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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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17.ウサギ科の獣人


 港の貨物船を破壊し巨大な竜巻で航路を遮断したロイドは再び例のネックレスを首から下げ、街の中へと戻っていた。


(アーク=ド=シューター……恐らく僕が出会ってきた中で最も強い相手。奴が戦場に出たらあの兵器がなくとも無双できるだろうが、総大将である奴が万が一殺されでもすれば戦況は一瞬で変わる。そんなリスクを犯すような馬鹿には見えなかった)


 つまり、奴はここにいる。


 初めて1人では敵わないかもしれない。そう思わされた最強の敵。ドラゴンですらその杖ひとつで葬ってきた彼が確信してしまった。自分と彼の実力差を。


(……陛下、ゴドウィン、カナタ。他にも寄りにもよって選りすぐりの兵士達が集まっていた所を襲撃された。ラインがどこまで情報統制できるか分からないが、国と兵の司令塔を同時に失ったという事実は一瞬で国中に広まるはずだ。その前に、この戦争は終わらせる必要がある)


 まだ昨日の襲撃があってから24時間も経っていない。

 敵もこのスピード感で既に懐まで入り込んでいるとは思ってはいないだろう。


(例え敵わない敵だろうと、そこに隙はあるはずだ。この機は絶対に逃せない)


 そこまで大きくない首都ベーダ。その街中から銃撃の音が響いている。恐らく新しくこの国に移動してきた獣人に銃の訓練を受けさせているのだろう。


 サランド皇国陥落前から訓練を受けていた獣人兵を各国に奇襲させ、アインツベルク王国のように敵重要戦力を減らしているうちにここひと月で移民してきた新戦力に近代兵器の訓練を受けさせる。


 そして大陸側が混乱しているうちに、訓練を終えた移民勢をさらに新しい戦力として増員する。


 恐らくそんなところだろう。

 そこまでいったらもう後戻りができない。


「ほう、あなた方はウサギ科ですか。ウサギ科といったら魔法が得意と聞いたことがありますが」


「い、いえ……私達夫婦に魔法の才は……」


「なるほど、あるあるですね。かく言う私も両親は魔法が得意だったのですが、私は魔法の才が全く無くてですね。でもここにある武器は魔法の才関係なく扱えますので、凄いんですよ!」


(ウサギの、獣人?)


 不意に聞こえてきた会話につい足を止めるロイド。

 知り合いの双子が頭を過ぎったからだろう。


「うちも私達は魔法が使えないのですが、娘は誰に教わったでもないのに幻覚魔法が使えるんです」


「幻覚魔法ですか……! それは凄いですね! ちなみに娘さんは一緒ではないのですか?」


「はい。娘は……今は一緒には暮らしていなくて」


 恐らく、最近この国に入ってきたばかりの獣人の夫婦と、そういった移民の世話役をしている者なのだろう。その夫婦は基本黒髪ウサ耳の奥さんが会話をしており、白髪ウサ耳の旦那さんは1歩後ろを静かに歩いている。


 そんなところも、本当に似ていた。


(……見た目だけじゃない。この魔力──、参った。他人の空似で済ませられるレベルを越してる)


 以前、ハルから聞いた話では、ルルとリリィは両親に売られ、人身オークションに出品されたところをたまたま居合わせたハルに買われたという経緯を持っているらしい。


(勘弁してくれ。僕は急いでるんだ。一刻でも早くアーク=ド=シューターを倒さないといけないんだ。その後でもいいじゃないか。優先順位を間違えるなロイド)


 ロイドが己に言い聞かせている間にも歩みを止めない3人の話し声は段々と遠ざかっていく。

 アインツベルクの王都と比べると小さな街とはいえ一国の首都でもあるベーダで、通常よりも獣人が多く集まる中、索敵系の魔法が使えないロイドが一度でも見失えばもしかすると二度と探し出すことはできないかもしれない。


「…………チッ」


 別に、ここでロイドが何かしてやる義理はないし、そもそも何をしていいのかも分からない。


 恐らくここにライン王子あたりがいたら珍しいこともあるもんだと目を見開いていたかもしれない。想像するだけでムカつくその顔を見なくて済んだことだけはせめてもの救いだ。


(はぁ……また今度リリィに美味いご飯を作ってもらおう。そうしよう。)


 王城に向かっていた足は回れ右をし、索敵に優れた獣人に怪しまれないように十分に距離を保ったまま、ロイドは3人の後を追った。



        ×  ×  ×



 3人の後を追ったロイドが辿り着いたのは、恐らく以前の名残の看板が外に出たままとなっている施設だった。


(酒場……?)


 道路に面した窓から中の様子を覗くと、そこには飲食店の様相はなく、多種多様な近代兵器が保管されていた。


(なるほど。カモフラージュの意味も込めてここを武器庫にしているのか)


 中には先程入った3人しかいないようだった。

 人目につかない今がチャンスだろう。


「ここで自分の武器を各々選んでもらいます。後ほど演習場に案内しますので、そこで試し撃ちをしてください」


 足の運び方などを見てもあのうさ耳の夫婦は間違いなく戦闘経験のない一般人だ。そんな者であっても彼らは戦力として数えているらしい。


(ある程度訓練を積ませるとは思うが……そこまであの兵器に自信があるってことか。いや、それ以上に奴の目的が人間の絶滅に振り切っているともいえるな)


 人間が絶滅するのなら、それまでに払う犠牲は気にしない。


 下手をするとそこまでの思考に陥っている可能性もある。

 ロイドは窓に映る自分の姿を確認すると、堂々と酒場の入り口を開けた。


「……!? だ、誰ですかあなたは?」


「いや、数時間前にこの街に着いて、その時案内してくれた人にここに行くように言われたんだが」


「あー、なるほど。あなたも移民ですか。それではこちらへどうぞ。あなたもこちらのお二方と一緒にご自身の武器を選んでください」


 ロイドは奥に並ぶ数々の銃の前に移動し、1つずつその銃を確認していく。


 片手でモテるタイプのハンドガンに、両手で持つタイプのマシンガン。

 基本的にはこの2つのタイプがあり、更にそこから色んな形の銃が用意されている。


 まだこの近代兵器が使用されているところを見たことがないロイドにとっては違いがよく分からないが、王城に攻めてきた獣人兵は兵によって持っているタイプが違っていた。あの獣人兵の持っていた銃をシュガレットが解析する以上、性能や弱点などはすぐに分かることだろう。


「僕は魔法が使えるんだけど、絶対に選ばないと駄目なの?」


「魔法ですか。ちなみにどういった魔法が?」


「うーん、そうだな……例えば──」


 懐からゆっくりと杖を出すと、その杖先を案内役の獣人へ向ける。


「こんな感じの魔法とか?」


「──っごぼっ!!?」


 杖を向けられた瞬間、案内役の首から上を丸々水の球が覆う。


「がぼっ──!? びばばばびぼっ──! ……ぐぅぅっ」


 突然息ができなくなり事態を把握しきれない案内役は混乱しながらも懐からハンドガンを取り出し、ロイドに向ける。


 ドンッドンッ! と銃声が4人しかいない店内に響くが、銃弾はロイドに届く前に水の壁に阻まれる。


 その後も連発するが、水の壁に威力を吸収されてしまった銃弾は全てその場に落ち、十数発撃った後、カチカチと弾切れを起こす。


「ぐっ……!」


「…………」


 特にこれ以上ロイドから何かを仕掛ける様子は無い。

 数十秒後、窒息により意識が途絶えた案内役はその場に力無く崩れ落ちる。


 意識を失った案内役に近付き息をしていることを確認すると、ロイドは部屋の隅に身を寄せていたうさ耳の夫婦へ振り返る。


「……っ。あなた、何者ですか?」


 黒髪の妻を守るようにハンドガンをロイドに向けて警戒する白髪の夫。目の前の出来事に手は震え、怯えた表情を見せている。


 そんな2人にどう言葉をかけようかと悩む。自分と似た境遇のあの双子の顔を思い浮かべ、自分ならどうするかと考えた末、1つの結論を出した。



「ルルとリリィという名に聞き覚えは?」




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