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正義の味方  作者: わだだわ


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「明日、お宅の方を調べさせてください」

 私は小宮山さんにそれだけいって、お引き取り願った。そして翌日、ふたたび『有限会社 小宮山撥条』の前に立った。

 工場内にはなにもない。それは前回来たときに確認済みだ。あのときだって私は手を抜いたりはしなかった。徹底的に探したけれどなにも見つからなかったのだ。

 だとしたら、残る可能性は家の中。

 私は失礼なくらいにずかずかと上がり込んで、真っ先に慶ちゃんの部屋を目指した。あの書類が見つかったのが慶ちゃんの机の中なら、同じ場所か、あるいはその近くになにかあるに違いないと思ったからだ。

 きっとここは、かつては慶ちゃんのお父さんの部屋だったんだろう。幼稚園児が使うにはあまりにも大きな事務机が、部屋の一角を占めていた。机の上に置かれた粘土細工やクレヨンで描かれたおばあさんの似顔絵が、無愛想な机と対照的で余計寂しい。開け放った窓では、ウィンドチャイムが軽やかな音を立てている。

 おばあさんに断って、引き出しを片っ端から空にする。

 人がなんとなくしまったものというのは、本当に見つけづらい。これがきちんとした目的を持って隠されているものなら、ある程度はどこにあるか予想がつく。ところが、「この辺に入れとこう」くらいの軽い気持ちでしまわれると、まったく見当がつかない。

 引き出しの奥、引き出しの裏、掛け時計の裏、額縁の裏、そんなところまで探してみて見つかったのは、この部屋にはなにもないという事実だけだった。

「まったく、どこにあるのよ」

 どこにあるのよもなにも、私は自分がなにを探しているのかすらわかっていない。おそらくは書類のようなもので、四ッ折り携帯のアイデアはこの日に考えつきましたと示すようなものがあるはずだと思っているだけで、それだって憶測に過ぎない。

 スカートで来たのは失敗だった。

「おばあさん、パンツ貸してください」

「パンツですか?」

 びっくりするおばあさんの顔を見て、私は慌てていい直した。

「ズボンです、ズボン」

 おばあさんと私とでは体格があまりに違い過ぎて、もんぺみたいなズボンからはすねが半分ほど覗いている。換えがないから、ストッキングも脱いでしまった。

 居間、床の間、玄関、なにもなし。

 お昼におにぎりをごちそうになった。コンビニのではなく、誰かが握ってくれたおにぎりを食べるのは何年ぶりのことだろう。

 正直にいって、おばあさんの握ってくれたおにぎりは塩がききすぎてしょっぱかった。噛むと時折「じゃり」っと音がするほどだった。こんなの食べてたら高血圧になっちゃうわよ。ましてや幼稚園児に食べさせるのは身体によくない気がする。

 コンビニのおにぎりはこんなことはなかった。

 不味いも、おいしいもなく、ただただ空腹を満たすため、エネルギーを補給するための物質に過ぎなかった。どんな味なのかも、覚えていなかった。

 おばあさんの握ってくれたおにぎりは、しょっぱかった。

 しょっぱ過ぎた。

 覚えていられる味がした。

 私は一緒に出されたたくあんをポリポリと食べ、お茶で喉を潤すと、「よしっ」と立ち上がった。

 ふたたび、捜索開始だ。

 トイレ、台所、仏間、なにもなし。

 屋根裏、床下、なにもなし。

 スパイ映画じゃないんだからとは思ったけど、やってみないことには始まらない。

 最終的に仏壇そのものまでひっくり返してみたけれど、結局なにも見つからなかった。

 私はおばあさんが、息子さんや悦子さんの死に際して書類を処分してしまったのではないかとさえ思った。

「みんなそのまんまにしてありますよ」

 そういわれると、信じるしかない。

 信じるしかないけど、なにも見つからない。

 私は精も根も尽き果てて、居間の座布団の上にへたり込んだ。家の中は、まるで竜巻が通り過ぎたあとのようだ。

 幼稚園から帰ってきた慶ちゃんがぱたぱたと部屋に入って来たけど、私は振り返る気力もない。

「慶ちゃん、がんばって探したけど、証拠能力を有するようなものはなんにも見つからなかったよ」

 五歳児にこんないい方をしてもわからないだろうけど。

「ふうん」

 五歳児はのんきな返事をする。

「慶ちゃんは幼稚園でテントウムシ見つけたよ」

「そうかあ、お姉ちゃんの探しものも見つかるといいんだけどねえ」

 あれ?

「ねえ、慶ちゃん。慶ちゃんはどうしてあの携帯電話がパパのだってわかったの?」

「ママが教えてくれた」

「いつ?」

「お誕生日の日」

「誰の?」

「慶ちゃんの」

 子供との会話というのは、メールより効率が悪い。

「いつの誕生日?」

「この前の」

「だって慶ちゃんのママは…」

 こういうとき、どういう言葉を使えばいいか迷う。

「二年前に、いなくなっちゃったでしょう?」

「うん、死んじゃったよ」

 子供は苦手だ。

「でも教えてくれたもん」

 慶ちゃんは私の手を引っ張って、悦子さんに会わせてくれた。

 そうか、悦子さんが。

 おばあさん、みんなそのままにしてあるなら悦子さんのズボン貸してくれればよかったのに。


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