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第四話

 

 山道を下りながら、アルトは周囲を観察していた。


 木々の高さ。

 獣道の広さ。

 踏み固められた地面。


 人の往来はそれなりにあるらしい。


「そんなにきょろきょろして、どうしたの?」


 前を歩くリズが振り返る。


「いや……景色が珍しくて」

「へえ? どっか遠くから来たんだ」


 曖昧に笑って誤魔化す。

 実際、世界そのものが違うのだから間違ってはいない。

 ガルドは黙ったまま周囲を警戒していた。

 時折、草むらや森の奥へ視線を向けている。

 完全に“慣れている人間”の動きだった。


「……冒険者って、魔物退治ばかりしてるんですか?」


 情報収集も兼ねて聞いてみる。


「んー、そうでもないかな」


 答えたのはリズだった。


「護衛とか採集とか運搬とか、色々あるよ。あとはダンジョン探索!」


「ダンジョンは人気なんですか?」

「そりゃもう。一攫千金だし」


 軽い口調のまま続ける。


「魔石、素材、古代遺物。たまーに未発見のダンジョンとか出ると、国まで動くからね」

「そういえば、ダンジョンコアが凄く高いって聞いたことがあるような……」

「うん。国がダンジョンを作れないか研究してるらしいよ?コアを使って」


 アルトは内心で納得する。

 なるほど。

 ダンジョンはさながら資源を生み出す装置。

 だからコアが高値で取引されている。


 利益が大きすぎるのだ。


「まあでも、大体は死ぬけどね」


 さらりと恐ろしいことを言った。


「リズ」

「はいはい」


 ガルドに睨まれ、リズは肩を竦める。


「でも実際そうじゃない?欲かいて深層行って帰ってこない人、多いし」

「否定はしねぇが、初対面に言う話でもねぇ」

「えー」


 気安いやり取りだった。

 長く組んでいるのだろう。

 そんな二人を見ながら、

 アルトは改めて考える。


 ――この世界は危険だ。


 ゲームではない。

 死ねば終わる。


 ダンジョンマスターである以上、

 普通の冒険者以上に命を狙われる可能性も高い。


 なら。


 やはり必要なのは力だ。

 個の戦闘力、ダンジョンの戦力、そして情報。

 その全てが足りていない。

 考え込んでいると、不意にリズが顔を覗き込んできた。


「アルトってさ」

「……なんですか」

「なんか冒険者っぽいよね」


 ぎくりとする。


「そうですか?」

「うん。なんか落ち着いてるし」

「それは買い被りです」

「いや、普通の旅人ってガルド見たらもっとビビるし。盗賊だって言っても違和感無いでしょ?」

「おい」


 ガルドが低く返す。


「冗談だって」


 ……本当に冗談か?

 アルトはちらりとガルドを見る。


 体格。

 立ち姿。

 隙の無さ。

 顔のいかつさ。

 うん、かなり強そうだ。


「ガルドさん達って、ベテランなんですね」

「……何でそう思う」

「洞窟の空気だけで異常に気付いてたので。俺には全然分かりませんでした」


 するとガルドは少しだけ目を細めた。


「よく、その警戒心の無さで生きてこられたな」

「……昔、傭兵崩れの人にお世話になったことがあって」

「へぇ?」


 リズが興味深そうな顔をする。


「旅をするなら最低限は覚えろって、色々教えてもらいました。

 ただ、聞くのと実際に経験するのとでは天と地ほどの差がありましたけどね」


 ガルドは数秒アルトを見ていたが、


「……まあ、そういうこともあるか」


 完全には納得していない様子で前を向いた。

 ……やはり経験豊富だ。

 迂闊なことは言えない。


 それから一時間ほど歩いた頃だった。

 木々が開ける。


「見えたよ」


 リズが指差す。

 視線の先。

 石壁に囲まれた街があった。


 高い外壁。

 見張り台。

 門前を行き交う人々。


 想像していた中世風の街並みに近い。


「おお……」


 思わず声が漏れる。


「ほんとに田舎から来たんだねぇ」


 リズが笑う。

 アルトは誤魔化すように視線を逸らした。

 だが、感動していたのは事実だった。

 

 異世界だ。


 ようやく実感が湧いてくる。

 門前には槍を持った衛兵が立っていた。

 冒険者らしき者達も列へ並んでいる。


「身分証とか持ってる?」


 リズが小声で聞く。

 アルトは固まった。


 ……ない。

 当然だ。

 この世界へ来たばかりなのだから。


「持ってないです」

「だと思った」


 リズは苦笑した。


「まあ大丈夫。銀貨一枚払えば仮登録できるから」


 銀貨。

 当然、持っていない。


 アルトが沈黙すると、

 リズは「あっ」と察した顔になった。


「もしかしてお金もない?」

「……はい。薬草をお金に変えようとしたんですが、全然見つからず……」

「うわー」


 露骨に憐れむ顔をされた。

 やめてほしい。


「立替えてやる」


 そう言ったのはガルドだった。


「後で返せ」

「ありがとうございます」


 素直に頭を下げる。

 ガルドはぶっきらぼうだが、

 根はかなり面倒見が良いらしい。


「その代わり」


 ガルドは門の方を見ながら言った。


「街じゃ余計な問題起こすなよ」

「肝に銘じます」


 アルトは真面目に返事をした。


 今の自分は、

 この世界ではただの無力な新人だ。


 だからこそ。

 まずは生き残る。

 力を蓄えるのは、それからだ。



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