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岡っ引きの源さんは、今日も朝帰り  作者: ねこまんまときみどりのことり


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小笠原和道の思惑

 伊折将勝に嫁いだ娘の絹江は、器量も良く幼い時から頭も良かった。


 だから(小笠原和道)は、娘の結婚相手として一番格の高い伊折家へ絹江を嫁がせた。この子なら何の失態も犯さず、家の為に動いてくれるだろうと思い。


 けれど絹江は初めての子が難産であった為、後に子が望めなくなった。その時生まれた子である晴忠も、心臓に病を抱えていた。

 表面上に変化は乏しくても、常に側近には医師を紛れ込ませ様子を見ている状態であった。


 平和な世であるから何とか勤まるも、戦となれば全てが露見し、弱い者は立場を失くすことであろう。


 だから俺は年遅く出来た我が子(三男の信幸)を、伊折家に送り込む算段を立てた。普通ならば三男は部屋住みのまま、長男、次男の手先となり使い潰されるところだ。


 それに……。

 信幸だけ後に側室とした者の子なのだ。後継ぎもスペアもいる中で、己の恋心だけで結ばれた縁は厳しい目で見られていた。おまけに側室(名は絵美)の実家が、石数が低い旗本だったせいもある。

 いっそ妾のように秘密裏に囲えば良かったが、燃え上がった情愛に理性は追いつかなかった。老いらくの恋と言うべきか。

 正妻と息子、娘(絹江)に露見した時、言葉こそないが鋭い非難の眼差しを向けられた。


「絵美様は旗本の娘です。妾のように囲えば、両家の傷となります」


 正妻の一言で小笠原家に入ることになった絵美だが、腰元や女中は仕事をするが冷たい態度だった。家族は更に言葉も交わさない程に。


 だからいつも、俺と俺の側近だけが絵美の味方だった。



 そんな状況があった為。

 何れ長男に家督を渡せば、信幸の婿入り等を考えたり、金を使わないことは分かっていた。だからこそ俺は、伊折家で力がない絹江の力になることを約束し、いつか機会が来ることを狙っていたのだ。


 信幸は絹江と13歳下で、晴忠の5つ上である。年齢的にも、養子として釣り合いが取れる。


 但しこの思惑を絹江は知らない。知ればきっと反対することは予測出きる。何故なら側室である絵美と神楽の関係性は酷似しているからだ。


 けれど伊折家には直近家系で、該当しそうな男児はおらず、縁戚と身分でならば小笠原家が有力視されるだろう。元々伊折家と小笠原家は親戚筋となるからだ。



 だからこそ、後の障害となる神楽を殺すことに手を貸した。本来なら絹江を諌める立場である、父の俺が。晴忠は事故でなくとも、長く生きられぬと医師の言も、秘密裏に入手していた。絹江は神楽を黙って迎え、家を継がせる男児を生ませるべきであった。


 でももう遅い。神楽とその子供を殺す指示を出したのは絹江だ。俺はその事実を握っている。露見すれば俺も危うい。伊折将勝の子を殺したことに手を貸したとなれば、ただでは済まないだろう。


 そして絹江は老中の妻の座を降りない。今更矜持が許さぬだろう。でもそう育てたのは俺だ。それと同時に傅役(もりやく)(身分の高い武士家の教育係)には、生家の益を優先するように育てさせた。

 戦乱となり敵味方に別れる時、一番守るべきは生家となるような洗脳を。だから矛盾していても裏切れないだろう。



 

 神楽と赤子を殺した刺客は、2人を殺した報告を受けた後に俺の隠密が殺した。口封じだ。


 信幸の準備は整っているが、未だ養子の打診は来ないままだ。解せぬ。



「安吾、おるか?」

「はい、ここに」


「伊折家の内情を調べてくれ。向こうにも手練れの隠密がいるから守りは固い。油断するな」

「はっ。了解です」



 天井裏に潜み護衛をしていた安吾は、幼き時から俺を守ってくれている信頼する部下だ。正妻や嫡男よりもずっと……。



「信幸が伊折家の当主になれば、絵美も肩身の狭い思いをせずに済むのだがな……」




 小笠原和道は、何処までも自分本意だった。

 絹江よりも余程罪深い。






※旗本は石高が100石以上で、将軍への謁見(御目見)が許される家柄。大名は石高が1万以上となので、それ未満の家柄である。1石は約150kg(成人1人が1年間に消費する米の量)に相当する。



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