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コミュ障なせいで婚約破棄された悪役令嬢 遊び人キャラに愛されています  作者: 冬野月子


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第1章 4

「はあ……」


「お姉様、何回ため息をつけば気が済むの」


 帰りの馬車の中でマリンが口を開いた。


「だって……最後まで殿下に迷惑をかけてしまって……」


 バランスを崩してダンスを中断させてしまった後、再び踊ったが最後までぎこちなくなってしまったと思う。


 相手が殿下なのに下手なダンスを披露してしまった。

 さぞ周囲には滑稽に見えただろう。


(私だけならいいけど……殿下にも不快な視線を与えてしまったよね)


「すぐ帰られたし。きっと怒ってるよね」


 私と一曲だけ踊ると、殿下はそのまま帰ってしまった。


「――それは違うと思うけど」


 アクアが言った。


「多分、殿下は姉上と踊るためだけに来たんだと思うよ」


「え? どうして?」


「だって、ねえ」


 双子は顔を見合わせた。


「まあ、知らない方がいいか」


「そうね、もう婚約は解消されてしまったんだし」


「え……どういうこと?」


「殿下は思い出を作りたかったんじゃないかな」


 アクアは私を見た。


「思い出?」


「だって姉上、婚約者らしいこと何もしていなかったよね。どこかに一緒に出かけたこともないし」


「……それは……」


 ただでさえ人が多いところは苦手なのに、殿下と一緒にいたら余計に注目を集める。

 人に見られていると思うと緊張して足が震えて、周囲を見ることも出来なくなってしまう。


 本来ならば婚約者として慰問や視察に行くのが役目なのだが、私はその役目を果たせなかった。


(ああ、本当に私は――)


 また大きなため息が出てしまう。


「もう、お姉様は。終わったことをいつまでもくよくよしても仕方ないでしょう」


 マリンが呆れた。


「……そう、だけど」


「それよりも、次のことを考えた方がいいわ。本当に遊び人と結婚することになってもいいの?」


「それは……」


 遊び人、いや、貴族の人とは……貴族だけじゃなくて。


「……できれば、誰とも結婚したくは……ないけれど」


「それお父様に言ったら?」


「言えるわけないわ」


「どうして?」


「……そんなわがまま……。お相手だって格上なんだし……」


 ただでさえ婚約破棄されて迷惑をかけているのだ。

 向こうから断ってくるならまだしも、自分から言えるはずがない。


「もう。わがままくらい言えばいいじゃない。お姉様はもっと自分を主張すべきだわ」


 それが出来れば苦労しない。

 出来ないから今も、前世も――。


「……結婚はしたくないけれど、貴族として、しないとならないものだから。だからお父様が決めたことなら……」


「もう! いつもそうなんだから!」


 マリンは大きな声を上げた。


「……落ち着けよマリン」


「だってお姉様、すぐそれが貴族だからとか言ってお父様たちのいいなりなんだもの。でも性に合わなかったから婚約破棄されて、次は遊び人と婚約させられるのよ? 変えられないとしても、少なくても意思表示はすべきだわ」


 マリンの言葉が胸に刺さる。


 前世から私はそうだった。

 どう自分の気持ちを伝えればいいのか分からなくなってしまって――。


(このままじゃダメだって、分かっているけど)


「だって……どうすればいいのか、分からないんだもの……」


「簡単でしょ。自分の気持ちを口にするだけなんだから」


「……私には難しいわ」


「僕たちには言えるよね」


「それは……だって。あなたたちは特別だもの」


 私の性格を理解しながらダメ出ししてくれるマリンと、はっきり本当のことを言えるアクア。

 物心つく前から一緒に育ってきた二人には、私も本音を言える。

 私にとって大切な妹弟だ。


「――僕たち以外にもそういう相手を作りなよ」


 アクアは私に憐れむような眼差しを向けた。


「……出来ないもの」


「まずは一歩だけ踏み出せばいいから。少しでいいから自分の気持ちを口にするの」


 マリンが言った。


「いきなり全部変えようとすると大怪我するかもしれないけれど、一歩だけならつまずいてもほとんど傷にはならないわ」


「……そう、かな」


「そうよ。一歩も踏み出さなかったらまた殿下の時みたいに周りに迷惑がかかるわよ」


「それは……」


 ダメだ。


(そうだ、私のこの性格のせいで大勢に迷惑をかけてしまった……)


 変わらなくちゃ。

 家族以外の人とも交流できるように――自分の気持ちを伝えないと。


 私は顔を上げた。


「――そうね。頑張るわ」


「最初から頑張らなくていいの。まずはちょっとだけ勇気を出すのよ」


「……はい」


「まったく。どっちが姉から分からないな」


 そう言ってアクアは笑った。

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