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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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18.まずは……

お久しぶりです。

ハーメルンとpixivで書いてた二次創作が完結したので、再びこちらの執筆に戻りたいと思います。


「……? 何だか街が騒がしいな」


 シュナが鼻をすんっと鳴らしてそんな事を言い出す。

 ハルはその言葉を受けてルルとリリィに視線を向けると、2人も同意見だとばかりに頷き返した。


「街中で慌ただしい足音が増えたわ」


 ルルの返事にハルはふむと顎に手を添える。


 考えられることと言えば、ハル達がこの街に侵入していることがアルとアランによって知らされ、総動員で探し始めたのかもしれない。


「とはいえ、ここで私達の顔を知ってるのはあの2人だけだし、むしろ今がチャンスかもしれない」


 今はハルもアマネも獣人の姿をしている。仮にハル達が捜索されているとしても、少しは時間がかかるだろう。しかも、この騒動のおかげで城の警備が薄くなっている可能性もある。


「いや、待て」


 しかし、そんなハルをシュナが止める。


「……?」


「人の波が近付いてきている」


「はい?」


「建物の陰に隠れるんだ」


 シュナの指示に従って建物と建物の隙間に隠れる一同。

 すると先程までいた大通りを何かが高速で通り過ぎた。


「うわッ、何!?」


「待てハル。まだ顔を出すな!」


 通り過ぎた何かを追うように建物の陰から顔を出そうとしたハルの頭を押さえるシュナ。

 すると、武装した獣人兵数人がそれを追いかけていった。


「……どうやら、この騒ぎは我々が原因ではないようだな」


「私には速すぎて見えなかったんだけど、今何が通り過ぎたか見えた?」


「うむ……実は私もはっきりと見えはしなかったんだが、だが、匂いに覚えがあるような……いやでも、頭に耳があったような……」


 考え込むように顎に手を当てるシュナだったが、次の瞬間先程獣人兵達が走っていった方から銃声が響いた。


「発砲まで……ただ事じゃなさそうだね」


「どうする?」


「いや、やっぱり今がチャンスだ。急いで城に向かおう」


「どうやってだ? くそ野郎」


「「……!?」」


 その声は2人の頭上から。

 建物の屋根から大剣を担いだアルが2人に目掛けて飛び降りてくる。


(何っ!? 私の索敵を掻い潜ってきただと!?)


 虚を突かれたシュナがギリギリのところで抜刀し、体重の乗った大剣を受け止める。

 ハルは転がるようにして大通りに出ると、左目の眼帯を取って周囲を警戒する。


 アルがいるということは、アランも近くにいる可能性が高い。この2人の魔力は流石に覚えた。それならどこに隠れていようが関係ない。


「ハル! 後ろだ!!」


 しかし、それはあくまでも視界に入っていればの話。

 路地からカイの声が聞こえた時には、バチバチと全身に雷を帯電しているアランが今まさに、ハルの背後1メートルの至近距離から、ハルの心臓目掛けて雷撃を放とうとしていた。


「ハル!!」


 シュナはアルの攻撃を受け止めていて動けない。

 カイもアマネも雷撃の攻撃速度を上回る速度では動けない。


「リリィ!」

「うん!」


 既にお互い1回ずつ使用してしまっている幻覚魔法だが、ハルを救うためには今ここにある手札として、双子の幻覚魔法しかない。


 回避不可能の最強魔法である幻覚魔法だが、唯一弱点があるのだとするのなら、ターゲットにどのような幻覚を見せるか明確にイメージをする必要があるということだ。そこに僅かな、本当にコンマ数秒の僅かなタイムラグが発生する。


 今まさに、ハルが雷撃で撃ち抜かれようとしているこの瞬間、ハルを救うためには刹那よりも短い時間でそのイメージを完成させる必要があり、本当に必要最低限のイメージと範囲でしか幻覚魔法を発動することができない。


(故に──)


 ハルに放とうと左手に溜めていた一筋に稲光が、アランの人差し指の先からカイ達のいる路地裏へ伸びる。


「……え?」


 その声は、誰から発せられた声なのかは分からなかった。

 アランの目の前からハルの姿が消え、代わりに両手にダガーを持ったカイがアランの頭上からその切っ先を振り下ろす。しかし、それがアランに当たる寸前にカイの姿が煙のように消えてしまった。


 的確に発動した幻覚魔法が、1秒と持たずに解除されてしまったのだ。


「がら空きだぞ、ウサギ」


 路地にドサッと小さな少女が倒れる音が響く。

 その一瞬、ハル達の中で時間が止まる。ハルが貫かれるはずだった雷撃が、あらぬ方向へ飛んで行ったことに関して、誰も理解が追い付けずにいた。


 しかし、敵はそんなものを待ってはくれない。


「次は貴様だ。咲場 春」


 そう言ってアランは右手に再び雷を蓄電させると、幻覚魔法が解除されたことで再び目の前に現れたハルに目掛けてそのまま右手を振り下ろす。


 ハルは咄嗟に太ももに隠してある短剣を取り出すと、それを逆手に握り、振り返りざまにアランの雷撃の突きを刃の部分で受け止める。


 すると、右手の雷撃が短刀の刀身に吸い込まれていく。


(……! 魔法が吸収されたのか? こいつ、まだこんなものを隠し持っていたのか)


 ハルは右手の短刀でアランの攻撃を防ぎながら、左手で道端に転がってる小石を拾うと、その小石をアランの顔目掛けて投擲する。

 当然ただの投擲ではない。右手首の魔道具によって風の魔法が付与された小石だ。


「……っ」


 それをギリギリで顔を傾けて躱すと、アランは一足飛びで距離を取る。

 左の頬に熱いものを感じ、右手で左の頬に触れると、その感覚通り右手の指に血がついていた。


 心の中で舌打ちをしたアランは改めて目の前のハルに視線を向けるが、ハルはアランには目もくれず、路地に視線の方を見ていた。


「…………」


「……厄介な幻覚魔法の片方はこれで潰した。心配するな、黒髪の方も直に殺してやる」


 その言葉にハルがゆっくりとアランの方を振り向く。

 路地で血溜まりに倒れるリリィにカイ達が駆け寄り、冒険者で多少治療の知識があるアマネが応急処置を施している。


「無駄なことを。確実に心臓を貫いた」


「…………」


「忠告はしたはずだ。お前が持ち去ったあの魔道具。アレをこちらに渡さないというのなら、今度こそ死んでもらうと」


 ハルはゆっくりとした手付きで背中のクロスボウを手に取る。

 瞳孔が開いた左目は紅玉のように紅く輝きを放ち、正面のアランのみを捉えている。


「黒髪の前にお前でも構わんぞ。来い、人間」


 右手首の魔石を光らせ、ハルはクロスボウを構えた。




        ×  ×  ×




 ピリっと首筋に強烈な魔力を感じ、ロイドは魔力の操作で移動速度を向上させていた足を止め、一軒家の屋根で立ち止まった。

 後方から追いかけてきていた獣人兵はいったん無視し、その魔力を感じた方へ視線を向ける。


(この魔力、アーク=ド=シューターか?)


 ロイドが目指していた城とは全くの別の方角からその魔力を感じたため違和感を覚えたが、この魔力は昨日相対したアークの魔力と酷似していた。


(あの2人にわざわざ僕のことをバラさせたはいいけど、思ったより早かったな)


 ロイドは武器庫でのウサギ科の獣人2人との会話を思い出していた。




「ルルとリリィという名に聞き覚えは?」


 ロイドの問いに、ウサギ科の獣人夫婦が目を見開いた。

 その反応で、もう答えが出たようなものだった。


「な、何故その名前を?」


「知り合いだからね。そんでもって、あんたらからあの2人に酷似した魔力を感じた。あんたら、あの2人を売ったっていう両親でしょ?」


 2人は言葉に詰まる。

 ただ、別にロイドは今ここでこの2人を責めるためにここまで追ってきたわけではない。わざわざ遠回りをしてまで追ってきたのだから、役に立ってもらわなければ困る。


「その表情。何か事情があったっぽいけど、悪いね、今は正直そんなことはどうでもいい。それより、僕に手を貸す気はない?」


「あなた、何者なのよ?」


 旦那の背中から黒髪の妻が、ロイドに問いかける。

 しかし、ロイドはその問いには答えない。


「ないならそれでもいい。ここでお別れだ」


 そう言って、ロイドは2人に背を向け、武器庫を後にしようとする。

 しかし、白髪の旦那の方が、そんなロイドを呼び止めた。


「ま、待ってください。手を貸すって言っても、我々には貴方や、娘達のような魔法は使えません」


「聞いてたから知ってる。別に難しいことをやってもらおうとも、あんたらの身を危険に晒そうとも思ってない。ただ、僕がここを出て行った後、他の獣人兵にこう伝えてほしいだけ」



 ──アインツベルク王国最強の冒険者を名乗る男が現れたって。



 首に下げたネックレスを外し、眼下に集まる獣人兵に視線を向けると、ロイドはコキっと首を鳴らす。


「お前らは奴をおびき寄せる餌に過ぎない。しばらく寝てな」


 ロイドの後方に現れた2体の水で型取られた龍に、獣人兵から息を飲む音が聞こえた。


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