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岡っ引きの源さんは、今日も朝帰り  作者: ねこまんまときみどりのことり


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源と飴細工

 到着した源に「こんな……酷い怪我をして。少しは考えて行動しねえか……うっ」と、怒られながら泣かれるお菊は項垂れる。


「ご、ごめんよ、お父ちゃん。でもさ、知らないうちに前に出ちまったんだ。……今度こそ、気を付けるからさ。泣かないでよ」



 源の言葉が冷たい言葉ではなく、心から心配していると分かるから、お菊も申し訳ない気持ちでいっぱいになる。以前の囮捜査の時も、源は清次郎に逆らってまで、「危険過ぎます。お菊だけは不安なく生活させたいのです」と反対していたからだ。ちなみにその際も、お菊がやると決めた為に、なし崩しになっていた。



 面倒見の良いお菊は、反面で他人の痛みに敏感でいつも後先を考える前に動いている。


 近所の奥さん達には、「蛙の子は蛙だね。しょうがないよ、源さん」と宥めに入ってくれていた。源の性格もわりと無鉄砲な方であるから、似ているのかもしれない。


 だがお菊の気持ちとは裏腹に、彼女はそれ程強くない。護身術は基本的に、隙を見て逃げることを目的としている為、戦闘向きではないのだ。

 普通のヒョロイ男である冨樫にも、力では負けて遅れを取ってしまう程に。


 少し離れ様子を見ていた雨咲達は、お礼に行くタイミングを見定めていた。


 心の中ではもう、「大きくなったね。よく頑張ったよ、お菊」等と労り、自分達の殿のいる京都の伊折将勝の元に、連れて行きたい衝動にかられていた。


 けれどもうすぐ喪が明け、伊折将勝は江戸に戻って老中としての勤めに戻る。それならば江戸にいた方が、今後お菊に会いやすいのではないかと思うのだ。


 お菊は日本橋でいろんなアルバイトをして、近辺に顔を出すことが多い。日中の仕事を終えれば家で仕立て物も縫い合わせたり、捜査に協力することも多い為、城にいるより会う機会に恵まれそうである。



 ここで雨咲達が、お菊や源に恩を感じたと言って親しくなれば、容易に会う足掛かりともなりそうだ。


 過保護な源に「よく守ってくれているね、ありがたいことだ」と、相好を崩す腰元達。彼女の身元は、進之介達の隠密が調査をしても巧妙に身元が隠されていた。


 そこは老中の手腕と言うか側近の暗躍により、隠密達には似せ情報を掴ませたりして煙に巻いていた。やはり江戸と京都では、いろいろ勝手も違うのだろう。


 老中の力はやはり、多くの部分に影響を与えられる力を持つようだ。だからこそ、その席を狙う者も多いのは確かだ。



 さりとて、お菊に危険人物は近付けられない進之介達。

 だからこそ青葉の身元は、将勝の親戚筋の旗本の放蕩息子とし、同じく旗本の娘であるれんげと恋仲で駆け落ちしたと情報を与えた。葛樹は商人の娘、雨咲は旅一座の娘で、青葉の面倒を見る為に、青葉の懇意にしている父親関係の伝手にて頼まれついて来た設定だ。

 もう青葉は、今後も男で通すしかないのだ。


 一応身元のしっかりしている飴売り屋だが、今の生活に困窮し江戸をすぐに出ていく可能性も多分にある。


 それまでは、様子を見ていくことを決めた進之介達。そう思われているのも、情報を集めている将勝達は知っているのだった。



「お父ちゃん。さっき葛樹さん達から、お礼の飴を貰ったの。鶴の細工よ、綺麗よね」


「うっ……そうだな……こんなの見事な細工の物は、見たことない。普通のはもっと単純な形だもんな。良かったな、お菊」


「うん、すごく可愛いよね。鶴はお父ちゃんので、私のは蝶なのよ。少し腰掛けて一緒に食べよう」


「おおっ、そうするか。あ、でも清次郎さんのはあるのか?」


「あるって言ってたよ。今は他の岡っ引き達と番屋に行ってるから、戻ったら作ってくれるって」


「なら、良いか。じゃあ、食べよう。…うまいな。生の果物も練り込んでるのか? これは人気が出るさ!」


「ね、美味しいよね。やっぱり人助けして良かっただろ?」


「それとは別の話なんだけどな。まあ、今日は野暮はここまでにしとこうか。今後は一人で解決しようとせずに、番屋に駆け込んでくるんだぞ。いいな」


「はい……分かりました」


「はぁ、本当に頼むぞ」



 源はお菊が怪我をしていた為、清次郎の裁量によりこの場に残されていた。既に傷の手当ては終わっており、出血も止まっている。

 源とお菊はただただ、美味しい飴に舌鼓を打っていた。



「美味しいな、お菊」

「うん、美味しいね。お父ちゃん」


 お菓子が貴重な時代だから、丁寧に味わいながら時間が過ぎていく。その様子を見ていた者達も飴の屋台に押し寄せ、売り上げに貢献していった。


 今日のところは幸せそうな父子を見られて、一先ず安堵した腰元達。そして客が爆発的に増えたことで、それ以上屋台から離れられないのだった(整列やら材料運びなどで大忙しで、てんやわんやだった)。







 



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