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アストラル・レコード  作者: 藍沢義也
12/21

アカシャ

「過去に行くことは出来ない?」と僕はユキに尋ねた。「幽体は時空も超えられるんでしょ?」


「私は行けるけど……」とユキ。「ヤマトは無理よ。過去の振動数にチューニング出来ないと。さすがに今はまだ連れていけないわね」


「そうか……」


「見たい過去でもあるの?」


「特別何かあるってわけじゃないんだ。ただ、面白いだろうなって」


「まぁ、面白いけどね」


過去に行くっていうのはどんな気分だろう。


歴史のターニングポイントや偉人達の素顔。そして、語られなかった人達。その思い。


恐竜達はどんな姿をしていたんだろう?

僕たちの祖先は?本当に猿だったのだろうか?

神話の世界はどこまで真実なのだろう?


過去はロマンの詰まった宝箱のようだ。いつか行ってみたい。


「過去に行くことは出来ないけど」とユキが言った。「見ることは出来るわよ」


「え!?何それ」


「宇宙の図書館があるの」


宇宙の図書館……。


「なんて魅惑的な響きなんだ」


「行ってみたい?」


「もちろんだよ!」


「じゃあ行きましょう」


ユキは人差し指を立てて、「目を閉じて」と言った。


「瞬間移動で行くの?」


「いいえ、もっと簡単に行ける」


僕は目を閉じた。


しばらくすると、眉間の辺りにほんやりと温かさが広がってきた。

ユキが指先で触れているんだろうと思う。


「いいわ、目を開けて」


「え?もういいの?」


拍子抜けしたように視界を開くと、そこは薄暗い、大きな鍾乳洞のような場所だった。


「いつのまに移動したんだろう……?」


目の前には、樫の木でできたような重厚なドアがあり、振り返ると石の階段がはるか上に延びていた。


「移動というよりは、アクセスしたのよ」


「アクセス?」


「そう、ここはこの世界の全ての情報が保管されているデータバンクなの。誰でもアクセス出来るけど、離脱していると簡単に来られるの」


「誰でもここの情報を見ることが出来るの?」


「そうよ」


「なるほど。だから宇宙図書館なんだ」


こんなものがあるなんて知らなかった。


「みんなは……アカシックレコードと呼んでいるわ」


アカシックレコードか。そう言えば、幽体離脱について調べていた時に、そんなワードがあったようななかったような。


「入りましょう」


ユキもワクワクしているように見える。ここはそういう場所なんだ。


扉を開けると、さっと室内から明かりが差した。


一歩部屋に入ると、なんだか場の雰囲気が変わる。濃いエネルギーが充満しているように感じた。


ユキがドアを閉めた。


宇宙の図書館というわりにはこじんまりとした部屋だった。


中央に机が一つあり、四方の壁全てがドア以外本で埋め尽くされていた。窓もない。


誰かが地下に作った個人的な書斎みたいだった。


「どんな風に見える?」とユキが訊いてきたので今感じたように伝えると、

「ヤマトにはそう見えるのね」と微笑んだ。「ここでは自由にイメージしていいのよ。気に入らなければ変えることも出来る」


僕はもう一度部屋全体を見渡した。


「全く悪くないよ。いい雰囲気。……なんだか部屋全体が意思を持った一つの生き物みたいな気がする」


「そうなの。この部屋そのものが"アカシャ"と呼ばれているエネルギーなのよ」


「なるほど。……で、どうやって過去を見たらいいんだろう?」


「まず、誰の過去を見たいの?」


「誰の?あーそうだな、どうしよう。何も決めてなかった」


「なら自分の過去を見たら?」


「僕の?」

僕は苦笑した。「僕の過去なんか見たって何もないよ。ほんの数行で足りる退屈な人生だもん」


「それは今の人生でしょ?」


「ん?どういうこと?」


「前世を見てみたくない?」


前世ときた。


「それも見られるの?いいね!見たい。なんかちょっと怖いけど」


それなら、とユキが中央の机を指差した。


「その机の上にある本を手にとって」


ユキの言うように、机には一冊の本があり、近付いて見てみると僕の名前が書いてあった。


「わ、すごい。僕の本だ」


本を開いてみる。が、そこには何やら記号のような文字がびっしりと書かれてあった。


「これじょ読めないな」とがっかりすると、


「映像を出してもらって」とユキが言った。


「誰に?」


「アカシャに。部屋全体に向かって話しかけるのよ」


「分かった」


僕は顔を上げ、アカシャのエネルギーに声をかけた。「映像を出して下さい」


すると僕の本が消え、代わりにスクリーンが現れた。


「さぁ、見たい映像を言うのよ」


「よし。僕の前世を見せてください」


何も起こらない。

スクリーンは沈黙している。


「ダメダメ。前世っていったいいくつあると思ってんのよ。もっと絞りこんで注文しないと。例えば、今の自分に一番深いところ影響を与えている前世だとか」


「ふんふん」


「その中でもどんな場面を見たいのか」


「よし、分かった」


しばらくオーダーを考えた後、僕が発したのは、


「これまでで一番イケ面だった人生。で、どんな恋愛をしたのか見せてください」


おおっ、とユキも面白がる顔になった。


「いいわね、斬新なオーダーだわ」


ザッとスクリーンに砂嵐が映ると、少しずつクリアな映像が現れてきた。

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