表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミュ障なせいで婚約破棄された悪役令嬢 遊び人キャラに愛されています  作者: 冬野月子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/23

第5章 2

 隣室へ戻ると、私を見たアゲイト様がその目を細めた。


「よく似合ってる」


「……ありがとうございます」


「華やかでお美しいですね。そのドレスになさいますか?」


 ハンスさんが尋ねた。


「――あの……。色を、グラデーションにすることはできますか?」


 思いつきを確認したくて、聞いてみる。


「グラデーションですか」


「はい……スカート部分はオレンジのままで、上を青にして。夕暮れ前の感じにしたらいいかなと……思ったのですが……」


 そうすれば、少し派手さが抑えると思ったが。

 ハンスさんは険しい顔をしていた。

 ……同系色ならまだしも、補色のグラデーションに染めるのは難しいか。


「すみません! 変なことを言って……」


「いや。面白いですね」


 慌てて謝るとハンスさんは笑顔になった。


「グラデーションですか……。技術的に難しく、高価なドレス生地に使ったことはないんです」


「……そうですか」


 やっぱり難しいよね。


「すぐには難しいですが、試してみましょう」


「いいんですか」


「青とオレンジならお二人の色ですからね」


 ハンスさんは私とアゲイト様を見た。


「予算に糸目はつけないんだろう? アゲイト」


「そうだな。結婚式までには欲しいな」


 アゲイト様が答える。


「ならばお前の服も揃いで作るか」


「ああ、いいな」


(結婚式……)


 そうか、婚約するということは、結婚して……夫婦になるんだ。


(アゲイト様と……夫婦……)


 改めて気づいて、身体が熱くなるのを感じた。


「レディは色々なアイデアをお持ちですね、素晴らしい」


 ハンスさんが私に向いた。


「他にもご希望があればお聞かせ下さい。ご自身が好きなドレスを着ると気分も上がりますからね、是非提案させていただきたいです」


「はい……」


 気分が上がる……そうか。


「あの。昼用のドレスはありますか」


「色々とございますが。ご希望は?」


「希望というか……今度の、ガーデンパーティに着るドレスなんですけれど。持っているものでいいかなと思ったんですが、素敵なドレスがあればそちらにしたいなと……」


「ガーデンパーティ?」


 アゲイト様が聞き返した。


「離宮で開かれる昼のパーティだな。ほとんどの貴族が参加する。お前にも招待状が来ていると思うが」


「招待状? そういうのは全く見ていないな」


「少しは興味を持て。公爵家の後継なんだから」


「ベリルは行くの?」


 アゲイト様が私を見た。


「はい……あまり行きたくはないですが」


「どうして?」


「人が多いのと……元婚約者がいるので……」


「へえ」


 アゲイト様の瞳が鋭い光を放った。


「ハンス。オレンジ色の昼用ドレスはあるか」


「婚約前にそれはやめておけ。非常識だと思われるぞ」


「ダメなのか」


「王家主催の会ではな。――そうだ」


 ハンスさんが従業員へ指示すると、しばらくして箱を三つ持ってきた。


「これは小さい石をアクセサリーに仕立てたものだ。値段も手頃で人気がある」


 箱の中には幾つものイヤリングが並んでいた。

 石は安いのだろうが、台座のデザインが凝っていてどれも素敵だ。


「琥珀だ。昼用のアクセサリーに派手なものはダメだが、これならいいだろう」


 箱から取り出したのは、雫型のイヤリングだった。

 アゲイト様の目と同じ、薄い黄色の中に茶色が混ざり合った石が二つずつ、金具の下に下がっている。


「可愛い……」


「こちらは、質は良いのですが傷が入っていたため、小さくカットしました」


「つけてみよう。ベリル、こっち向いて」


 アゲイト様がイヤリングを手に取ると、私の顔へその手を伸ばしてきた。


(えっ? アゲイト様がつけるの!?)


 身構えるより先に指先が耳に触れて――熱を帯びるのを感じてぎゅっと目を閉じる。

 アゲイト様の息がかかり、ビクリと震える。

 ほんの数秒のはずだけれど、とても長い時間に思えた。


 アゲイト様の手が離れたのでおそるおそる目を開いた。


「うん、似合ってる」


 目の前に、私を見つめるイヤリングと同じ色の瞳があった。


「あ……りがとう……ござい……ます」


 きっと、私は耳が真っ赤になっているだろう。


「ハンス。このイヤリングが引き立つドレスはあるか」


 アゲイト様は振り返った。


「――お前、少しは気を遣えよ」


 ハンスさんがため息をついた。


「何がだ」


「深窓のご令嬢にその距離感はまずいって。今までの相手とは違うんだから」


「今までの相手……」


 アゲイト様は再び私へ向くと、手を伸ばし私の耳へ触れた。


「こんな風に俺から触れたことなど、一度もないが?」


(え……)


 一度も?

 思わずアゲイト様を見上げる。


「向こうから触れてくるのは嫌じゃなかったけど。自分から触れたいとは思わなかったな」


(……それは……どういう……)


「ベリルは特別ってことかな」


 耳のすぐそばに、そっとアゲイト様の唇が触れた。


(また……!)


 かあっと顔が熱くなった。

 胸がドキドキする。


(特別って……どういう意味で……)


『お姉様のことが好きなんじゃないかしら』


 マリンの言葉を思い出す。


(――ううん、それはないわ)


 私みたいなつまらない人間を、アゲイト様が好きになるなんて。


 ドキドキする胸の奥に、ずきりと痛みを感じた。


  *****


「どこか行きたい所はある?」


 シンプソン商会を出るとアゲイト様が尋ねた。


「……あの、書店に行きたいのですが……」


「この近くに一軒あるけど、そこでいい?」


「はい」


「じゃあ行こうか」


 差し出された手を取ると、私たちは歩き出した。



「夏に、領地に帰ることになったんだ」


歩きながらアゲイト様が言った。


「領地へ?」


「ずっと帰ってなかったからね。いい加減顔を見せておけと父親に言われてさ」


「そうですか……」


 アゲイト様は、夏は王都にいないんだ。


(……寂しいな)


 この数ヶ月、毎週のように会っているからだろうか。

 会えなくなると思ったら寂しくなった。


(でも、夏の間だけだから……数ヶ月くらい……)


「ベリルも一緒に行く?」


 聞こえてきた言葉に足を止めた。


「え……」


「そのうちベリルも住むことになるし、一緒に挨拶しに行った方が後々楽でしょ」


 見上げると、アゲイト様はそう言って、少し困ったように眉を下げた。


「――それと、初めて母親の墓参りをする予定なんだ。一緒に行って欲しい」


「初めて……」


「どんな顔をして会えばいいのか、分からなかったからね」


 アゲイト様が、お母様に複雑な感情を抱いているのは分かる。

 今まで会いに行く勇気が出なかったのだろう。


(初めてに……私も行っていいのかな……)


 ううん。

 私も、行きたい。


「……分かりました。ご一緒します」


「ありがとう」


 嬉しそうに笑った、その笑顔に胸がドキリとする。


(今のアゲイト様の笑顔……いいなあ)


 いつもは余裕ある大人の笑みを浮かべているけれど。

 少し子供らしさのある笑顔も素敵だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ