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正義の味方  作者: わだだわ


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8/12

「ああ、あいつ知ってるよ」

 クライアントの協力を得て探し出したその人物は、すぐに認めた。

「でも友達っていうか、あいつは大学の同期っていうだけだからね」

 忙しいから社員食堂で昼食をとりながらということになった約束に十五分ほど遅れてきたその人は、鹿島と名乗った。

「小宮山さん、もうお亡くなりになってるんです」

「そうなんだ。それは知らなかったな。もともと、あんまり親しい方でもなかったから」

 話しながら、鹿島さんは目の前のきんぴらゴボウを箸でつついている。

「三年ほど前にお会いになりませんでしたか?」

「会ったよ。会社に訪ねて来た」

「それは公式に、つまり仕事でいらっしゃったということですか?」

「いや、なんていうか、ただ顔を見に来たっていう感じ」

 大きな窓からは、林立するビルの向こうに遠く山並みが霞んで見える。

「そのときに、スマホに関するお話はなさいませんでしたか?」

「どうだったかなあ」

 鹿島さんはしきりに首をひねっている。

「なにか書類を持ってこられたとか」

「うーん」

「覚えてらっしゃいませんか」

「何年も前の話しだしさ」

「そうですよね」

 私は肩の力を抜いて微笑んだ。

 じゃあ、これで終わりだ。記録もない、特許もない、会った当人も覚えていないというのであれば、これ以上はどうしようもない。プライベートでの訪問ということであれば、来訪記録も残ってはいないだろう。おばあさんがなにをいおうと、クライアントも鹿島さんも安全だ。

「スマホの開発って、大変なんでしょうね」

 くだけた調子で私はいった。もうここからはお仕事ではなく雑談だ。私も目の前のトレーに載った四百五十円の定食に箸を付けた。大企業はこういうところがしっかりしているからうらやましい。

「そうだね、競争が激しいからね」

「年がら年中、新機種が出てますものね」

「最近はそうでもないんだけどね。春と秋に一斉に発表してるから。それでもその時期に間に合わせなくちゃいけなくてね。いちばん大変なのは技術面とのすりあわせなんだよ」

「どういうことですか?」

「スマホに限らずさ、うちで作ってるような電子機器は、やりたいことがあっても技術的に出来ないことだったらしょうがないわけ。商品にならないから。だからアイデアと技術のすりあわせが大事なの。

 たとえばスマホでネットショッピングは出来ても、商品そのものを取り出すことは出来ないでしょ。ソフトウェアをダウンロードするのは別として、服とか、靴とかさ。そういうのを実現するには、まずドラえもんが作れるくらいの技術がないとね」

「ドラえもんがいたら、スマホなんかいらなくなっちゃいますよ」

「それもそうだね。でもスマホの代わりに、みんながドラえもんを連れて歩いてるっていうのは嫌だなあ」

 私たちは町中に溢れるドラえもんを想像して笑った。

 上映中はドラえもんの電源はお切りください。

 学校にドラえもんを持って来てはいけません。

 電車内ではドラえもんの電源はお切りになるか、マナーモードをご利用ください。

「ドラえもんのマナーモードって、全身が震えるんですかね」

「それは怖いよ」

 鹿島さんみたいな仕事をしている人というのは、みんなこんな風にいつも面白いことを考えているのだろうか。

「たださ、そういうのが技術的に可能になったときのために、特許を取っておいたり、少なくとも申請だけは出しておくわけ」

 鹿島さんは説明した。専門家である私に向かって。

「でもまったく荒唐無稽なのはだめだからね。うちみたいに技術的な裏付けのある会社なら、特許も取りやすくなるんだよ。四ッ折りスマホだってさ、うちだから何年も前に特許が取れたんだよ」

 私は今日ひと言も四ッ折りスマホという言葉を口にしていないというのに。

 なるほどね。

「今度さあ、よかったら飲みに行かない?」

 普段あまり連絡を取ってもいなかった大学時代の友人がふらりと顔を見に来て、そのあとあなたの名前で特許が申請されて、その開発であなたは出世したというわけね。

「そうですね」

 私は私個人の携帯電話の番号が印刷されていない方の名刺を渡して、事務所に戻った。


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