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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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16.誰もが認める最強魔法


 ──あたしの魔道具を使って、人類全てをクァルフと同じ完全な獣人に変えてしまうことだ。


「こりゃ驚いた。その耳と尻尾ホンモノか?」


「いや、魔法だろう。あの方が耳と尻尾消すのに使っていた魔法の逆だ」


「ああ、なるほどな。しかし、ホントてめぇらとはつくづく縁があるなぁ。いつもいつも邪魔ばかりしてくれる。ただ、今回だけは感謝してやるぜ」


 部屋の入口にある暖簾をバキッと折りながら部屋に入ってくる黒装束の2人組。フードを被り、口元も黒い布に隠れているため目元しか確認できないが、これまで幾度となく激突してきた2人。今更間違いようがない。


「アルとアラン……」


「世界中探し回っていたんだが、やはり始まりの地と呼ばれているこの国にあったか」


「これでわざわざ従順で優秀な魔道具研究者を探さずに済むなぁ」


「…………!」


 彼らと遭遇する時、常にその近くには魔道具や魔道具研究者が関係していた。

 全てを見てきたというルナ博士が言うように、この2人の狙いは──


「そこをどいてもらおう。我々はその先の物に用がある」


「……嫌だと言ったら?」


「……キサラギにアランカだったか? 二度までは見逃してやったが、三度目は無い。今回ばかりは確実に死んでもらうことになる」


 あの日、ハルがこの世界に来て唯一死を覚悟した日。そして、彼女の寿命を縮める初めの原因を作った相手。嫌でも思い出してしまう。彼との実力差を。そして、もうハルはあの時のような力を出すことも出来ない。


 一瞬、チラリと背後にある地下へと続く階段に視線を向ける。


(それでも……この世界はやれないなぁ)


 ハルは流れるような動きで背中のクロスボウを手に取り安全装置のロックを外すと、元々セットしておいた矢をノータイムで長身のアルへ向けて放つ。


 普通の人間なら反応することも出来るはずのない速度の矢をアルは難なく素手で掴み取る。


 この2人がフードを外した所をこの目で見た訳ではなかったが、それこそキサラギで初めて出会った時から彼は獣人特有の反応速度でクロスボウの矢に難なく反応していた。


「……っ!?」


 故に、ただの矢を撃つわけがない。


「チッ、煙幕か」


 アルが掴んだ矢から白い煙幕が上がり、あっという間に部屋中を満たしていく。


「獣人舐めてんのかぁ!?」


 背に担がれた大剣を抜くと、アルは聴覚と嗅覚を生かし己に突っ込んでくる小さな人影に向けて勢いそのままに振り下ろす。


「……!?」


 しかしその剣は見事に空を切り、地面に突き刺さる。


「アル、幻覚魔法だ。神経を研ぎ澄ませろ」


 獣人かつ戦闘強者の2人にとって目くらましである煙幕などあってないようなもの。本来なら視界が塞がれていても空間の把握は朝飯前だ。

 幻覚魔法で姿を消そうとも、物質をすり抜けられるようになった訳では無い。

 ひとつしかない出入口を2人が固めている以上、ハル達はそちらに突っ込む他ないのだ。


 しかし、10秒、20秒と待てどもハル達に動きがない。


「……おいアラン、雷撃で煙幕散らせねぇのか」


「奴らの生死はどうでもいいが、あの魔道具を破壊する訳にはいかないからな。……いや、そうも言ってられないか」


 アランは小さく詠唱すると、器用に雷撃を操り部屋中に充満した煙幕を払っていく。


「…………」


「おいアラン。どうした?」


「……凄いな幻覚魔法というのは。本当に音まで聞こえなくするのか」


「んなっ!?」


 雷魔法を放った際に空間に違和感を覚えたのだろう。そこにあるはずの壁が、本来雷撃が当たるはずだった壁が無くなっていたからだ。


 煙幕を晴らしたそこにハル達の姿は既になく、アランが寄って行った壁には大きな横穴が空いていた。


「おいおい逃げられてんじゃねぇか! そもそもこの部屋には結界魔法が貼られてたんじゃなかったのか!?」


「あの地下に繋がる台座の魔道具が起動したことで結界も解かれたんだろう。地下の魔道具も取られたようだ」


「クソが!」


「落ち着け。言っても数十秒。そもそもの奴らの狙いがあの魔道具というのも考えづらいからな。そこまで遠くへは行っていないはずだ。追うぞ」


 横穴から出たアルとアランは獣人特有の索敵能力を発揮させながらハル達の後を追った。



        ×  ×  ×



(くっそ、この国に来た以上アイツらがいる覚悟は確かにしてたけど、それでも最大戦力なんだろうからてっきりどこかの戦場に出てると思ってたのに!)


 横穴から出ていく2人を見送りながらハルは小さく舌打ちをする。


 クァルフ達のお墓と例の魔道具が封印されていた地下へと避難し、これまた幻覚魔法で息を潜めていたハル達一行は何とか避けることが出来た戦闘にホッと一息つく。


 ヒーラに作ってもらった指輪型の魔道具により、単独で幻覚魔法を使用することが出来ることになったルルとリリィによる多重幻覚魔法。


 彼らと戦闘になれば無事では済まないことはここにいる誰もが理解している。


「2人ともお疲れ様。助かったよ」


「ああ。日に日に精度も良くなっている。あくまでも私達の目的は敵首魁の討伐。余計な戦闘は避けるべきだからな。2人の魔法は頼りになる」


 ハルとシュナに褒められ、したり顔で胸を張るルルと照れたようにはにかむリリィ。彼女たちがいなければ戦闘は避けられなかっただろう。


「とはいえ、もう魔法は解けたわ。急いでここから離れないとすぐに戻ってくるわよ」


「そうだね、早いとこあっちとは逆方向へ逃げよう」


 ハルの言葉に頷く一行。

 正面の出入口から出ると、カイがハルに声をかける。


「なあ、アイツらの目的がその魔道具なら、今のうちに壊しちまえばいいんじゃねぇの?」


 ハルの手にある十字架の魔道具に全員の視線が向く。


「おバカ。そんなの駄目に決まってるでしょ」


「……? なんで?」


「アイツらの目的はこの魔道具を使って全世界の人間をクァルフと同じ獣人にすること。それが可能なのはこの魔道具だけ。つまりこの魔道具が壊されたことを知ったら本当の意味であの2人がバカ親父の味方に着くことになる」


「そうだな。言ってしまえば今はアーク=ド=シューターとあの2人は同じ組織には属しているが目的はまるで違う。この魔道具がある以上、あの2人は人間を殺すつもりがないということだ」


 シュナの言う通り、アークが人間を絶滅させてしまうということはこの魔道具を使って獣人にする人間がいなくなるということだ。


 あの2人が何故それを目的としているかは不明だが、世界中探し回る程手に入れたがっているということは、並大抵の執念では無い。


「そ、それならいっそあの2人にその魔道具を渡してしまって、こっちの味方にしてしまうというのは……」


「アマネ……あんたはカイ以上のお馬鹿か。それであいつらが味方になる保証なんてどこにもないし、私もあんたも獣人になるんだよ」


「……で、でも、人間が絶滅するよりはマシなんじゃ」


「んなわけあるかー!!」


「ええっ!?」


 ばしーん! とハルの張り手がアマネの頬を襲う。


「あんたも見たでしょ。獣人になったときのクァルフの姿を……」


「は、はい」


 俯き小さく震えるハルに他の面々が注目する。


「ルナ博士には感謝してる。何て言ったって今の獣人の生みの親なんだから。でも、でも……! 私はあれを獣人とは認めない! 獣人っていうのは人間のフォルムに獣耳・尻尾があってピクピク動いてるのがいいの! 見てこの猫耳! 猫尻尾! まさに究極形態! 皆がこのフォルムになるならワンチャン考えてもいいけど、世界中があんな毛むくじゃらだらけになったら舌噛んで死ぬわ!!」


「このシリアスな状況で血涙流してまで主張することがそれか」


 ハルに猫耳を高速でモフモフされ、諦めたように溜め息をつくカイ。

 それを見たシュナ達もやれやれと同じく溜め息をつく。 

 

 ただ、それと同時に、ハル以外の皆の表情はどこか楽しげなものがあった。


 ──それでこそ、咲場 春だと言わんばかりに。


「つまりだ。私達のやることは1つ。あの馬鹿親父を倒し、近代兵器そのものと仕組みに関する情報も全てこの世から排除する。それらが全て終わった後、この魔道具を破壊する。当然、それまでにアルとアランにこの魔道具を奪われたり、前工程が完了する前にこの魔道具が壊れることはNG。どれか1つでも達成できなかったり順序を間違えた時点で……人間は絶滅する」

 

 思えば、不思議なものだ。

 ここにいる6人のうち4人は獣人で、例外なく人間に迫害された経験のある者達だ。そんな彼らが全世界の人間の未来を守るために戦おうとしている。


 1年前では考えられなかったことだ。


 咲場 春というたった1人の少女との出会いが、全てを変えている。


 もう、彼ら彼女らは咲場 春なしでは生きてはいけない体にされてしまっているのだ。調子に乗るので本人には絶対に言わないが。


 彼女のためならどこへでだって着いていくし、誰とだって戦える。


 きっと、彼女の横にいられるのも、そう長くはないのだから。



        ×  ×  ×



「…………」


「この臭いと気配。あいつら、まだあの博物館にいやがるな」


「……こう何度も化かされると流石の俺も魔法使いとしての自信を無くしかねんな」


 歴史博物館から数キロ離れた場所で、アルとアランはようやく何重にも仕掛けられていた幻覚魔法に掛かっていたことに気がついた。


「まさか壁だけぶっ壊してその場に留まってるなんて思いもしねーよ。ただ、獲物が目の前にいたのにあらぬ方向へ飛び出して行った俺達はさぞかし滑稽に映っただろうなぁ」


 回避不可能、自分が幻覚に掛かっていることすら簡単には気付くことのできない最強魔法。


 ハル達はこの魔法を基本的に回避の術として使っているが、もしこれを攻撃に転用してきたら流石のアルとアランでも一筋縄ではいかなくなる。それこそ、シュナの刀で首を刎ねられれば即死だ。辛うじて全神経を集中させたアルなら刀が自分の首に触れた瞬間に反応し、その刀が己の首を刎ね切る前に敵を叩き斬って相討ちに持ち込むことはできるかもしれないが、それこそ自分が今幻覚魔法に掛かっていると認識していないとできない芸当だ。


「幻覚魔法を破る方法は俺が思いつく限り3通りしかない」


「ほう、聞こうか」


「幻覚魔法と同じく回避不可能の最強魔法──読心魔法を常に幻覚魔法の使用者相手に使っておくこと。幻覚魔法は標的とする対象へどのような幻覚を見せるかを明確にイメージする必要がある。その考えを先読みする方法」


「つまり俺達には無理ってことだな。読心魔法なんてもん使えるのはこっちの陣営にはいねえ」


「2つ目に幻覚魔法を使い続けさせ、魔力切れを狙う」


「それも現実的じゃねえだろ。あいつらの限界が幻覚魔法何回分かなんて知らねぇし、そもそも魔法に掛かってる自覚がない魔法相手に捨て身過ぎる」


 アルの言葉に小さく頷く。つまり、3つ目の方法が本命ということだ。


「とにかく、奴らの中で厄介なのはあの双子の兎だけだ。あの双子さえ始末してしまえば他の奴らは取るに足らん」


「それについては同意見だ。あの魔法は本当にイライラするしな。つまり……」




「ああ、俺達の標的はあの双子だ。まず初めに、あの双子を殺す」





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