↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明X-お負け編-  作者: 文月/尋道あさな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/19

第1話 羽柴充――自分自身

 ――やりたいことをやって何が悪い。


 羽柴充(はしばみつる)は典型的な利己主義者だった。


 エゴイスト。


 自分のことしか考えていない俺様気質は、そのうち周りに距離を置かれ、気付けば一人になっていた。


 母親からの歪んだ愛情を一身に受けて、徐々に羽柴充は狂っていった。


 自身に喧嘩を売る者が現れたのなら、完膚なきまでに叩きのめす。


 そうすることが自分の中での『当たり前』だった。


 自身が凶器を持つなら例え相手に殺されても仕方がない、


 覚悟というには当たり前過ぎる考えだったが、それは周囲からすれば異常なものにしかならなかった。


 複雑な家庭環境で育ったと客観的には思うものの、充はそれを悲観することなどなかった。


 ――だから、何だ?


 そう思えるのはある種の諦めでもあり、充が唯一持っている『普通』の感情を消さないためでもあった。


 兄弟が居ようが母親が死のうが、羽柴充は羽柴充でしかなく、


 生きてきた人生は『羽柴充』としてのものでしかない。


 経歴で同情を買うよりも、悲観し可哀想な人間を演じるよりも、


 何より充はありのままで自由に生きることを欲していた。


 母親への罪悪感を抱き、女の誘いを断らない。


 それが『俺』だ。


 狂気的と言われようが対峙した相手は徹底的に潰す。


 それが『俺』だ。


 飄々とした態度で愛想を作り、相手を油断させる。


 それが『羽柴充』だ。


 そうやって生きてきた。


 隠さず、取り繕わず、


 まっさらな自分を見せて来た。


 そんな自分に滝川悟(たきがわさとる)は言った。


 ――我慢してねーとこがすげぇ。


 安形龍(あがたりゅう)はこう言った。


 ――自由過ぎんだろーが。


 否定も肯定もせず、それが羽柴充だと二人の後輩は言い切った。


 深夜1時。


 ホテル街の奥にある人目の少ない公園に一台の黒いバンが停車していた。


 手足を縛られた少年二人は呻き声を挙げながら芋虫のように身動ぎする。


「そぉんな心配しなくても、芝原の奴等は美崎とその他が可愛がってるからぁ」


 充はけらけらと笑って、拘束された達哉の鳩尾《みぞおち》に足を押し付けた。


 公園の砂場に横たわっている少年二人は闇夜に浮かぶ月を背負い、歪に笑う羽柴充に恐怖を感じていた。


「――酒田ぁ。煙草持って来い」


 充はシンと静まった公園で自分の下についている酒田に声を掛けた。


 酒田は頷き車に戻り、数秒してから煙草を手に戻って来た。


「お前らさぁ、都波と光渦の休戦知ってるよなぁ?俺が前のアタマと懇意だったってことも」


 しゃがみ込んで充はそう言った。


 恭平と達哉は瞳を揺らして浅く頷く。


 それを見た瞬間、充の手に握られていた鉄パイプが恭平の足を強打した。


「バッター振りかぶってー……とか、ちょーっとふざけてあげようかッ」


 思い切り振り下ろしたそれは達哉の背中を痛め付け、悲鳴にならないくぐもった声を響かせる。


「さぁて、まずお前。自分がしたことには責任持とうねぇ。奇襲かけたんなら報復されんのは当たり前だろ?」


 ぐりぐりと鉄パイプを腹部にめり込ませながら充は達哉に話し掛ける。


 口を塞がれている二人に返事をすることはできず、唸り声だけが充に届いた。


「なに言ってんのか聞こえなぁーい」


 にたりと笑って達哉を蹴り上げた充へ酒田が口笛を吹いて茶化す。


「そりゃ、口塞いでるんですから喋れないですよ」


 口角を上げた酒田は煙草を一本銜え、自身のジッポで火を付けた。


 吐き出した紫煙は空へ昇り、酒田はそのまま二人に近づく。


「俺、手ぇ出しちゃ不味いですか?」

「まだだーめ」


 退屈しのぎをする少年のようにわざとらしく無邪気な声を出しながら、充は達哉の背中に足を置いた。


「ねぇ、キミらさぁ……」


 ゆらりと影が動いて充の足は達哉の背中に強くめり込んでいく。


 傍らでそれを見つめる酒田にも慈愛の笑みはひとつも浮かんでいなかった。


「ガチで柏木鈴子のコトなぁーんも知らないんだねぇ。少しくらい役に立ちそうなハナシ持って来いよ」


 ゆっくりと、それでも確実に充は柏木鈴子(かしわぎすずこ)に惹かれていた。


 本気になれそうだと感じていた予感は見事に当たり、充は鈴子に好意を抱いた。


 それでも、充の用意周到で綿密かつ粘着質な手札《てふだ》は通用しなかった。


 調べてもこの街が『地元』でない鈴子の情報は微々たるもので、過ごした半生の一割も掴めていない。


 交際していたはずの恭平と鈴子を生け贄にした達哉ならば


 多少は知っているだろうと思っていたアテも外れ、二人の少年は素っ頓狂なことしか口にしなかった。


 恭平いわく『従順で大人しい女』


 達哉いわく『都合の良い女』


 どちらも鈴子の本質ではなく、充が接した相手はそんな性格をしていなかった。


 充の評価は『くせになる女』


 酒田の評価は『恥ずかしがりな女』


 タキから見れば『ツンデレ』で、


 龍から見れば『勝ち気な女』だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。