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透明X-お負け編-  作者: 文月/尋道あさな


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第2話 羽柴充――制裁


「役に立ちそうなハナシがあるならぁ、ちょーっと手加減してあげる」


 靴を履いたままの爪先で達哉の口を塞いでいた布を下げる。


 砂場に横たわる達哉の口内には当然の如く砂が入り思わず咳き込むも、


 充はつまらなそうに見下ろすだけで助けてやろうとはしなかった。


「げほっ……」

「なぁんかナイの?好きな食べ物とかぁ、嫌いな食べ物とか」

「ごほっ……ぐっ……」

「はーやーくー。答えらんないならお前ら用済みなんだけど」


 鉄パイプは達哉の頬を何度も叩く。


 その度に砂が舞い上がり、達哉は涙目になりながら息苦しさを訴えることしかできなかった。


「酒田ぁ。そっちの蹴って」

「了解です」


 嬉々として恭平の腹部に爪先を向けた酒田は鈍い音を出しながら


 二、三発続けて蹴り上げた。


 砂場のふちの石に頭を打ち付けた恭平は


 激痛に身を捩りながら唸り声を発する。


「あーあ。早くお前が答えないと、キョーヘイが苦しむコトになるよ?」

「わ、わかりまっ……」

「なぁに?」

「わかっ、わかりません……!」

「マジ使えねぇな」


 達哉は慌てて答えるも、その内容は充が満足できるようなものではなかった。


 落胆の息を吐き出して充は達哉の背中に腰を下ろす。


「っ……!は、羽柴さ、」

「酒田ぁ、先に準備しろ。今日木刀もあったよな?」

「木刀と……あと出すの3種類で大丈夫ですか?」

「それで充分だろ。煙草もな」


 手を出した充に酒田は頷き煙草の箱を渡した。


 次いで、ポケットからジッポを取り出し煙草を咥えた充に火をつける。


「俺に負けたって証拠な。忘れんなよ」


 二回程度吸った煙草を指先で挟み方向を逆に向ける。


 Tシャツを乱雑に捲り、充は達哉の背中を晒した。


「はい、コレ噛んでー」


 口を塞いでいた布を達哉の口内へ捩じ込んで、合図もおざなりに背中の後部に押し付けた。


「――――うぁッ……!」


 叫びもままならない達哉はただ呻くことしかできず、


 数少ないライトの逆光で顔の見えない充に恐怖から来る震えが止まらなくなった。


 意気揚々とした態度で木刀を2本と袋を手に戻って来た酒田は、


 恭平の前に座って後頭部を自身の革靴で踏みつける。


「これからはあんま関わって来んなよー。羽柴さん怒らせると怖ぇから」


 慣れた手つきで手袋を嵌めて、恭平に木刀の柄を握らせた酒田は鼻歌混じりに袋を開ける。


 そこから出てきた刃渡り十二センチのサバイバルナイフとスタンガンを同じように握らせて、


 恭平の指紋がつくように丁寧に『作業』を済ませていく。


 その真横で高温の煙草を押し付けられた達哉は芋虫のように身動ぎしながら、充の制裁に耐えていた。


「今日は一個にしといてやるよ」


 平淡な声色で話す充は状況に歓喜も悲痛も感じていなかった。


 じゅ、と小さく音を立てて達哉の肌に押し付けられた煙草は


 完全に火が消えるまで強く押され、灰で黒ずんだ火傷が出来上がる。


「次、お前な」


 達哉から離れ恭平に近付いた充は、恭平の顔がぐしゃりと歪んだことに薄笑いして前髪を掻き上げた。


 先に制裁を受けた達哉は真っ赤な顔をして荒く鼻で息をする。


 酒田が近付いても反応すらできない程に、痛みに意識が混濁していた。


 恭平にしたことを達哉にもして、酒田は指紋をつけていく。


 その隣で充は退屈そうに欠伸をしながら恭平の顔を踏みつけた。


「あー……早く会いてぇな……」


 見上げた夜空は真っ暗で、星すら見えない闇だった。


 ふっと浮かんだ彼女の顔は不機嫌でも上機嫌でもない冷めた普通の表情で、充の胸にしっとりと甘美な色を広げていく。


「お前らの怪我は『お前らに襲われた』俺らの正当防衛って形になるから警察行っても無駄な。火傷は『事故』で宜しく」


 酒田は何でもないような口調で二人の少年に告げた。


 本腰を入れた警察なら逮捕もできるだろうが、


 達哉と恭平が先に仕掛けた証拠である奇襲時の写真と


 達哉が起こした表沙汰になっていない数々の傷害と器物破損の証拠は既に手回しの時に集められていた。


 ピアスがついた舌を出して、充は二人を振り返る。


「次は顔の原型無くなると思え」


 一回目は充からすれば軽い制裁だった。


 柏木鈴子の性格を思い出せば、少なくとも『知り合い』であった二人に全治数ヵ月もの怪我を負わせることは憚られる。


 充から見た軽傷と鈴子から見た軽傷には差があるのだと聡い充は気付いていた。


 鈴子と出逢って数週間、これが一度目の制裁だった。


 後に、愚かで馬鹿な二人は鈴子を使って充を動かそうと画策する。


 それが『二度目』を引き起こし、


 鈴子の知らぬ所で恭平と達哉はひどい怪我を負うことになる。


 そして――


「右目、失明したらしいですよ」


 酒田はくつくつと笑って充に告げた。


「んー……どれが?」

「芝原の二人です。達哉の方、やっぱり顔にフルスイングは利きますね」

「そんなコトしたっけ?」

「してましたよ。釘打ちしたバットで。ほら、恭平の方は硬球で……」

「あー……的当てのヤツ?」

「そうですよ。――到着しました」


 早朝の朝焼けが目に痛い時刻、


 充は触っていたスマートフォンをポケットに直して車を降りた。


 身体を解すように背伸びをして、今にも蕩けそうな笑みを滲ませる。


「お疲れさま、りーんちゃん」


 それはそれは甘ったるく胸を焦がすような瞳でゆるく腕を広げ、愛しい彼女を迎え入れた。


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