散文詩 123 「テレビのリモコン」
日々、心に残ったことを文字にしてみた
「テレビのリモコン」
父の部屋のテレビのリモコンがなくなったと母から電話があった。
引き出しからクローゼットの上着のポケットから
何から何まで探したが見つからない。
全く見つからないから、父は母のせいにして怒り出していると言う。
いつものSOSで私は緊急出動した。
家に到着して父の顔を見て驚いた。鼻筋と顎の傷から血が出ていたのだ。
昨日、ベッドの脇のサイドテーブルに手をついて転んだらしい。
また転んだのかと父の衰えぶりに悲しくなるが、
父の唯一の娯楽であるテレビのリモコンを探してやらないといけない。
いつもサイドテーブルに置いていたのになくなったと言うから、
ベッドの脇から探し始めた。
部屋の隅をふと見ると、何か黒いものが置いてある。
手に取るとやっぱりテレビのリモコンだった。
リモコンの裏側は真っ黒だから床と一体化して見えなかったのだろう。
捜索開始から数十秒で捕獲完了、捜索終了である。
おそらくサイドテーブルに手をついて転んだ時に、
リモコンが部屋の隅に飛んでいってしまったのだろう。
父は加齢黄斑変性と診断されて数年経っている。
加齢黄斑変性は視野の中心部が黒くぼやけてしまうそうだ。
治療薬はなく、良くなることはない。
父の目はかなり見えなくなっていて、目の前にある物も見つけられないのだ。
リモコンが見つかると、父は仲の悪い母に
「お母さんのせいにしてごめん」と言った。
お先真っ暗かと思ったが、まだ謝る心が残っていてほっとした。




