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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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15.全ての元凶


 次に目を覚ました時、全てが終わった後だった。


 戦争はサランド皇国の勝利で終戦し、その立役者であるはずの英雄クァルフは──、


『悪魔に身を捧げ、自我を失い、皇王殺しの犯人の処刑を邪魔した皇王殺しの協力者であると、英雄から一瞬で蛮勇に成り下がった。……いや、貶められた』


「…………」


『クァルフは国内に完全に居場所がなくなり、国を出ることになる。ただ、それにリンダが自分からついて行ったらしい。後から聞いた話だけどね。惚気になりそうだったからあたしも細かいとこまでは聞いてない』


 彼女は空を見上げながら、懐かしむように語り続ける。


『それから、10年後くらいだったかな。あたしは村にいる家族を盾に取られて国家専属魔道具研究者として国にやっすいやっすい給料で飼われてたんだけど、ある日クァルフから一報が入った。2人とはその10年の間も会えてはいなかったけど裏で連絡は取ってたの。ただ、その時はリンダに内密なクァルフからの報告だった』


「どんな報告が?」


 シュナの問いが届いているのか、彼女は一拍置いてからその質問に答える。


『国ではクァルフがリンダを攫ったとされていた。実際はリンダが自分の意思でついて行ってたんだけどね。でも、国民はそう思っていた。ただ、正直国としては今更リンダが戻ってこられても困るんだよ。リンダがいないまま戦後処理を10年続けてきていたし、何より、前王を殺害したのが本当は一部の貴族達という事がリンダに知られる訳にはいかなかった』


「んでもよ、クァルフと一緒に行動してたんならそんなことお姫様もとっくに知ってたんじゃないのか?」


 カイの台詞に彼女は軽く微笑みながら頷いた。やはりこちらの声も届いているようだ。


『その通り。リンダはこの一連の事件の全貌をクァルフとあたしから聞いて全部知っていた。だからリンダも今更国に戻る気はなかったんだ』


「それならもう、これでどちらも干渉せずにおしまい?」


 ルルがそう訊ねるが、きっとそうはならないだろう。でないと、この資料室に保存されていた話と結末が異なってくる。


 ハルの予想通り、彼女は小さく首を横に振る。


『国民の手前、形式上国はリンダの捜索を続けていた。そして、2人は──いや、4人は見つかってしまった』


 ──4人。どこからともなく現れた2人は考えるまでもない。


『2人の双子の息子と娘。クァルフに比べれば人間に近い見た目ではあるものの、当時、獣人なんてまだ世界のどこにもいなかった時代では、あの子達の容姿は簡単には受け入れられるものではなかった』


 その言葉に獣人だからという理由を幾度となく突き付けられてきたカイたちが黙り込む。


『そして、さっきのクァルフからの連絡に繋がる』


「……クァルフはなんて?」


『クァルフの処刑と引き換えに、リンダと子供の命は保証すると持ちかけられた。国民にはリンダはクァルフに殺害されており、国王と王女の殺害を企てた大罪人として処刑すると伝えると。これを拒否するのであれば、この説明が現実になる』


「それって……」


『そう。どちらに転んでも、クァルフの処刑は変わらない。リンダが双子を出産してから身体がだいぶ弱っていたのもあって、これ以上追ってからは逃げられないと判断したみたいだった』


「それを聞いて、あなたは何て返したんですか?」


『……何も。あたしにあいつを止められたことなんて過去一度だってなかった。あたしに報告してきた時点であいつの意思は変えられない。あたしにできることはあいつの意思を尊重し、あいつの望みを聞いてやることだけだ』


「望み?」


『リンダと子供達を頼む。それだけだったよ。国まで連行されたクァルフの処刑はつつがなく行われ、国民は蛮勇クァルフとして、クァルフに史上最大の大罪人というレッテルを貼り、この10年以上続いたいざこざは終わりを告げた。唯一、リンダに報告する時だけはキツかったなー。何故止めなかったのかって痩せ細った腕でガチビンタも喰らった。クァルフも一応手紙を残していたみたいで、あたしが報告する前にはクァルフが家族を守るために処刑されるつもりだということは知らされていたみたいだったけど。しばらく口は利いてもらえなかった。ただ、クァルフに頼まれた以上、3人のことは責任を持って支えた』


 自分の左頬を軽く撫でながら苦笑いを浮かべて語るその顔を見て、ハルは思う。


 ──もう、彼女は擦り減り切ってしまったのだろう、と。

 ──クァルフとの約束だからと言っているが、そうしないと罪悪感に押し潰され、到底堪えられなかったのだろうと。


 残された歴史書にルナという魔道具研究者は出てこない。

 国から目の敵にされていた彼女もまた、歴史から消されてしまった1人なのだ。


「もしかして、この場所って」


 ハルが周りを見渡す。

 謎の台座にハルが手を置いた瞬間に光に包まれた結界に囲まれたこの場所。

 カイ達曰く、この台座の下にはさらに空間が広がっているという。


『あたし達のお墓。クァルフ・リンダ・そしてあたし。最期くらいまた3人で一緒にいたかったからさ』


 ルナ博士の墓を魔道具でルナ博士が作る。

 一見矛盾しているように見えるが、彼女の話を聞いていれば、彼女の最期は容易に想像ができる。


 斬首刑に掛けられたクァルフ。

 体が弱り切っていたリンダ。

 そんな2人の幼馴染の最期を看取った彼女も、恐らくここで自ら最期を迎えたのだろう。

 

『……それにしても獣人と人間か。そして……君はハーフかな?』


「はい」


『そっかそっか。あたし達が望んだ世界にはまだなっていないようだけど、君のような希望もいるって分かっただけでも、この仕掛けを作っておいてよかったよ』


 この場所は、感覚の優れた獣人なら台座下の空間を見つけることができるようになっている。そして、今のルナの言い方を考えると、獣人と人間のハーフにしかこの結界を解くことはできないのだろう。


『この奥にはさっきも言った通り、あたし達の墓がある。でも、それだけじゃない』


「……? それ以外にも何が?」


『全ての元凶。クァルフを蛮勇にも英雄にもしてしまう魔道具。あたしは、彼を英雄にはできなかった……。だからこそ、あたしはあの魔道具を壊さずに封印した。あの魔道具は蛮勇クァルフを英雄にする唯一の証拠にもなるから』


「…………」


『君達はあの2人の子供が立派に生きた証。実はそれだけが気掛かりだったからさ。クァルフとリンダにちゃんと報告できるよ。……あたし達が望んだ世界になるにはまだもう少しかかるみたいだけど、君達を見て安心した』


「本当ですか? 私達はこれから、獣人を殺しに行く予定ですよ?」


『あー、君あたしの魔道具ナメてるね。今の世界がどうなっているかなんて、この魔道具が発動した時点でのぞき見してきたよ。知った上で言ってる。きっとこれで最後になる。長い長い、本当に長い、あたしが始めてしまった物語に終止符を打つのが君達で良かったと、胸を張って言える結末を草葉の陰から見守ってる』


 ルナが笑顔で言うと、光に包まれた空間にひびが入り、徐々に崩壊が始まる。


『……ただ、ひとつだけ気をつけて』


「何をですか?」


『君の父親、アークを討っても本当の意味ではこの戦争は終わらない』


「分かってます。日本から持ち込んだ兵器を何とかしないと」


『いや、そのことじゃない。君達が注意しなければならない相手が他にもいる。彼らはずっとこの時を待っていたんだ』


「彼ら……?」


 崩れゆく空間の中、ルナはハルの目を見据えながら、強く言い切った。


『とにかく気をつけろ。あの2人の本当の目的はこの戦争でも、人間の絶滅でもない。あたしの魔道具を使って──』


 完全に崩れ落ちた空間から元の歴史博物館の部屋に戻ってきたハル達は、背後に佇む黒装束の2人組に視線を向けながら、ルナの最後の言葉を反芻していた。




 ──あたしの魔道具を使って、人類全てをクァルフと同じ完全な獣人に変えてしまうことだ。




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