19.それぞれの戦い
(この街に着いてからある程度見て回ったが、やはり戦闘慣れしている獣人兵が少ない)
ロイドは目の前にいる獣人兵の銃弾を水の防壁で防ぎながら、分析を続けていた。
昨日のアインツベルク王国国王襲撃からまだ24時間と経っていない。昨日のアーク=ド=シューターの口ぶりからして、恐らく襲撃があったのはアインツベルク王国だけでなく、大陸の主要国のほとんどに同時攻撃を仕掛けていると思われる。
つまり、彼らビスト帝国の主力部隊はほとんどが世界各国に散らばっているということだ。
今ここに残っている獣人兵は、新しく移民してきた一般の獣人に武器の扱いを教える教育係のような役割の者達ばかり。だが普通に考えれば、実力者は各国の襲撃の方に回されるはずだ。つまり──
「今、最も手薄な陣営はこの街だ。それが確認できれば、あとは強行突破で──っ!?」
2体の水龍を上空に舞い上がらせ、先程感じた魔力の方角へ狙いを定める。
しかしその瞬間、水龍の顔部分にロイドを狙っていた銃弾とは威力が桁違いの砲弾が放たれ、着弾と同時に2体の水龍を吹き飛ばした。
「……へぇ」
興味深いと眼下に視線を向けるロイド。
そこには先程の武器庫で見たような銃とはまた違う、筒状の大型砲を担いだ獣人兵が何人か映った。
(あれがハルの言っていた筒型の兵器……ロケットランチャーってやつか)
水龍を一撃で吹き飛ばすのだから威力は十分。ただ、次弾の装填にある程度の時間を要している様子。
結論──
「優れた兵器も扱う者が拙ければ、宝の持ち腐れってわけだ」
あのロケットランチャーの装填中には別兵が援護するなど、しっかりと連携を取るのが本来の戦法であるはずだ。しかし、彼らはまるで連携が取れていない。
(少なくとも、いくら隙を突かれたとはいえ、こんな奴らにカナタやゴドウィンがやられるとは思えない。間違いなく、今各国に攻め込んでいる獣人兵と、目の前の獣人兵には天と地ほどの集団としての実力差がある)
彼らを無力化するのにわざわざ意識を刈り取るまでもない。彼らの頼みの綱を破壊してしまえば、戦意は喪失するだろう。
ロイドは照準を獣人兵の手元に合わせる。
元々、彼らの命を奪うつもりはない。そもそも戦意が高くない兵士達ならこれで十分だ。
「それにしても、いくらなんでもザル過ぎないか……?」
「そりゃ、必要がないからな」
「……!?」
背後から聞こえた声にロイドは振り向きざまに氷の剣を一瞬で生成し、声の主の首目掛けて薙ぎ払う。
しかし、その剣は声の主の首を捉えたかと思った瞬間、剣先が溶けて蒸発した。
「くっ……!」
屋根の上から緊急回避で転がるように飛び降り、下にいた獣人兵達の真ん中に着地する。
「ああー、いい、いい。そいつはお前らには無理だ。俺がやる」
その声を背中に聞きながら、ロイドは自分の足元にのみ水流を生み出すと、その水流を操りながら戦線を離脱する。
「獣人相手に鬼ごっこか? 面白い、乗ってやる」
昨日の軽装とは違うモノトーンの戦闘装束に身を包んだ声の主──アークは、軽く腰を落とすと逃げるロイドに向けて屋根を蹴る。
アークの速度の衝撃に耐えられず足場にしていた家が崩れる。
(……やっとお出ましか。ここじゃ被害が大きくなり過ぎるか)
「同感だ。場所を移そう」
「……!?」
先程までの獣人兵達からの逃走時よりも数倍の速度で移動しているにも関わらず、アークは一瞬でロイドの横に並ぶ。
ロイドは瞬時に水の壁を己とアークの間に展開し、迫るアークの拳を受け止めると、それと同時にアークの頭上から5メートル級のつららを大量に生成し、一斉に降り注がせる。
しかし、アークが水の壁に絡め取られている方とは逆の腕を頭上へ向けて振るうと、つららが瞬く間に蒸発してしまう。
「相性最悪だな、最強くん」
「…………」
アークの腕を絡め取っていた水の壁も、アークが腕から炎を出して蒸発させる。
「必要がないってのはどういうこと?」
「確かにここはこの大陸におけるビスト帝国の拠点だ。だが、我々の国は海の向こうにある。何の思い入れもないこの街が壊されたところで何とも思わん。それなら高い戦力は最前線に置くべきだろう? 我が国で一番強い俺に、護衛も必要ないしな」
あくまでこの街はひと月前に陥落させたサランド皇国の首都であり、この大陸で拠点を持っていなかったビスト帝国がたまたま拠点にしているだけである。確かに物資等もあるかもしれないが、彼らが戦力を割いてまでこの街を守る理由も特にないといことだ。
「それでも、大陸唯一の拠点は大事なんじゃないの?」
「……そうだな。だから俺がいる。世界各国に同時攻撃を仕掛けている今の状況で、この街にまで戦力を割ける国がいくつあるかは知らんが、俺がいれば問題はない。それが、一国を代表する実力者だったとしてもな」
挑発するかのように笑みを浮かべるアーク。
そんなアークを前にロイドは最大限の警戒を強めながら、それでも背後から感じる魔力に心の中で首を傾げる。
(さっき感じた魔力はまださっきの場所から感じる。てっきりこいつの魔力だと思ってたんだけど……じゃあ、あの魔力は何だ?)
「さて……ここで俺達が本気でぶつかったら、流石に他の獣人兵もただでは済まない。お前の標的は俺だろ? 場所を移そうじゃないか」
「……どこに?」
「昨日お前達と会ったあの村でいいんじゃないか?」
「……分かった」
用があるのはこの男ただ1人。他に邪魔されるのは避けたかったが、1対1の場を用意してくれるのはロイドからしても好都合だ。
2つの詠唱の声が重なった数秒後、そこから数百メートル離れた場所で爆音が鳴り、大きな砂煙が上がった。
× × ×
「カイ!! シュナの援護!! アマネとルルはリリィと連れて今すぐここから離れろ!!」
放たれた矢がアランの足元に着弾すると同時に爆発が起き、大きな砂煙が上がる。そんな中で余裕のないハルの怒号が聞こえると、各自がハッと正気を取り戻す。
「ハル!」
「シュナ! アルはシュナとカイに任せる!!」
ハルの攻撃で視界が塞がれていて、ハルの声は聞こえるがその姿が確認できない。
(あの物言いだと、アランはハル1人で相手をするという風に聞こえるぞ!? 流石にそれは無謀過ぎる! だが──)
「オラァ!!」
「……っ!」
砂煙の中でも関係なく大剣を振り下ろしてくるアルに、シュナは刀で応戦する。向こうも獣人である以上、視界が悪い程度では攻撃の手を止める理由にはならない。これでは簡単にハルの援護には行くことができない。
「あのガキとは何度か手合わせしたが、お前は初めてだなぁ! 意外とやるじゃねぇか!」
喜々として振り回す大剣と鋭い刀が何度もぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
シュナは一歩二歩と押されながらも、全ての攻撃をいなしていく。
「カイ! 私の方はいい。お前はハルの方へ援護に行ってくれ!」
「……! お、おお!」
シュナの言葉にカイがハルとアランの方へ足を向けるが、急に襲ってきた悪寒にカイは横っ飛びで緊急回避を取る。すると、先程まで立っていた場所にアルの大剣が突き刺さる。
つい数瞬前までシュナと打ち合いをしていた大剣をカイへ目掛けて放り投げたのだ。
「おいおいおい、そりゃつまり、俺よりアランの方を警戒してるってことかぁ? 舐められたもんだぜ。2人でかかってこいよ。あんまり臭い台詞は吐きたくねぇんだがよ、あいつの方に行きたきゃ、俺を倒してからにしてもらおうか」
アルは地面に刺さった大剣を引き抜くと、ゆっくりとした動きで肩に担ぎながら2人の前に立ち塞がった。




