その手紙をご覧ください」
そう言うと、アーサーは懐から封筒に入った手紙を取り出し、国王の側近に渡す。
それを側近から受け取った国王は、一通り目を通した後、ため息をついて額に手をやった。
「エドワード、彼女にこの手紙を送ったのは間違いないな?」
父王の冷ややかな問いかけに、エドワードは震える声で答えた。
「はい。間違いございません」
息子の返事を聞いた国王は、再び深いため息をついた。
「まずはマーガレット嬢。愚息が大変迷惑をかけた。申し訳ない」
「とんでもございません」
国王直々の謝罪に、マーガレットは慌てた。
「エドワード。この手紙には、内容以外にも重要な欠陥がある。分かるか?」
自分が書いた手紙を見せられたエドワードは怪訝な表情をしていたが、はっと目を見開いた。
「陛下の印章がありません」
その答えに頷いた国王は、再びマーガレットに向き直った。
「愚息には、相応の処分を下す。それで手打ちにしてくれまいか?」
「承知しました。陛下のご判断におまかせ致します」
「うむ。遠路はるばるご苦労であった。下がってよい」
2人は恭しく頭を下げると、謁見の間を退室した。




