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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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21.天才と天才の差



 ハルの魔法を付与した矢とアランの魔法が衝突し、その衝撃波で近くの家屋の屋根が吹き飛ばされる。


(これだけ暴れてたら他の獣人にももうバレバレだろうし、いつ援軍が来てもおかしくない。周りに被害が出ないように戦うなんて器用なこと、私にはできないぞ……!)


 これ以上ここで戦闘を続けると、他の獣人も巻き込みかねないと、ハルはチラリと右手首の魔石に一瞬視線を向ける。


 ハルの標的はあくまで1人のみ。

 それ以外の獣人を巻き込むつもりはないし、何なら、今目の前でハルの命を狙っているアランですら、殺すつもりはない。


(……これじゃまるで、いつでも彼を殺せるみたいな言い方だなぁ)


 自分の心の声にセルフでツッコミを入れる余裕くらいは、まだハルの中にはあった。


 アランがハルの持つ魔道具を壊さないように加減しているというのも勿論あるのだが、それ以上にハルが左目の魔眼を利用した戦闘にかなり慣れてきていたのだ。


 魔力を見る魔眼。

 ハルの眼は魔力の流れをハッキリと見ることができるため、無詠唱魔法だろうと詠唱魔法と同じように魔法を撃つ準備がされているというのが前もって分かるのだ。


 そのため、アランが魔法を撃つために魔力を練り始めたら、同じくハルも防御用の魔法の準備をすればいい。防御に全振りして、何とかやり過ごしていると言った方が正確だが。


(どちらにせよ、アランの目的はこの魔道具。それなら、彼は私を追ってくるはずだ……!)


 ハルは次の魔法を撃とうとしているアランに対し、クロスボウの矢に魔法を付与する。


 アランから放たれた無詠唱の雷魔法がハルに当たる寸前、ハルの足元に魔法陣が展開され、ハルは魔法を回避すると同時に姿を消した。




        ×  ×  ×




「どうした? 最強もその程度か?」


 戦場をミラの故郷である廃村に移したロイドとアークは、ロイドの防戦一方という戦況となっていた。


(相性……確かに最悪だな)


 炎の魔法を扱うアークと、水の魔法を得意とするロイド。それだけ聞くとロイドの方が相性が良さそうに見えるが。


(冗談じゃない……)


 アークが扱う炎は触れた瞬間に水分を蒸発させてしまう程の高温を誇る。しかも、その炎を体の周りに集めても自身には火傷の1つも負わすことはない。つまり、自傷を恐れず数千度の炎を操るのだ。


(まさか、ここまでとは……本当に1対1で倒すことができるのか……)


 隙はない。相性も最悪。

 ロイドは廃屋の陰に身を隠しながら、ゆっくりと息を整えた。


 考えてみれば、本気で勝てないかもしれないと思わされる相手は、物心ついたときまで遡っても初めてかもしれない。


 魔法とは、その才がなければスタートラインにすら立つことが許されない、生まれながらにして手にした才能。

 誰もがスタートラインに立てるわけではないが、スタートラインに立ててからは努力がその差を広げる。


 生まれてこのかた己よりも強い者と出会ったことのない10代の少年と、たった1人の強者から一本取るためだけにがむしゃらに努力をしてきた男。


 想いの強さもそうといえる。

 方やたった1人に対する怒りと、方や全人類に対する怨嗟。

 その想いの強さの差は先天的な才が同等な時、初めて形となって生まれる。


 ロイドは今、生まれて初めて、己よりも強い──それも、本当に足元にも及ばぬほどの敵を前にしていた。


(……って、今さらそんなことを考えたところで、この状況が変わるわけでもない。必要ない思考は時間の無駄だ。今は冷静に戦況を分析しろロイド)


 ロイドは杖に魔力を溜めると、家屋の陰から姿を出す。


「……覚悟は決まったか?」


「ああ、とりあえず逃げさせてもらう」


「………………なに?」


 ロイドの突然の逃亡宣言に思わず首を傾げるアーク。

 だが、そんな反応も束の間、いきなりアークの周りが暗くなる。


(……! 何だ? 影……?)


 アークを中心にその影が物凄い勢いで広がっていく。

 そして、気付いた時にはもう、避けられない範囲にまでそれは近付いていた。


「何かもう面倒くさいから、いったん全部被ってよ」


 と、ロイドが言葉を言い切る前に、アークの周りを覆う炎から突如水が蒸発する爆音と一瞬のうちに発生した水蒸気で視界が遮られる。


 バケツをひっくり返したような雨とはよく聞くが、そんなものは比でもない。

 それこそ、湖を丸々1つひっくり返したような水量が、まとめてアークへと降り注いだ。


「な……ッ!?」


 流石のアークもこれほどの水量が一瞬で何もなかった空中から降り注ぐとは思っておらず、降り注ぐ水自体は己に届く前に蒸発していっているとはいえ、その圧力に耐えきれずその場に膝を付く。


 一瞬で辺りが高温の水蒸気に包まれた隙に、ロイドは水蒸気から逃れるように廃村を出て森の中へと駆け出す。

 追撃を仕掛けても良かったが、流石にベーダから大技を連続で使い過ぎていた。高温の水蒸気から自分の身を守るための魔法を使い続けるのも馬鹿らしい。


(それに、自分で生み出した炎では火傷はせずとも、そこから発生した水蒸気の高温には果たして耐えられるかな?)


 ロイドの読みは正しかった。

 アークは自分の魔法で発生させたわけではない超高温の水蒸気にあてられ、首の後ろから背中にかけて大火傷を負っていた。


(……チィッ、まさかこれ程の魔法を一瞬で……ただの天才ではないということか)


 アークは火傷の痛みに堪えながら、魔法で作った炎の大樹の幹の中へ姿を隠していた。

 

 数億トンの水量が全て蒸発したのだ。

 その水蒸気の範囲は瞬く間に廃村の外まで広がっていき、廃村にある家屋はもちろん、そこかしこの森の木々からも水蒸気の高温で火が上がりだす。


(……森が燃え出したな。獣人の五感を断ちに来たか)


 蒸発と火事の音で聴覚を潰され、水蒸気で視界を潰され、廃村の家や森の木々が焼け焦げる匂いで嗅覚を潰された。


 大樹の幹の外はまだ高温の水蒸気が漂い、迂闊に外に出ることはできない。


(とはいえ、ここまでの大技だ。奴も魔力を相当使っているだろう。まぁいい、少し休戦だ)


 アークはその場に座り込むと、コキリと首を鳴らした。



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