第28話 忘れていたこと
教師陣たちと開校準備や生徒の募集で忙しくしていたある日、マーガレットはアーサーに呼び出された。
「マーガレット様、閣下がお呼びです」
「セバスチャン、ありがとう。すぐに伺うわ」
今までマーガレットがアーサーの部屋を訪ねることはあったが、アーサーから呼び出されたことはなかった。
何か問題が起きたかと不安になりながら、マーガレットはセバスチャンの後について行く。
「アーサー様、お呼びでしょうか」
「あぁ。学校の準備は順調かな?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かった。ところで、君はこのノースフォード辺境領に何をしに来たか覚えているかな?」
「……あ」
しばらく間をおいて、マーガレットの口から令嬢にあるまじき間抜けな声が漏れた。
経緯はどうあれ、マーガレットはアーサーと結婚するためにやって来たのだ。
しかし、到着後の騎士団員たちの治療やら農業改革やらですっかり忘れていた。
婚約期間は1年。やって来たのが初夏で、今はもう春になろうとしている。
結婚式まで残り数ヶ月しかないにも関わらず、何も準備をしていないことに気付いてマーガレットは青ざめ、慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません!すっかり忘れていました!」
恐る恐る顔を上げると、なぜかアーサーはにやにやしている。
「私はマーガレットとの結婚式をかなり楽しみにしているのだがな。貴女の様子を見て、失念しているのではないかと思った。まぁ、ノースフォード辺境領のために尽力してくれていたのだから仕方ない。そこでだ」
アーサーがさっと右手を挙げると、控えていたセバスチャンが扉を開けた。
すると、アンが3人の女性を連れて部屋に入ってきた。
「彼女たちは、王都の有名なオートクチュールの店のマダム•コネットだ。無理を言って、ウエディングドレスを作ってもらうように頼んである。時間がないから、今から採寸とデザインを決めてもらう」
いきなりの展開に、マーガレットは目を見開いた。
「マダム•コネットって、王家御用達のあのお店ですよね!?いくらかかったんですか!?」
「私のポケットマネーだから構わない」
「そうかも知れませんけど…」
マーガレットとて若い貴族令嬢だ。美しいウエディングドレスを着れることに文句などあるはずもない。
「…喜んでくれないのか?」
アーサーが不安そうな表情をしているの見て、マーガレットは微笑んで答えた。
「いえ、突然のことに驚いただけです。ありがとうございます。とても嬉しいです」
「そうか、良かった」
その場の空気が緩んだところで、コネットが口を開いた。
「それでは、別室で採寸をいたしましょう。マーガレット様はスタイルがよろしいから、腕がなりますわ」
それから約2時間、マーガレットはコネットたちちの着せ替え人形になったのだった。




