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正義の味方  作者: わだだわ


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4/12

 翌日の朝いちばんから、私はその一件に取りかかった。まずは昨日コピーを取った書類の確認からだ。

 この件についての結末はもうわかっているから、これはおばあさんを納得させてあげるための材料集めに過ぎない。ちょろっとやって、はい、おしまい。

 おばあさんの持って来た書類には、作成された日付すら書かれていない。それが書かれていたってなんの証拠にもならないから特許申請をしておかなければならないのだけど、それにしたってひど過ぎる。息子さんがいつ亡くなったのか知らないけど、この書類を作ったのが息子さんだという証拠もない。

 書類の一枚目には、ひとつの四角形が四つに開かれていく様子が描かれていた。といっても、ラフなスケッチに過ぎないそれは、縦に長く書かれた漢字の「田」と大差ない。

 二枚目。そこにはさっきより大きな四角形が二つ描かれ、各辺に書き込みがされている。一方の四角形には『蒸着式』とか『ブリッジ』とかいう単語や、『相互連結端子はバネで背面に引き込み』などという注釈。もう一方の四角形には『同期信号送受信部』とか、『連結用磁石格納部』などと書いてある。

 おばあさんに返してしまったものの代わりに駅前の携帯ショップでもらって来たパンフレットと見比べれば、コンセプトが同じなのはわかる。ただ技術的な内容まではパンフレットからはわからないので、クライアントから細かい技術仕様書を送ってもらう。

 それを見て、私は目を丸くした。

 仕様書の内容が、おばあさんの持って来た書類に記されていたものとそっくりだったのだ。ケーブルの収納方法とか細々した端子の位置とかはより洗練されているけど、二つの書類は同じものを表しているとしか思えない。

 私は技術仕様書の内容をもとに、「ほら、こんなに違うでしょう」とおばあさんに教えてあげるつもりだった。数値や規格のことまではわからなくて構わない。見せつけて、「違う」と感じてもらえればそれでいい。書類の作成日が云々というのでは、「生前に書いているのを見た」だなんだと水掛け論になって鬱陶しいからだ。しかしこれでは、「ほら、同じでしょう」としかいいようがない。

 こうなると、可能性は三つだ。

 一、このスマホのコンセプトおよび基本設計はクライアントが考え、おばあさんの息子がパクった。

 二、このスマホのコンセプトおよび基本設計はおばあさんの息子が考え、クライアントがパクった。

 三、このスマホのコンセプトおよび基本設計は両者が独自に考え、たまたまそっくりだった。

 三番目の可能性はまずありそうにないけど、どの場合でも私にとって重要なのは、クライアントがこのスマホに関する特許をきちんと取得しているかどうかだ。

 私はクライアントの法務部に問い合わせ、四ッ折りスマホに関する特許番号を確認。そのひとつひとつを念のために特許電子図書館で照会した。

 結果、問題なし。

 クライアントは四ッ折りスマホ関連の特許を、ひとつ残らず完璧に取得していた。

 私はおばあさんに電話して、その旨を伝えた。

「お持ちいただいた書類に書かれている携帯電話と新発売になった携帯電話とはとてもよく似ていますけど、特許はすべて会社の方で持っています」

「そうですか、でもねえ」

 でももなにも、これだけしっかり特許を取られていては、おばあさんには手の出しようがない。

「あの子はこの携帯電話が売り出される前にこれを書いていたんですよ」

 ほら来た。みんなそういうことをいう。俺が先だ、私が先だ。でもそんないい分、特許登録の前ではなんの役にも立たない。法律は文句言いのためにあるのではなく、それを遵守し、行使する人間のためにあるのだ。

「息子さんがこの書類をいつ書いたかという確実な記録はありませんか?」

 それがあったって、特許登録していなければ意味はないけど。

「さあ、私はそういうことはよくわからないものですから」

 じゃあ誰ならわかるのよ、といいたい気持ちを抑えるのには多少の自制心が必要だった。

「どなたか、わかる方はいらっしゃいませんか?旦那さんですとか」

「あいにく、主人ももうおりませんで、わからないんですよ。それで、どなたかにお願いしようと思いましたので」

「息子さんはこれをどこでお書きになったんでしょう?そこになにか残っているかも知れませんが」

 もしまだ他になにかあるなら、とっとと出してもらって、処理してしまいたい。あとからぽろぽろ出て来て、いつまでも関わり合いになるのはごめんだ。

「さあ、工場(こうば)かしらねえ。家の中にはあまりこういうものを持ち込んで来ませんでしたから」

「工場ですか」

 昨日は書類を受け取るだけで帰してしまったから詳しいことを聞かなかったけど、亡くなった息子さんは旦那さんの跡を継いで小さなバネ製造工場をやっていたらしい。

「工場の方はそのままにしてありますから、よかったら見てやってもらえませんか」

 年寄りというのは、なにを考えているのかわからない。おそらく法律のことなんてなにも知らないから、私が公正中立な立場だと思っているのだろう。私がその工場でなにか決定的な証拠を——そんなものがあったとしての話だけど——見つけて、こっそり処分してしまうかも知れないなどとは露ほども疑わない。

 もちろん私は不正を働くつもりはない。ただただクライアントの利益を守り、私のキャリアにとってプラスになることが大切だというだけだ。

 ありそうにないけど、三つの可能性のうち二番目が大当たりで、しかもなんらかの形で証拠が残っている場合、クライアントにとっては鬱陶しいことになる。それは防がなければならない事態であり、今後に火種を残さないようにしっかりと潰しておかなければならないことだ。

 この時点で、私にとっては十分に鬱陶しい。どうして私が町工場なんかに出向かなければならないのか。うっかりすればそこらに転がっている金屑でパンプスに傷が付くし、髪に油の臭いが染み付いたらその日一日ブルーになる。そんな臭いは、女が漂わせていいものじゃない。

 それでも、私には魔法の言葉がある。その言葉を唱えれば、私にはなんだって出来る——『仕事だから』


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