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ゲート付近は広い広場になっていて、そこから3方に道が伸びている。中央の道に家が立ち並び、左右は病院などの必要な施設が並んでいた。ハスミは何を考えているのか中央の道をまっすぐに進んでいった。アサヒがその後を恐る恐るついて行く。
しばらく歩いたところでハスミがつまらなさそうに呟いた。
「何もないね」
「あ、ああ。そうだな」
ここまで歩いてきて見たものは1人用の家の外観だけで、人はおろか生活をサポートする機械すらいない。家から人の気配はするので無人の街というわけではないのだが、常に人が行き交う軍の基地とは違う閑散とした光景に2人は戸惑いしかなかった。
「なあ。特に何も無さそうだし、そろそろ帰ら…」
「しっ!」
急にハスミに手を引かれて近くにあった家の庭へと連れて行かれるアサヒ。草陰に押し込まれると先ほどまでいた道を掃除ロボットが通って行った。
「軍で使われてるのと同じか」
「そうだな。ほら。そんな珍しいもんは見れないって。帰ろう」
ロボットが通り過ぎるのを待って道へ出ようとしたアサヒだが、立ち上がろうとした瞬間頭上にある窓が開いた。
「ッッ!!」
「?……君達、何やって……?」
顔を覗かせたのは、以前街で話しかけてきた男性だった。2人を見つけて驚いている。
「こんにちは。俺達、居住区のことが知りたくて来たんだ。家の中を見せてくれない?」
男性の戸惑いも気にせずハスミはケロッと要求を口にする。一瞬呆気に取られたあと、男性は「裏口にまわりなさい」と鍵を開けに行った。
招き入れられたのはリビングで、ハスミは物珍しいものがないかとキョロキョロしている。だがテーブルとソファ以外ほとんど物がなく、なんとか2人座れるサイズのソファにアサヒ達を座らせると男性は床に腰を下ろした。
「それで?どうやってこっちにきたんだ?」
「ニセのパスでゲートを開けた。簡単だった」
まるで悪びれる様子もないハスミに男性は頭を抱える。
「何考えてるんだ……除隊になってもいいのか?」
「バレなければ大丈夫」
「………君のパートナーが可哀想になってきた」
「ヨルガは俺が何しても『仕方ないなぁ』って嬉しそうにしてるから大丈夫」
たしかに言いそうだとアサヒも頭を抱えている。言うなればヤトとシャナの逆パターンで、ヨルガはとにかくハスミを甘やかす。それでいいのか?と疑問は絶えないが、特に上が問題視している様子はない。
「……そうか。まあ、そうだな。君がそう育ってるんだから、そうなんだろうな」
どこか諦めたように放たれる男性の言葉に少し引っ掛かりを覚えるアサヒだが、自分に話を振られてすぐに気を逸らしてしまった。
「そっちの君は?君もこっちに来てみたかったのかい?……あれ?君は……」
まさかの居住区侵入への驚きで気づいていなかったが、やっと男性はアサヒが以前声をかけた少年だと気づいた。
「6枚羽を排除できる優秀な子が、まさかこんな不良少年だったとは……」
「いや!違います!コイツが同じ班だから心配でついてきただけです!ほんとはすぐに帰りたい!」
ほんとに迷惑していると全身で表現するアサヒに男性は少し笑ってしまう。そしてハスミのほうを向いて話を続けた。
「それで、こっちに来てみてどうだ?何か面白いものはあったか?」
「何もない。基地の方が色々揃っててよっぽと面白い」
「そうだろう。ここは棺桶みたいものだからな」
ふと寂しそうな表情を見せて男性が呟いた。だがそれも束の間で、優しく笑うと2人に裏口から出て行くように促した。
「なら、早く向こうに帰りなさい。パートナーが心配しているよ」
まるで自分のほうが追い出された側のように男性は2人を元来た道へと戻す。
そしてまだ見たいと渋るハスミを説得し、アサヒはゲートの向こうへと帰って行った。
翌日。居住区へ行ったことを隠しているアサヒはぎこちない態度で夕方に戻ってきたフユを出迎えた。
「ただいま〜。アサヒ、俺がいなくて寂しくなかった?」
「あ、ああ。何も問題なかったぞ」
あまりの白々しさに流石にバレるかと焦るアサヒに、フユが何かに気づいて近づいてきた。
「アサヒ、なんか変」
「そ、そうか?別に何もないぞ」
「何か隠してる」
「な、何も隠してないぞ!」
やっぱりバレたかと観念しそうになるアサヒの頬をフユがつねった。
「昨日お菓子食べすぎたんでしょ!ちゃんと決められた量は守らなきゃダメって言ってるでしょ!アサヒは糖質控えなきゃダメな体質なんだから!」
頬をグニグニ摘まれ、太ってないか確認されながら小言を言われる。まさかの展開にアサヒは呆気に取られていた。
「俺が点検の時は1人で街に出れるからって、お菓子買っちゃダメって言ったでしょ。何買ったの?」
「……え、えっと、これを……」
ひとまず居住区に行ったことを誤魔化すために買っておいた砂糖菓子の袋を出してみる。カラフルな粒を見ながらフユは口を尖らして袋を没収した。
「またこんなの買って。量は俺が管理するからね」
プリプリと怒りながらフユは袋を棚へとしまう。どうやら居住区に行ったことはバレなかったみたいだとアサヒは胸を撫でおろした。
それからは居住区に侵入したことは夢だったのではないかと思うほどいつも通りの日々が過ぎて行った。だが男性の態度や簡単に侵入できたことなど、アサヒには言葉にできないモヤモヤが日々積もって行く。
そんなモヤモヤについて考えながらぼんやりと以前買ったガラスの鳥を見ていると、フユが部屋に戻ってきた。
「それ正解だったね。光が反射するとすごく綺麗」
「そうだな。疲れてる時に見ると癒される」
ふぅっと息を吐くアサヒに「あんまり頑張りすぎちゃダメだよ〜」とフユが肩を揉むと、聞き慣れたアラートが部屋に響いた。
『第5地区にハチが1体出現。8枚羽が1体。全ての班はただちに出撃してください』
「8枚羽⁉︎」
ほとんど出現記録のない8枚羽の襲撃にアサヒが驚きの声を上げる。
それを聞くか聞かないかのうちにフユは駆け出した。
「フユ!」
「行ってくる!アサヒは絶対部屋出ちゃダメだよ!」
風のように部屋を出ていく姿に手を伸ばすが、目の前でドアが閉められロックされた音が響いた。
「ロックがかけられた?……8枚羽だから?」
普段はハチの襲撃中でも扉がロックされることはない。それほどの非常事態なのかと、恐怖と不安でアサヒの額に冷や汗が流れた。
フユがスーツを着て屋上に行くと、すでに9班の3人が揃っていた。
「8枚羽だって?全員で行くのか?」
「いや。まずは私達が尖兵として出撃する。他の班は全員揃い次第すぐに追いかけてくる予定だ」
指示もそこそこに飛び立つ4人。
ほどなくして会敵したハチは2メートルはゆうに超える大きさで、記録との違いに9班のメンバーは戸惑う。幸い街まではまだ距離があり酸の放出もまだだったので、すぐに排除にかかることになった。
「戦闘の記録は数えるほどだからな。他の機械兵が来るまで足止めできれば十分だ。ヨルガが機動力で惹きつけて、ヤトとフユがサポートしてくれ。私は隙をついてなるべく多くレーザーを撃ち込む」
「「「了解」」」
カムリの指示に3人はすぐ行動に移り、ヨルガがハチの前に飛び出した。
「うわ。近くで見るとホントにでかいな。こんなの街に近づけさせてたまるか。ほら!こっち来いよ!」
ハチの視線を誘導して自分の方へと来させようとするヨルガ。それ自体は成功したが、問題はハチが予想以上の移動速度を持っていたことだった。
「えっ……」
「ヨルガ!」
一瞬で目の前まで来たハチにヨルガはスーツの胸部分を切り裂かれる。フユがレーザーを撃ち込んだことでそれ以上の攻撃は受けずにハチが離れていったが、今度はフユが標的になった。
「クソッ!」
銃で応戦するもギリギリでかわされて飛んでくるハチにフユが回避行動に移ろうとすると、二機の間を高出力のレーザーが撃ち抜いた。
「チッ!はずしたか!」
カムリはすぐに次弾のエネルギーを溜めて狙いを定める。それに気づいてハチが離れた隙を突いて全員がハチから距離をとった。ヨルガはヤトに支えられながら移動している。
「ヨルガ。負傷の具合は?」
狙いを外さずに聞いてくるカムリにヨルガは軽い声で返事をした。
「ちょっと胸切れたけど飛ぶのに問題はないぜ。でも速度はだいぶ落ちちまうな」
「退避するにもあの速さでは追いつかれるだろう。他の班が到着するまであと5分。お前はなるべく離れた場所で待機していろ。フユとヤトは距離を取りつつ交互に攻撃。当てることを目的にするな。ヤツの移動を妨げられたらそれでいい。合間に私が攻撃してヤツの攻撃目標を私に絞らせる」
最も火力の高いカムリを主軸にした作戦に、ヨルガを除くメンバーが再びハチと向き合う。「怖い…けど…シャナちゃんのいるところにこんな危ないの近づけさせない」と呟いたヤトの一言が狼煙となり、攻防戦が始まった。
『速さはあるがレーザーで軌道を逸らされたらそれも活かせないだろ。なんとか時間を稼いで戦力の集結まで保たせないと』
他のメンバーと息を合わせて攻撃していき活路を見出せたと思ったその時、なぜかハチがフユ目掛けて猛スピードで飛んできた。
「……!」
カムリの攻撃は避けつつも他の攻撃は当たっても構わないと言わんばかりの突進に、フユが怯んだ隙を突いて右脚を持っていかれる。
バランスを崩して次に来る致命傷を覚悟した時、なぜかハチはそのまま街とは反対の方向へ飛んで去って行った。
「……何だったんだ?」
呆気に取られるフユのもとへヤトが飛んできてその体を支える。
そのまま撤収の命を受けて9班は傷だらけの帰還を果たすのだった。




