散文詩 118 「留守番電話」
日々、心に残ったことを文字にしてみた
「留守番電話」
私の母の兄の娘チー姉ちゃんにはお兄ちゃんがいる。
アキ兄ちゃんはスポーツ万能で優しくて、よく遊んでもらった。
でも若い時から心臓が悪く、晩年は一人暮らしをしていた。
2月8日にチー姉ちゃんが、アキ兄ちゃんの家を訪ね、
一人で亡くなっているのを発見した。
検視の結果、死後10日経過しているということで1月28日が命日になった。
ところが私の母は、2月にアキ兄ちゃんから電話があったと言う。
固定電話の留守電に「あき・・」と絞り出すような小さな声が入っていたという。
その時、母は随分久しぶりに連絡があったので、
折り返そうとアドレス帳を探したが、
電話番号がわからずにそのままになっていたそうだ。
固定電話の着信履歴を見ればかけ直すことができるが、
母にはその知識がなかった。
私はチー姉ちゃんにアキ兄ちゃんの電話について聞いてみた。
アキ兄ちゃんの携帯を調べたら、
去年の9月1日に母のところに電話を掛けた履歴が残っていた。
でも2月に掛けた記録はない。
母の固定電話の着信履歴はすでに消えていて、
留守電のメッセージも消去したので復元できない。
今ある確実な証拠は、
アキ兄ちゃんの携帯には2月の発信履歴がないということだけだ。
だから証拠からすると、アキ兄ちゃんは2月に母に電話を掛けていないのだ。
母の勘違いで一件落着、となるところだが、母は絶対に2月に電話があった、
今も声が耳に残っていると言って引き下がらない。
母を見ていると私も2月に電話があったのではないかと思う。
1月28日は推定死亡日だから、正確な命日ではない。
数日の誤差があり、アキ兄ちゃんが2月1日に生きていてもおかしくはない。
最後に仲の良かった母に電話をしたのではないだろうか。
アキ兄ちゃんの携帯には2月の発信履歴がなかったことを母に告げると
「じゃあ違うところから掛けてきたんだね」と母は言う。
チー姉ちゃんに確認したが、アキ兄ちゃんの家に固定電話はなかったそうだ。
母に携帯電話しかなかったから他の電話からは掛けられないんだって、と言うと
「だから違うところだよ」とまた言う。
母は時々、冝保愛子みたいになる。




