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【第一章・始まり】第一話・平和なひと時

少しずつ昔話をする角南氏。松沢と食べたお昼御飯の味は格別。

少しずつ進みます。

 「準備はいいかな?」

 ゆったりとした口調で角南氏が確認する。私は無言で頷いて見せる。

「そっか。それじゃ、あっ、ちょっと待ってて。」

そういうと角南氏は部屋の隅にある金庫から一つのアルバムを取りだした。

「ごめんごめん。これがないと記憶があやふやでね。それじゃ、話そうか。僕がまだまだ若かった頃の話だ。確か...二十歳は過ぎてたかな。そう、大学生だった。小遣い稼ぎのために、少しだけどアルバイトをしてた。そこで出会った松沢って奴とよく気が合ってね、ある年の秋に二人で五日間の旅行に行ったんだ。大きな旅館がある田舎に、紅葉を見に行った。いやぁ、綺麗だったよ。松沢はカメラをたしなんでいてね、これ旅館の窓から撮った写真なんだけど、すごいでしょう。見渡す所のほとんどが赤か黄色に色づいてる。紅葉狩りなんかし始めたら、家に帰れないくらいの量なんだ。で、僕らは旅行の二日目に、この小さい山に登ることにした。ほらこの、頂上が禿げたみたいな山。旅館の人曰く、観光客がよく登るから道が自然にできてるらしくてね。散歩ついでに登ったんだ。緩やかな坂でね。頂上もそんなに高くはないし、僕らはのんびり登って行った。昼には頂上に着いた。松沢が持ってきてたレジャーシートを広げて、旅館の人が用意してくれたお弁当を食べた。天気がよくてね、食べた後はすぐ眠くなっちゃって。いい大人が二人で野原でお昼寝したんだよ。あ、ここは記事にしないでね。

 どのくらい寝てたのかは覚えてないけど、目を覚ました時には周りが少し暗くなっていた。ついでにぽつぽつと雨も降ってきた。松沢も起きて早く帰ろうとしたんだけど、結構あわてんぼうな雨でね。シートを片づけた時にはザーザー降ってきて、僕たちはずぶ濡れになった。旅館に戻るまでには確実に風邪を引いてただろうな。」

「旅館には帰られていないのですか?」

私はすかさず質問した。

「うん。そうだね。旅館には帰ってない。」

角南氏はにこやかに回答した。

「でも野宿でもないよ。実はね、暗くて来た道が分からなくなって、紅葉の下を彷徨ってたんだ。そうしたら、とても大きな銀杏の木の後ろに隠れるようにして建っている小屋を見つけたんだ。これがその小屋。」

角南氏は、錆び着いたトタン屋根を持つ人気のない小屋を指差した。

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