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整備士は軍人である以上健康管理も仕事に含まれる。そのため基地内には専用のトレーニングルームが設置され、パートナーに運動量を管理された整備士達がノルマを達成するために体を動かしていた。
「お!ヨルガ!お前達も来てたのか!」
その日の運動が終わりトレーニングルームを出ようとしていたアサヒとフユは、ヨルガとハスミを見つけて声をかけていた。
「ハスミが全然行こうとしないから引きずってきたんだよ。まだ半分も終わってない」
疲れた顔のヨルガの隣ではハスミが膨れっ面でそっぽを向いている。
「相変わらず大変だな」
「フユんとこはもう終わりか?」
「ああ。アサヒは真面目だからね。ちゃんとノルマは達成しました。それに最近銃の発射のタイミングが遅くなっててさ。そっちの点検に時間を使いたいんだよ」
銃の不具合の話題にハスミがピクッと反応した。
「レンズの角度は?」
「え?」
人同士は会話することがないのでパートナーの隣で話が終わるのを待っていたアサヒの前に、ズイッとハスミが近寄ってきた。
「レンズの角度はちょっとズレただけでも光がたまるのに時間がかかる。初歩的なことだけど意外と気づきにくい」
「そ、そうなのか。見てみるよ」
突然話しかけられて戸惑いながら返事するアサヒにハスミはなおも話を続ける。
「銃のタイプは?早撃ち?威力重視?遠距離型?ヨルガはスピードタイプだから小回りきくようにしてるんだけど、出力をもう一段階あげようか悩んでるんだ」
「そ、そうなのか…うちはバランス型だけど…」
「そう。ハチへのダメージを考えたら出力の最低ラインはどこだと思う?俺は…」
「わー!ストップ!もうここまで!」
マシンガンのように話すハスミの口を押さえてヨルガが慌ててアサヒから距離を取らせた。
「ごめん。ハスミは仕事のこと話しだすと止まらなくて。整備士同士が話すのは良くないし、俺達はこのままトレーニングに戻るよ」
せっかく楽しく話していたのを邪魔されて不機嫌そのもののハスミを引きずり、ヨルガはランニングマシーンへと向かっていく。
残されたアサヒはポカーンと口を開けていた。
「ハスミは整備のことしか頭にないって言ってたけど、本当だね」
呆れた顔で呟くフユに、正気を取り戻したアサヒは少し興奮した声を出した。
「そうだな。でもレンズの角度は当たってるかも。整備のことを人と話すのって楽しいんだな」
初めて人と意見を交わしたことにアサヒが楽しさを覚えていると、フユの不安そうな声が返ってきた。
「アサヒ。整備のことで悩んだらサポートAIがあるんだし、整備士同士で話そうなんて思ったらダメだよ」
徹底して人同士の接触を禁じる決まりを守らせようと釘を刺される。
ぬるま湯のようなその環境に、「わかってるよ」と答えながらアサヒは何となく居心地の悪さを感じていた。
「やっぱりレンズの角度だったな」
部屋に戻るとすぐに銃の点検に入ったアサヒは、発射が遅くなる理由がハスミの言った通りだったことに驚いていた。
『サポートAIでもすぐに気づけただろうけど、他の人の経験を聞いて原因を探るのは楽しかったな』
修理が終わり銃を手に持ったままでアサヒが物思いに耽っていると、扉が開いて用事に出ていたフユが戻ってきた。
「アサヒ。銃直った?」
「ああ。やっぱりレンズの角度が問題だったよ」
「そう。ありがと。じゃあ、試射してくる」
「俺も行くよ。数値だけじゃなく実際に撃ってるとこも見ときたいし」
慌ただしく部屋を出て行こうとするフユにアサヒが続く。それを見てフユがニヤけ顔になった。
「なんだよ」
「いや。心配してちゃんと見にきてくれるんだなぁって。俺って愛されてるなぁって」
「……整備がきちんとできてるか見たいだけだ」
照れるアサヒに「素直に心配って言えばいいのにぃ」とフユは上機嫌だ。
そのまま2人で試射室へと行き、銃に問題がないことがわかるとスーツの保管庫に銃を置きに行くフユと別れてアサヒは部屋へと戻った。
それから数日後。定期点検のために9班の機械兵達が2日間不在にする日ができた。
パートナーの整備士達も健康診断は受けるが半日で終わるため、午後から暇になったアサヒは街をブラブラと歩いていた。
『結局端まで来ちゃったな。特に欲しいものも無いし、部屋に戻るか』
居住区との境のゲートまで来てしまったアサヒは引き返そうと踵を返す。だが、ゲートの前に知ってる姿を見つけて足を止めてしまった。
「……ハスミ?」
思わず出た名前にハスミが振り返る。アサヒを見て一瞬誰かわからないような顔をしたが、思い出したようで「ああ。フユのパートナー」と独り言のように呟いた。そのままゲートに視線を戻してしまう。
「えっと……何してるんだ?こんなとこで」
話しかけるのは良くないかと思いながらも、アサヒはつい声をかけてしまう。ハスミはゲートを見上げたまま答えた。
「このゲート、向こうからは無条件で開くみたいだけど、こっちからはパスがないと開かないんだよね」
「?そうなのか?」
ゲートの向こうに行こうなんて思ったことないので、アサヒはよく知らなかった。
「どんな仕組みになってるのか知りたくて向こう側からも見たいんだけど、俺はゲートを開けられない」
「そうだな」
「だからこっそりパスを盗んでコピーを作った。意外とパスの作り自体は簡単だったから、つまらなかった」
「へぇ〜。よくできたな。……へっ⁉︎」
サラッととんでもないことを言ってのけるハスミにアサヒの動きが止まる。それを全く気にせずハスミはタブレットを出してきてゲートを開けてしまった。
「バイバイ」
恐怖も悪気もなく居住区へ向けて歩き出すハスミ。それに続いてゲートが閉まりかけた時、アサヒは扉を潜って見えなくなる後ろ姿を追いかけてしまった。
「……君もこっち側に興味があるの?」
不思議そうに聞くハスミの声に合わせてゲートの閉まる音が響く。
完全に向こう側と遮断された光景にアサヒは「あー!」と大声を出した。
「どどどどどうしよう!こんなの見つかったら除隊になる!」
「見つからなければいい。ヨルガは明日の夕方まで戻らない」
大慌てするアサヒと違い、ハスミは冷静に居住区側のゲートを調べている。
「なぁんだ。パス認証の部分がボタンになってるだけか。つまらない」
不服そうに開閉装置を調べているハスミの服を引っ張ってアサヒは店が並ぶ通り側へ戻ろうとする。
「ほら!知りたいことも知れただろう!さっさとゲート開いて戻ろう!」
「嫌だよ。せっかくこっち側に来たんだから、もっと色々見たい。戻りたいなら1人で戻って。ボタンを押せばゲートは開くから」
そう言ってゲートとは反対の方へ歩いていくハスミ。確かにアサヒ1人で戻ればいい話なのだが、目の前で規則違反をしている人物を生来の優しさ故に放っておくことなどできなかった。
「待てよ!こっちは退役した大人しかいないだろ。俺達子供が歩いてたらすぐ通報されるぞ!」
「子供型の機械はいるかもしれない。それか物陰に隠れながら移動する」
「なっ⁉︎そんな何の確証もなく…」
「確証なんて待ってたら何も知れない。俺は知ることを邪魔されるのが一番嫌い」
はっきりと言い切るハスミは無茶苦茶なのにとてもカッコよく見えて。気づくとアサヒはハスミを追いかけてしまっていた。
「一緒に行くの?」
「……とりあえずは。同じ班の整備士が除隊になったらフユが悲しむから」
「そう」
特に何も感じた様子はなく、ハスミは淡々と家が立ち並ぶ道へ向かって歩いていった。




