第五話
門前には長い列ができていた。
荷馬車を引く商人。
革鎧姿の冒険者。
農具を背負った村人。
様々な人間が行き交っている。
アルトは無意識に周囲を観察していた。
武器の種類。
防具の質。
会話の内容。
ゲーム知識と照らし合わせながら情報を整理していく。
「次ー!」
衛兵の声が飛ぶ。
列が進み、やがてアルト達の番になった。
「身分証」
門の脇に立つ衛兵が言う。
ガルドとリズは慣れた様子で金属製のプレートを見せた。
冒険者タグ、だろうか。
「そっちの坊主は?」
「仮登録だ」
ガルドが答える。
衛兵はアルトを上から下まで見た。
「名前」
「アルトです」
「姓は?」
一瞬、迷う。
神から与えられた名前。
使って問題はないのか。
だが、今さら別名を考えるのも不自然だった。
「アルト・オベール」
衛兵は紙へ書き込んでいく。
「出身は?」
「……北の方です」
「随分ざっくりしてんな」
怪しまれない程度に苦笑する。
実際、説明しようがない。
「銀貨一枚だ」
衛兵がそう言うと、ガルドが代わりに硬貨を置いた。
「毎度ー」
軽いなこの衛兵。
もっと厳格なものを想像していた。
すると衛兵は木札のようなものを差し出した。
「仮滞在証だ。一週間以内に正式登録しろよ」
「ありがとうございます」
「問題起こすなよー」
随分と適当だった。
いや、街の規模的に一人一人厳しく見ていられないのかもしれない。
門を抜けた瞬間。
熱気と喧騒が一気に押し寄せてきた。
「おお……」
思わず見回す。
石畳の道。
並ぶ露店。
漂う焼き肉の匂い。
耳に入る怒鳴り声や笑い声。
ゲーム画面越しではない。生きた街だった。
「そんなに珍しい?」
リズが笑う。
「まあ……かなり」
「田舎者だねぇ」
否定できない。
この祭りのような喧騒が、この世界にとっての普通なのだ。
「まずはギルドだな」
ガルドが歩き出す。アルトも慌てて後を追った。
街中を進みながら、
アルトはさりげなく観察を続ける。
武器屋。
防具屋。
宿屋。
そして目立つのは、やはり冒険者の多さだった。
剣を背負った者。
杖を持つ者。
獣人らしき姿までいる。
この世界では珍しくないらしい。
「獣人って普通にいるんですね」
「ん?」
リズが振り返る。
「いるよ?珍しいけど」
「へぇ……」
「エルフとかドワーフもいるし」
本当にファンタジー世界だな。
今さらながら実感する。
やがて一際騒がしい建物が見えてきた。
木造二階建て。
看板には剣と盾の紋章。
「ここが冒険者ギルド」
リズが扉を開ける。
瞬間。
酒と汗の匂いが押し寄せた。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
中には大量の冒険者達。
昼間だというのに酒を飲んでいる者までいる。
「慣れれば平気平気」
リズは慣れた様子で進んでいく。
だがアルトは別の意味で緊張していた。
――擬態。
ちゃんと機能しているか?
もし魔物だと看破されたら。
最悪、この場で囲まれる可能性もある。
だが。
誰もアルトを気にしていない。
冒険者達は談笑し、受付嬢は書類を捌き、酒場では喧嘩まで始まりかけている。
……大丈夫、なのか?
「ほら、こっち」
リズが受付へ手を振った。
「ミレイさーん!」
「リズさん。ガルドさんも、お帰りなさい」
受付にいた女性が微笑む。
柔らかな茶髪。
落ち着いた雰囲気。
年齢は二十代半ばくらいだろうか。
「今回は早かったですね」
「ゴブリン討伐だけだったしね」
「達成確認済みです。報酬はこちらになります」
革袋が渡され、中から硬貨の音が鳴った。
これがこの世界の金。
アルトは無意識に視線を向けてしまう。
するとミレイが気付いた。
「そちらの方は?」
「あー、新人候補?」
「候補って何ですか」
「だってまだ冒険者じゃないし」
リズは笑いながらアルトの背を押した。
「冒険者登録したいんだって」
ミレイは少し驚いた顔をしたあと、営業用の笑みに戻る。
「承知しました。では、こちらへどうぞ」
アルトは一歩前へ出る。
ついに始まる。
この世界での、本当の意味での第一歩が。




