【序章・君のこと、僕のこと】
本編じゃありませんよ。まだまだ序章です。
あまり文学的な表現が得意ではありませんが、見てくださる方はどうぞご覧下さい。
「やぁ!」
「ぶっ!?」
ノックをしようとした瞬間だった。まるで私が来るまで待ち伏せしていたかのような勢いで開いたドアが、顔面に突進してきたのは。じぃん、と痛む頬を押さえつつドアの方を見ると、唖然とした男の顔があった。束の間の沈黙の後、男は深呼吸をし、
「いらっしゃい。」
と言った。
「すまなかったね。僕の特製トマトジュースでも飲んで機嫌直して欲しいな。はいどうぞ。」
衝撃の出迎えの後、私は客室のソファーに座っていた。目の前の机の上には、先ほどの男性が持ってきてくれた赤い色の液体が入ったコップのほかは、何もない。男性はよいしょ、といって向かいのソファーに腰掛けた。
「あの、さっきのこと、私は別に怒ってなどいませんので...どうぞお構いなく。」
「あ、そう?でも僕のトマトジュースおいしいよ?是非ご賞味くださいな。」
トマトジュースを押しやろうとする私に、男性は楽しそうにトマトジュースを勧めてくる。私は苦笑いを浮かべながら、しかたなく飲んでみた。所詮トマトをミキサーにかけただけなのだろう。ドロドロとした感触を喉で感じるくらいだった。
「おいしゅうございました。改めまして、私はこういう者です。本日はよろしくお願いします。」
私は片手でコップを机に置き、背広の胸ポケットから名刺を取り出した。
「『海月編集社』!取材だったよね。雑誌の。僕の言葉があれに載るなんて夢のようだよ。」
男性は名刺を受取り、嬉しそうにそう話した。
「いえいえ。あなたがお持ちのような神秘的な体験談こそ、弊社には必要なのですよ。早速ですが、お名前と年齢、職業などの個人情報を聞かせていただいてもよろしいですか?あ、匿名でも構いませ…」
「あぁ、その前に、君のことが知りたいな。名前と職業...は、名刺で見たね、うん。住んでる地名と、趣味、あと好きな野菜!教えてね。」
話を遮られ、驚く私をよそに、男性はちゃくちゃくと話を進める。なんてマイペースなんだろう。幸いなことに今日はこの後、取材内容の編集以外に何も予定がない。たくさんの情報を聞き出すためにも、相手と仲良くなっておくのは悪くない。そんな理由で、私は彼の質問には快く答えようと決心した。
「住まいは御船にあります。趣味は…読書ですかね。好きな野菜は大根です。さぁ、次はあなたの番ですよ。」
へぇ、と彼は感心した声を出し、ソファーに座り直した。
「じゃあ、僕のターン。僕は角南蓮。50歳。農家をやっている。僕の作るトマトは絶品だよ!好きな野菜はもちろんトマト!趣味はトマトを使ったレシピを生み出すこと。最近は、トマト入味噌汁を開発中だよ。」
年齢について、白髪が含まれた頭髪だとは思っていたのでそこまで驚くことはなかった。趣味に関しては…美味しいかどうかは別として、角南氏は夢がある人なのだと位置づけした。
ここらで、私が角南氏に会いに来た経緯を説明しておこう。私は海月編集社という小さな出版社で働いている。我が社では『月刊Maa』というオカルト系の雑誌を作っていて、載せる情報はよりリアリティがあるものにしている。今角南氏を訪れているのも、その一環である。角南氏はMaaを愛読されていて、三ヶ月程前にお便りをくださった。便りには、
『僕はずっと昔にこの雑誌に載ってるような体験をしました。なんだかMaaを見てると仲間がいるのが確認できて嬉しいです。もしも書くことがなくなったら、僕の話を聞きに来てください。』
と書かれていた。私はすぐさま取材の予定を入れるつもりだったが、角南氏とはなかなか連絡が取れずにこの日になってしまった。角南氏は電話を持たなかった。パソコンは持っていたが、使い方が分からず、文通しかしていなかったのだ。幾度に渡る手紙のやり取りを、経て、ようやくこの家に辿り着いたのだった。
「えっと、じゃあ話そうか。あまりまとまっていないけど、質問はしたい時にしてね。」
そう言うと、角南氏は私が慌ててメモ帳を広げるのをにこやかな表情で見つめていた。窓からは、朝の日差しが差し込んでいた。




