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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
最終章 30億だけ持たされた私の異世界生活。
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14.罠


 いつの時代も、力を持ち過ぎた人間は排除される。

 本当に、心の底から呆れる。

 冷たい地下牢で鉄分の味を口の中で感じながら、目の前のローブ姿の女に視線を向ける。


「この戦争は間もなく終戦する。それまでは利用してやるが、戦後処理にお前達は邪魔になる。今度こそ、正当な理由でお前達を処分する──ですって。嫌ね、自分の地位にしか興味のない奴らって。貴女を見ていると本当に運に見放されていて可哀想」


「……そう思うならそろそろ解放してくんない? いい加減この吊るされた両手首が痛いんですけど」


「ごめんなさいね。私も地位には興味無いけど金なら興味があるの。どんなクズでも金払いのいい客は裏切らない主義なの」


「ああ、そう……」


 本当に、呆れる。


「あんたもそんな力を持ってるのに利用されるだけの可哀想な人間ってことね」


「……好きよ、貴女みたいな頭の良いお馬鹿さんは。気が強いのも気に入った。貴女みたいな女の子の苦痛に歪む顔が堪らなく好きなの」


 ローブ女の周辺から発生した黒い霧があたしを囲む。昨夜から幾度となく受けた彼女流の拷問。


「ガ、アアアァァぁぁぁぁ……!!」


「私、身体的苦痛より、精神的苦痛を与える方が好きなんだけど、貴女はどちらの方が好みかしら?」


「…………生憎、そんな歪んだ性癖は持ち合わせてない」


「あらそう。それじゃあ尚更貴女には辛いと思うんだけど……貴女何でそんなに損をする生き方をするのかしら?」


「は?」


「理解に苦しむの。今だって私をイラつかせる言葉をわざわざ吐かなくても良かったじゃない。世渡り上手だったら、貴女も貴女のお仲間のクァルフも今こんな目に合ってないはずでしょ?」


 確かに──、正論だ。


「……それでも、あたしにだって譲れないプライドがある」


「それは、天と地程の力の差がある相手に歯向かってでも?」


「……フッ」


「…………?」


「天と地以上の差に打ちのめされたことなら、もう随分と昔に経験してる。だからその時に決めた事がある」


「……何かしら?」


「あいつが1位であたしが2位。あたしがあいつ以外で負けを認めるのはあいつ以上の力の持ち主だけ。あんたには荷が重いよ」


「……はぁ、あいつらからはクァルフの情報を抜いとけって言われたけど、これは時間がかかりそうね」


「そうだね。ま、頑張って」


「……他人事ね」


 苦笑いを浮かべたローブ女が杖を取り出し、あたしに近付いてくる様子を、やはりどこか呆れた感情で見つめていた。



        ×  ×  ×



 終戦の吉報が届くよりも先に、クァルフは獣の速度で首都ベーダに向かっていた。戦場で敵の降伏宣言が出された直後、ルナの身体に埋め込まれていた魔道具の反応が途絶えたのだ。


 互いの位置情報を把握するため、クァルフの身体にも同様の魔道具が埋め込まれているのだが、これは本人の生命活動に反応しているため、この魔道具が停止する時は魔道具が破壊されるか、本人の生命活動が停止した時に限る。


 前者後者どちらにせよ、反応が突然途絶えてしまったということは、何かしら問題が起こったということだ。


 この身体になり、ひとつできた弱点とすれば、それは持久力だ。

 驚異的な瞬発力と引き換えに明らかに昔より持久力がガタ落ちした。


(はっ、本当に獣みたいだな)


 肩で息をしながら、それでも足を止めようとはしない。

 視覚情報がないハンデを補って余りある四感をフルに使い、全力疾走で駆け抜ける。


 そして、ベーダに着く頃。


 まだ勝利の報告が届いていないはずの首都ベーダの中央広場。そこに人だかりが出来ていた。

 優れた空間把握能力で分かる。そこには昔はなかった形の物が置かれている。


(断頭台……!?)


 断頭台に人だかりが出来る場面など、1つしかない。


 クァルフは断頭台に掛けられた人間の魔力を感知する。それは、昔からよく知る、誰よりも長い時間一緒にいた者の魔力だった。


 その魔力を感知した瞬間、意識が遠のくのを感じた。


 気が付けば大剣を手に、断頭台の上でまさに処刑を執行しようとしていた騎士の首を刎ねていた。


 何が起こったのか理解が追いつかず一瞬静寂に包まれるも、誰かの悲鳴を皮切りに中央広場が混乱に陥る。


「な、何者だ貴様!!」


 後ろに控えていた数名の騎士が一斉に剣を抜いて構える。


「てめぇら、これはどういう了見だ? 何でルナが──」


 騎士に向き直り、クァルフも剣を構え直すと、騎士達は1人の人間を護るように動く。


 だがクァルフは彼らの動きには微塵も意識を向けず、ただ一点、彼らが護ろうとしている人物だけに意識を持っていかれた。


「……おい、何やってんだ、姫様」


「それはこっちの台詞よクァルフ。貴方、一体何を考えているの?」


 仮に、仮にこれが何らかの策略によって嵌められたルナの処刑だったとしよう。だとしても、彼女だけはここにいてはいけないはずだ。


「答えろリンダ。これは何の真似だ」


「質問しているのはこちらです。貴方、今自分が何をしているか理解しているの?」


「……っ、ざけんな! お前までそっちに行っちまったら、俺らはどうすりゃ……!」


「……? 落ち着きなさいクァルフ。貴方こそわたくし達の味方ではなかったの? 何故貴方が彼女を庇おうとしているの?」


「……お前、何言って──」


「彼女は……わたくしの父を、この国の王を殺した大罪人! それを庇うということがどういうことか分からない貴方じゃないでしょう!」


 本当に、何を言っているんだ──?


 ルナが陛下を殺した? いや、そもそも陛下は3年前には死んでいるとクァルフ達は推測していたはずだ。


 現状に混乱を隠しきれないクァルフの様子を見てか、1人のローブを着た女が断頭台に上がってくる。


「騎士の皆さん、彼の相手は私がします。今のうちに姫様を後ろへ」


 彼女の言葉に頷いた騎士達はリンダを護るようにして断頭台から降りてゆく。


「はじめまして。貴方のお噂はかねがね。そのようなお姿でもお会いできて光栄です」


「……誰だ」


「ふふ、混乱しているわね。それもそうでしょう。ずっと信頼していた姫様が、自分達の幼馴染の処刑を執行しようとしているのだから」


「…………」


 無意識に殺気が溢れ出す。

 そこらの兵士ならこれだけで気を失いかねない程の殺気を一身に受け、息を詰まらせるローブ女。


「…………これは凄い。あの博士が言っていたことも今なら分かる気がするわ」


「お前、色々知ってそうだな。一から順に全部吐け」


「私にそんな義理はないわ。ただ1つだけ教えてあげるとしたら、やっぱり視覚情報というのは大事だということよ。貴方、どうやってその女をルナ博士だと判別したの?」


「あ? んなもん魔力感知で──」


「目も見えない貴方の魔力感知が100%正しい根拠は?」


「……回りくどいな。はっきり言えよ」


「この処刑ショー自体が、貴方をおびき寄せ、そして貴方を破滅させるためのものだとしたら……? ちなみに私の得意な魔法は幻覚魔法よ」


(──っ! 嵌められた)


「そうそう、貴方とあの博士ちゃん、随分と仲良しみたいね。あの子の身体を調べさせてもらったけど、不思議な魔道具が埋め込まれてたから抉り取って破壊しておいたわ。ああ、安心して。身体を調べたのは同性の私だから」


「……なるほどな。お前らのシナリオ、ようやく読めたぞ」


「初めから全て上手くいっていたかと聞かれると、全然そんなことはないけれどね」


 つまり、ルナに埋め込まれていた魔道具を破壊してクァルフをおびき寄せ、ルナではない全く無関係の犯罪者を皇王殺しの犯人に仕立てあげ処刑する。ただし魔力のみをルナの魔力に感じさせるような幻覚魔法を掛けた状態で。

 他の人間はわざわざ魔力感知などせず、目で見た情報のみを頼りにするため、姿形は当然ルナではない人間の処刑になる。だからこそ、リンダも何の疑問もなく、父親の仇を処刑という形で取ろうとした。


 これは視力を失い、他人を魔力で判断していたクァルフ単体を狙った罠だ。




「大衆の前でやらかしたわね。これで皇王殺しの大罪人の処刑を邪魔した事実は覆らない。もう、何もかも手遅れよ、蛮勇クァルフ」




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