第11話 酒田弘和/我妻百合――Steady
いつも連絡がつかなくて、調子の良いことばかり言って、花の高校時代までもを滅茶苦茶にされている。
もしも違う人と付き合っていたら、こんなに寂しい思いはきっとしなかったし、都合の良い女扱いに甘んじることも恐らく……いや、絶対になかったはずだ。
元々、大人しい性格とは言えない方で暇さえあれば出掛けたいと思うタイプだったのに、奴と出会ってからの私はまるで従順な犬みたいで。
連絡を待って、いつでも会いに行けるように準備をして、呼ばれたかと思えばすぐに別の人に呼び出されていなくなる。
何をしてるのか聞いても、一切教えてはくれない。
だけど、それでも待つしかないのは私が奴に惚れてるからだ。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
電話を終えて、ヒロはベッドからするりと抜けた。
ああ、聞こえた。いつもの声だ。いつもの命令口調の男。
ヒロが必ず駆けつけるのは、その男の電話だけ。
たまに違う男からも掛かってくるけれど、その時は私を優先してくれる。
「……ヒロ」
「ごめんな。良い子にしてろよ」
脱ぎ捨てたシャツをヒロは着て、鍛えられた身体は呆気なく見えなくなった。
もう少しだけ、見ていたいのに。
そんな小さなワガママも今だけは許されない。今の電話の男の時だけ、ヒロは私にワガママを許してはくれなかった。
「すぐに戻る。遅くなりそうならまた連絡するから」
どうせ、しないくせに。
『ハシバさん』といるときは私に連絡なんかしないくせに。
恨めしげに睨む私に気がついて、ヒロは私を抱きしめた。
生肌じゃない、服の感触。
気持ち良いとは言えなかった。
なのに、急に泣きたくなって、ヒロの身体を無理やり押し返す。
「いいから、行って」
次に会えるのはいつだろう。今日も私はひとりでホテルを出るのだろうか。
毎回、一泊してからひとりでホテルを後にする寂しさをヒロはきっと知りもしない。
「ユリ」
「行ってよ」
聞き分けの良い彼女でいたい。
ヒロに嫌われたくはない。
ワガママだって言いたいけど、ヒロの重荷になってしまうくらいなら我慢した方がずっとマシ。
別れることなんて、離れることなんて、これっぽっちも考えたことはない。
だから、困らせるのは嫌だった。
苦笑して、ヒロはいつものようにお金だけを置いていく。
ホテル代は毎回ヒロが出してくれているけれど、もしも邪魔が入らない一日を過ごせるというならば、私はどんなに頑張ってでもお金を稼いだことだろう。
アルバイトはしないで欲しい。
いつでも連絡がつくようにして欲しい。
連絡がつかなくなるときは、予め今から何をするのか予定をメールして欲しい。
自分は連絡がつかないくせに、私にはそう言って。
だけど、面倒臭いヒロのお願いを私が破ったことは一度もなかった。
朝まで待ってもやっぱりヒロは帰ってこない。
予想はしていたけれど、毎回虚しくなってしまう。
今なにしてるの?
そんな問いかけをメールでしたら、ヒロは返してくれるのだろうか。
ホテルを出て家に帰る。
携帯片手に道を歩いて、自宅に着くまでに私は新規作成したメールを結局送ることができなかった。
今日もまたひとつ寂しさが溜まっていく。




