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昨日の機械兵負傷の結果報告を聞くため、9班のメンバーはミーティングルームに集められていた。
カムリが上から話を聞くのを待つ間、屋上でのアサヒとのやりとりを嬉しそうに話すフユにヤトが優しく耳を傾けている。
「良かったねぇ。アサヒくんなかなか心開いてくれないって、フユくん悩んでたもんね」
ニコニコと我が事のように話を聞いてくれるヤトにフユもテンションが上がっていく。
「そうなんだよ!アサヒは優しくはしてくれるけどどこか距離があるっていうか、心の中できっちり線が引かれてて。でも昨日は不安も全部話してくれて、なんかやっとパートナーになれたって感じがしたなぁ。次の休みが楽しみだなぁ」
「私もお休みはいつもシャナちゃんとおでかけしてるよ。こないだはお揃いのリボン買ったの。シャナちゃん髪の毛アレンジするの凄く上手なんだよ」
「ヤトんとこはパートナーが世話好きだもんな。そりゃこんな可愛い性格になるわけだ」
ヨシヨシとヤトの頭を撫でながらフユはヨルガへと視線を移した。撫でられているヤトは「えへへ」と嬉しそうだ。
「ヨルガんとこは逆だもんな。ハスミはちゃんと飯食べてるのか?」
「もう大変だよ。ず〜っとスーツの数値いじって、消灯時間になっても俺が声かけないとベッドに行かないし。生活力無さすぎて俺がいないと1日で野垂れ死んじゃうんじゃないかって心配になるぜ」
『その割には嬉しそうだな』
頼られれば頼られるほど、役に立てれば役に立てるほど、機械兵達は喜びを感じる。つまりパートナーがダメであればあるほど機械兵には嬉しいのだ。
そんなパートナー自慢で盛り上がっていると、カムリが上との話し合いを終えてミーティングルームに戻ってきた。
「カムリちゃん、おかえり。お話どうだった?」
「ただいま。とりあえず結論を伝えるぞ。負傷した機械兵のパートナーは除隊が決まった」
除隊の言葉に他の3人が息を呑む。最初に口を開いたのはヨルガだ。
「除隊って……本当にあるんだな」
「ああ。私も初めて経験する。ここ20年はなかったみたいだな」
9班のリーダーを務めるカムリは他のメンバーよりも5年先輩だ。他の3人は配属されてからみな1年ほどで何事も経験が浅いが、カムリでも整備士の除隊は初めての経験だった。
「除隊された整備士とパートナーはどうなっちゃうの?」
「整備士は他の街へ移されるそうだ。この街には兵役を終えた者しか住めないからな。機械兵は修理されて保管庫行きだ」
「せっかくパートナーになれたのにな」
どこか寂しそうにするフユにため息をついてカムリは話を続けた。
「仕方がない。今回の負傷はスーツの整備不良が原因だからな」
「そうそれ!ちゃんと試験も受かってるんだろ。なんで整備不良なんて…」
疑問に思っていたことが出てきて話に食いつくヨルガに、カムリは冷静に答えを与えていく。
「整備士の精神的な問題だな。初めての出撃に緊張していたのだろう。調べてみたら試験の時はなかったミスが何個もあったらしい。やはり人の心は難しいな。私達であればこんなことは起きないだろうに」
感情豊かで個性があるとはいえ、機械兵は機械だ。与えたれた仕事は誰がやっても同じ結果をもたらす。ただし、環境が同じであればだ。
「スーツに欠陥があっては私達でもどうしようもない。だから私達には整備士の心のケアのために人格が与えられているのだ。今回は人格の調整不足か、そもそもの整備士の資質の問題か。まあそれは上が調べるだろう。私達はこれからも従順に任務をこなすだけだ」
その言葉で報告は終わりとなり、各々パートナーの所へと戻ることになった。
「そういえば、カムリちゃんのパートナーはどんな性格なの?カムリちゃんはしっかりしてるし、甘えん坊タイプかな?そうは見えないけど」
ヤトが可愛らしく疑問を口にしながらカムリのパートナーを思い出す。温和な雰囲気でいつもカムリの1歩後を歩く姿を。
「ああ。サイは完璧主義者だからな。機械兵である私が完璧に任務をこなし、それを完璧に支えることが生きがいみたいだ。機械としては相手をするのがこの以上ないほど楽な性格だが、退役した後どうなるかが少し心配だな」
関係性は独特ながらも、カムリの隙のないリーダーっぷりを知っていれば恐ろしいほどカチッとハマるコンビであることは想像できる。ヤトは「仲良さそうで良かった…かな?」と苦笑いした。
アサヒのいる部屋へと戻ったフユは、カムリから聞いた報告を部屋の主に伝えていた。
「除隊……本当にあるんだな」
機械兵達と同じ反応をするパートナーを安心させるようにフユは話を続けた。
「俺達は今まで特に問題なく戦果を残してるし、何なら優秀なくらいだよ。アサヒが除隊になることはないよ」
「……除隊された整備士はどうなるんだろうな。パートナーも」
9班でも出た疑問にフユは澱みなく答えていく。
「他の街に移されるそうだよ。機械兵の方は倉庫行きだね。次のパートナーが見つかるまで待機だ。寂しいけどね」
「他の街って、どこにあるんだろうな?」
先ほどより1歩踏み込んだ質問にフユの表情が変わる。
「俺達は店の並ぶ通りより向こうには行けないけど、屋上から見る居住区の外は見渡す限り砂漠だ。物資運搬のための車は見ることあるけど、その先に何があるのか全く知らない。ハチが飛んでくる方向に何があるのかも。そもそも他の街に行って何をするんだ?」
「アサヒ」
次々と疑問を口にするアサヒにフユは困った顔でその言葉を止めた。
「ごめんね。俺達も他の街のことは知らないんだよ。機械は与えられたデータ以外は知れないから。それに大事なのはきちんと役目を果たすこと。余計なことに気を取られて整備が疎かになったら、本当に除隊になっちゃう。俺はアサヒと離れるのは嫌だよ」
それは整備士が常に言われていることだった。
感情に行動が左右される人間が正確に役割を果たせるように、上とのやり取りなど整備以外で必要なことは全て機械兵が担う。同じ班内であっても人間同士は極力接触させない。そうして軍は整備士を守っているのだ。
優しく、全てを包み込むように機械達は人に寄り添う。決められた籠の中でその献身に身を委ねることが、この戦争の中で唯一の正解なのだ。
「……わかった。フユが怪我したら嫌だもんな。さっきスーツの数値を少し変えてみたんだ。シュミレーション室で試してみよう」
「……うん!」
いつも通り忠犬のように後をついてくるフユと共に、アサヒは自分の役目を果たすために部屋を出て行った。
それから数日後。
アサヒはフユとの約束を守って外に出かけていた。
「雑貨屋なら、もう少し先だな。あんま行かないから場所も知らなかった」
「あの犬はどうしたの?俺がパートナーになって部屋に来た時には持ってたよね」
「教育係だった機械整備士がくれたんだ。犬の動画見るの好きなこと知って……そう言えば、ちょっとフユに似てたかも。何となく雰囲気が」
「へぇ〜。そうなんだ。……あれ?ヤト?」
楽しそうにアサヒの話を聞いていたフユが、少し先にいる2人組に視線を移した。アサヒもつられてそちらを見る。
「シャナちゃん、今日はケーキ買って帰ろうよ」
「いいぞ。ヤトも一緒に食べれたらいいのになぁ」
「シャナちゃんが食べてるの見てるだけで幸せだからいいの。でもイチゴのってる可愛いやつにしてね」
「はいはい。あ、あのイヤリング可愛い。ヤトに似合いそうだ」
可愛らしい建物のショーウィンドウを見てキャッキャとはしゃぐ2人。普段見る制服姿とは違い、シャナは露出の多い派手な格好を、ヤトはフリルやリボンのたくさんついた可愛らしい格好をしている。
すると飛び跳ねるヤトの髪が乱れたのを見て、シャナがリボンを結び直してやった。それを見てアサヒは不思議な気持ちになる。
『ヤトのパートナーは世話好きだってフユが言ってたな。何をすれば満たされるのかって、人によって違うんだな。少なくとも俺はあれこれフユの世話を焼きたいとは思わないし』
何となく妙な表情をしているアサヒの顔をフユが覗き込んできた。
「どうしたの?変な顔して」
「いや、パートナーの機械兵を見れば整備士の性格もわかるんだなって。でもフユを見てても俺は自分の性格をはっきりと言葉で表すほどは掴めないなと思って」
「アサヒは真面目で優しくてちょっと考えすぎちゃう性格だよ。あとは愛らしいものが好き。小さな動物とか」
ニコッと笑って答えを与えてくるパートナーにアサヒはやはり微妙な表情だ。
「そうか……そうかな?」
「うん。そうだよ。だって俺の性格はアサヒに合わせて作られてるんだから。アサヒのことは何でも知ってる」
確かにフユは懐っこくて、細かいことですぐ不安になるアサヒを明るく笑い飛ばしてくれる。
「……雑貨屋行こうか。今日は何か1つ買ってもいいぞ」
「やった!何にしようかなぁ。楽しみだなぁ」
ウキウキと店へと向かうフユに、幸せそうな顔をして隣を歩くアサヒだった。




