表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
岡っ引きの源さんは、今日も朝帰り  作者: ねこまんまときみどりのことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/30

雅紀の秘密

 以前の拐かしと人身売買事件で、同心の阿部久太郎は裁かれた。だがそれを先導していた、与力の岩本の咎めはないままである。十分な証拠が掴めなかったことと、彼の縁戚に譜代大名がいたことでやんわり阻まれたからだ。


 田野倉利兵衛慈の権限では、そこまで攻め入ることは困難であった。やろうと思えば追求は出来るものの、その後に将軍である雅紀に皺寄せがくることが予測され断念したのだ。



「手足となる者がいなければ、岩本だけでは動けまい。様子をみよう」


「……はい。雅紀様」


 雅紀にはその言葉しか、田野倉にかけられなかった。偏に雅紀が悔しい気持ちでいることを、田野倉が一番よく知っているからだ。


 今の雅紀は急遽前将軍が亡くなり、優秀であるが故に影武者で置かれた代理将軍だった為、あまり強い態度には出られない。それは権力争いを防ぐ為に、極内輪で決められた決定。亡くなった将軍は、未だ生存していることになっている。


 代理でも将軍ではあるのだが、彼が前に出過ぎれば田野倉のことも守れなくなる。あくまでも雅紀は繋ぎで、代わりもいない訳ではないからだ。

 多額の報奨金が与えられることで、短期間と言えどその役を狙う者もいるし、今はまだ幼い前将軍の子が育てばその子に位は譲られることになっている。

 


 そんなことがありながらも、代理の将軍として使える権力を使いながら、江戸の安寧を願う雅紀と田野倉である。


「所詮は仮初めの権力だが、この機会だから自分の正義を貫くことをやってみよう」

「さすがは我が殿で御座います。どこまでもわしは、貴方についていきますぞ」


「ああ、頼りにしているよ。爺」

「お任せ下さい!」



 代理と言えど、雅紀は水戸徳川家の家臣である中山家の出である。力ある大名の次男で蘭学を学び、前将軍の主治医の一人でもあった。近くで内情を知っていたことも、彼が影武者に抜擢された理由である。


 ※蘭学とはオランダ語を通じて、西洋の進んだ自然科学や技術を学ぶ学問。医学(解剖学など)や天文学、物理学などが発展し、杉田玄白の『解体新書』などが有名。


 将軍職を解任された後は身分を隠し、報奨金を元手にして市井で療養所を開く予定である。勿論田野倉も元側用人の身分を明かしたまま、共に付いていくつもりだった。


 代理将軍となった雅紀は御簾(みす)ごしで謁見を済ませる為、その姿を知る者は少ない。知る者の多くは医師だと認識しているだろう。医師が将軍の近くにいることは可笑しいことではなく、前将軍と声も似ていることも、影武者となった理由の一つであるのだ。



 ※御簾とは、宮殿や神社仏閣、貴族の邸宅などで用いられる高級な「すだれ」のこと。竹の細いひごを絹糸などで緻密に編み上げ、縁を美しい布で装飾したもので、貴人の姿を隠す目隠しとして用いられていた。



 中山家の子息が、用済みだからと安易に暗殺されることはないだろう。可能性もなくはないが、彼は優秀な医師でもあるからだ。


 そんな雅紀達だから介入に限度はあれど、小笠原のような底が浅い者への処罰は咎められなかった。それこそ見逃せば、幕府の評判にも傷が付くからである。



 雅紀は思う。

(期間限定ではあるが、武士だけでなく平民が暮らしやすい国にしたいなぁ。みんなが幸せになれるように。きっと難しいだろうけど、頑張ろう!)


 田野倉家は近江家と懇意であり、中山家で代々働いていたことで、程ほどに権力も財力も持ち合わせている。今回雅紀の側用人に就いたのも、中山家からの依頼である。


「あの子は優秀ではあるが、政治や駆け引きには疎い。何とか力を貸して欲しい」


 中山家当主たっての懇願であった。

 利兵衛慈も幼い時から雅紀を知っていた為、快くそれを引き受けた。将軍には常時、側用人が2~4人が付いている。田野倉もその一人に加えられた形だった。



 それに次男で医師の道へ進んだ雅紀よりも、田野倉利兵衛慈の方が財力では上である。何かあれば助力する心積もりだ。

 田野倉は一度結婚したが、愛する妻は病で旅立ち子もなかった。再婚を勧められても断り、中山家で仕事に明け暮れていたところをスカウトされた。


(権力に興味もなく、武士を捨てて医師となった雅紀様だ。どんな風に彼が動くか、近くで見るのもまた一興じゃ)


 彼は心の隅で、愛しい妻に早く会いたいと願い生きてきた。死にたいとは思わないものの、いつ迎えが来ても良いと思っていたのだ。


 だが今は、もう少し長生きしたいと初めて考えを変えていた。

(後10年、いやその前に将軍様の御子が次期として立つかもしれない。それまでに雅紀様が何をされるか、楽しみだわい)



 期間限定の影武者生活。

 さて、どうなることか。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ