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岡っ引きの源さんは、今日も朝帰り  作者: ねこまんまときみどりのことり


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飴売り達を狙う男

 葛樹と青葉、雨咲とれんげは日本橋にいた。


 青葉は客寄せの呼び込みと屋台運び、雨咲は目を引く演舞とお会計、葛樹とれんげは飴細工を担当している。


 美男の侍の呼び込みと美女の踊る舞い、そして美しい飴細工はすぐに人気店となっていた。


 飴細工は少し値が張る為、紙で包んだ堅飴(現在に通じる丸まった飴)も同時に売ることで、飴細工や演舞を見て楽しんだ者が飴を購入していくようになっていた。

 


「何だか、訳がありそうな組み合わせだ。ククッ、また儲けられそうな予感がするぜ!」


 そう呟いていた男である冨樫(とがし)は、以前同心の阿部や仁平を利用し女達を拐っていた一味ある。

 彼は江戸と大坂(現代の大阪、天下の台所と呼ばれていた)を行き来する、ある武家の手下。


 同心の阿部は、心臓の病で倒れたと知らされていた。捕まったことは知らされていない。

 尤も彼にその話をした情報屋も、田之倉の息がかかっていた。

 更にもう一人の協力者である仁平が、今まで通りの暮らしをしているので、捕まる心配もしていなかった。


 彼は繋ぎ役が途切れたことで、次の繋ぎ役を見つける為に江戸まで来ていたのだ。今回飴売りに目を付けたのは、(冨樫)の独断だった。



 冨樫の絡み付く目が、客を装い彼女達に近づいて行った。

(用心棒の男は女みたいにひょろくて、後はここでは見ない上玉ばかりだ。こんなの狙えって言ってるようなものだろう? ククッ)



 その様子に青葉と雨咲、れんげは瞬時に気付き、葛樹だけは一心に飴細工へと集中を見せた。




 そしてある日の午後、冨樫は動いた。

 彼は浪人崩れの強面の武士を5人連れ、彼女達に因縁を付けた。


「ええい、お前ら! 売りもんの飴に石が入っていたぞ。俺だけなら構わんところが、お侍様に口が切れて大変なことになった。治療費として一人5両、6人分で30両払って貰う。金がなければ俺達と来て貰おうか!」


 理不尽なことを叫ぶ町人と浪人武士。どいつもこいつも堅気じゃないが、庇えるような者も近くにはいなかった。そもそも、それを見越していたのだろう。


 彼らは荷馬車を用意しており、助けが来る前にここを去る手筈が整っていた。





◇◇◇

「何てイチャモンをつけるんだ。石なんて入る訳ないだろ? 証拠を出しな、おっさん」


 青葉が前に出て、懐刀(ふところがたな)に手をかける。腰に差しているのは竹光であり、見せる訳にはいかない。


 雨咲の演舞用扇子の持ち手(骨組みと呼ばれる扇骨(せんこつ))には、一番外側にある太い骨(親骨(おやぼね)に細刀が仕込まれている。

 人体の急所を知る雨咲には、油断を突いて屠ることが可能である。


 れんげは隠密である為、簪・懐刀・クナイ・手裏剣・草履にも鉄が仕込まれている。他にも目眩ましや毒草を常備している。


 葛樹は戦えない。


 まずは青葉が威嚇し、駄目そうであれば捕まった振りをして相手を倒す計画であった。




 けれど丁度その時、お使いに来て戻るお菊がその場に遭遇した。


「あんた達、何てこと言うの。商売は信用が命なのよ。屋台を借りて、株を譲って貰うのにもお金を払って、冥加金も納めて。それがどんなに大変なことか、知らないでしょ? 石なんて入れる訳ないわ。ふざけんじゃないわよ!」


 通常運転のお菊である。

 彼女は知らないことだが、危機回避の為に彼女専用の隠密が2、3人張り付いており、いつも見守りされている状態である。

 ただ彼女にはバレないように、町人に変装してコッソリ尾行してはいたが。



 当然助けがいることを知らないお菊だから、護身術が使えるからと、その身一つで出てきた訳だ。


「何だ、生意気だなこの女。でもまあ、よく見りゃあ、色気はないが美形じゃないか!」


「ああ、良い土産になる。給金が多く貰えるかもな。フシシッ」


「さんざん仕込めば、艶も出るだろ。ぺろりっ」



 性的な目で見られることに馴れていないお菊は、男達の視線に虫酸が走る。


「うわっ、気持ち悪い奴らだね。さっさとどっか行きな! しつこくするなら、お父ちゃんと清次郎さんが黙ってないからね」


 怯むことなく啖呵を切るお菊に、浪人達は激昂した。


「俺達を捕まえるだと? 同心ごとき、打ちのめしてやるぞ!」

「そうだ。俺達の腕前を見せてやろう。藩が無事であったなら、我らに同心ごときは近寄れなかった……。口惜しや」



 男達の顔が歪み、一斉にお菊を睨み付けた。

 さすがのお菊も、その殺気に体がビクリと反応する。



 その瞬間。

 3人の飴売り達は、近くにあった建築中の角材を手にしてお菊の前にズラリと並んだ。


「あんたの喧嘩は俺達のものだ。余所見してるんじゃない」と青葉。


 それに雨咲が続く。

「そうよ、寂しいじゃない。折角準備が整ったのに」


 れんげも負けじと、挑発するように相手を嘲笑う。

「暫く人を殴っていませんので、お相手願いますわ」


 そして戦力外の葛樹は、屋台からみんなを見守っていた。

「みんな、頑張って! (私は屋台を守るように言われたから、ここで応援するわね)」




 腰元3人は若い頃の神楽にそっくりな少女を見て、「絶対この娘がお菊だわ」と確信していた。


「ちょいとお姉さん達。袖振り合うも多生の縁。私も一肌脱がせて貰うよ」


 さっきまで怯えていたのに、今はもうニカッと笑い臨戦態勢に入ったお菊の姿に、腰元達はもう好感しかなかった。


((((恐ろしくポジティブ。やっぱ血筋ね))))



「(可愛いこと言うじゃない。ならば……)じゃあ、よろしくね。期待しているわよ」


「ええ、頑張るわ! 二度とイチャモンつけないように、ギタギタに打ち負かしてやりましょうね!」


「「「「おおっ、行くぜ(行きますわよ)!」」」」


「頑張って、みんな。でも無理しないでね」


 周囲が心配し悲愴感漂う中、葛樹だけが明るい声で応援していた。




 両者睨みあい、戦いが開始される。






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