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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第5章 記憶
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23.すべてが遅すぎた


「じゃあルル達もカイを見てないんだね?」


「ええ、それにアタシ達は人波に流されて運良くすぐに港から離れたわ。港へ向かう人はたくさん見たけど、港から離れる人は……貴女達以外、見てないわ」


「つまり、カイはまだ……」


 あの港街に並ぶ出店付近にいる可能性が高い。

 そう、あの凄惨な現場である港街に。


「……戻ろう」


「……本気か? 正直ここまで来れたのはあの煙と砂ぼこりのお陰だ。今頃はそれも晴れているだろう。今戻れば的になるだけだぞ」


「じゃあカイを見捨てるの?」


「違う。今行くべきではないと言っている。先程サランド皇国の兵士が港街に向かった。生きていれば保護されるはずだ」


「カイは生きてるし、怪我をしてるなら私達が保護するべきだと私は思う」


 隠れている路地裏から出ようとするハルの右肩を掴んで止める。


「待て、何故そうなる? 話を聞いていたのか? 今はわざわざ危険な場所にこちらから出向くべきじゃない」


「多分、この国の兵士が向かったところで、あの武器を持った獣人兵には勝てない。でも彼らが降伏することもない。つまり言い方は悪いけど、負けて殺される人達にカイの保護は任せられない。それなら、彼らには悪いけど彼らが戦っている間に私達がカイを保護した方がカイを助けられる確率は高い」


 ハルの本気度が窺われた。その目は真剣そのもの。彼女は真剣にこう言っているのだ。


「……彼らを囮にするということか?」


 シュナはあえてはっきりと言葉にした。

 はっきり言葉にすることで、ハルの覚悟を知りたかった。

 確かにハルの言っていることも一理ある。もしカイが負傷していて動けないのだとしたら、それが一番カイを救うことのできる方法であることも間違いない。獣人兵が持っていた兵器を見る限り、この国の兵士が勝利する可能性は万が一にもないと思う。それはシュナも同じ考えだ。もしシュナが1人でカイを助けなければならないのなら迷うことなく同じ方法を選択するだろう。


 だからこそ、ハルからその提案が出るとは思わなかったし、ハルにその作戦を実行する覚悟はないと思っていた。いや、今でも思っている。


「本当にその作戦で行くというのなら、お前はここで留守番になる」


「は!? 何で? この左腕のせいで足手まといになるってこと?」


「その左腕は関係ないが、足手まといになるとは思っている」


「……どういう意味?」


「お前が他人を見捨てられるとは到底思えない。それが例え、マヒユ教徒であったとしても。それが例え、カイを救うためだったとしても」


「…………っ!」


「忘れたとは言わせない、つい数日前のことだからな。お前はモンスターに囲まれていたミュートを囮にすることができなかった。今回の相手は知性の低いモンスターではない。身体能力が高く、人間と同じ知性があり、一撃で敵を粉々にすることができる兵器を持った獣人兵が相手なんだ。戸惑い、躊躇い、たった一瞬の罪悪感で隙は生まれる。カイを救うどころか、私達全員そこで死ぬことになるだろう」


 この街に向かう途中、森の中でシュナ達は一度、モンスターに囲まれたミュートを囮にして逃げる選択をした。しかしそれをハルは許さなかった。勝手にクロスボウの矢に魔法を付与し、モンスターを誘き寄せ、ミュートを助けた言えば聞こえは良いが、結局シュナ達を危険な目に遭わせた。


 人を見捨てることができない。それはとても美徳で、ハルの長所である。独占欲も人一倍強いくせに、知らない人まで助けようとする。

 結局、ハルは何も捨てることができないのだ。仲間も、他人も、買いすぎた服やバッグでさえ、捨てることができないのだ。


 だが、人には守れる数に限界がある。

 だから、選ばなければならない。

 一番救いたいのは誰なのか。一番守りたいのは誰なのか。


 自分にとって、一番大切な者は誰なのか。





        ×  ×  ×





 再び、港から砲撃が聞こえ始めた。

 サランド皇国の兵士が港に到着し、獣人兵と戦闘を始めたのだろう。


 作戦は実にシンプル。

 サランド皇国の兵士達がビスト帝国の獣人兵と戦っている間にカイを見つけ出し、救出する。

 タイムリミットはどちらかの兵士が全滅するまで。恐らくそれまで戦闘は続くと思われる。だが、兵士の数が減ればそれだけ見つかる可能性も高まる。誰にも見つからず、素早くカイの居場所を特定し、素早く回収する必要がある。


 だが、あの戦場においてシュナの鼻も、ルルとリリィの耳も役には立たない。


「つまり、この作戦で頼りなのはお前のその魔眼だけだ。頼むぞハル」


「分かってる」


「見付け次第、私とアマネで救出に向かう。ルルとリリィはハルの側で誰か近づいて来ないか見張っていてくれ。この音の中厳しいとは思うが、頼むぞ」


「ええ」

「はい」


 港街に近付くにつれてその喧騒がますます大きくなる。

 怒号、悲鳴、絶叫。砲声、爆発音、そしてまた悲鳴。


 走りながら眼帯を外し、紅く輝く左目の魔眼を空気に晒す。

 硝煙と砂煙が舞っていようとも、この目には関係ない。戦っている兵士達の体内を流れる魔力の流れをその眼に映す。


(違う、違う、違う。あれも、こっちも……違う、違う……)


 高台になっている場所に辿り着き、足を止めて上から戦場を見下ろす。シュナ達は煙で視覚を、血の匂いで嗅覚を、悲鳴と砲声で聴覚を遮られている。今頼りにできるのはハルの魔眼のみである。


「……! 皆、頭を伏せろ!」


 頭を庇いながら伏せたハル達の頭上を砲弾が通りすぎていく。背後の建物に着弾し、爆発音と爆風に襲われる。


「ぐっ……! ハル! カイは……!?」


「違う、違う……違う……違う……! ……っ」


 肩で息を始めるハル。

 無意識で発動してしまうこの魔眼だが、初めにライン王子とロイドが注意していた通り、ロイドの魔力の回復力を持っていたとしても、放っておくと底を尽きかねないほど魔力を消費する。今日1日でそれなりの回数と時間使用している上に、今のハルは体調の方も万全ではない。


「はぁ……はぁ……くそっ、一体どこに…………! あの魔力は……」


「いたのか!?」


「いや……多分ミュートさんだ。もしかしたら回復役として呼ばれたのかもしれない。そんなことより、今はカイ、を……」


 目を見張る。

 ミュートのそばに、魔力の流れが明らかに遅くなり、その色も薄くなりつつある人影を発見した。

 身体の大きさからいって子供と思われる。恐らく屋台の陰になっていて少しは安全な場所だと考えたミュートは、そこで怪我人を治療する予定だったのだろう。そして何より、あの魔力の色には見覚えがある。


「シュナ……急いで」


「なに?」


「急いで! 右斜め下の屋台の陰にカイが倒れてる!」


「だ、だが、近くにミュートがいるのだろう? もしかしたら回復させようとしているんじゃ――」


「違う!! 魔眼でも見えてなかったカイの耳と尻尾が見えるようになってる! 多分、ペンダントが壊れたんだ!!」


「……!」


「ミュートさんはマヒユ教徒だ! 恩人とか、良い人とか言っている場合じゃない! マヒユ教のトップがあんな考えなんだ。もう、マヒユ教はそういう集団と見ないといけないんだ!!」


「…………っ」


 シュナが煙を切り裂きながら、高台から飛び降りる。

 先程自分がハルに言ったばかりではないか。覚悟を決めろと。一度守りたいものを決めたら、もう迷ってはいけない。もし、本当にミュートがカイを回復させてくれているのならそれでいい。心から感謝すればいいだけだ。だが、カイの耳と尻尾を見て、マヒユ教の教えに則った行動を取るというのなら――


(一度囮にしようと見捨てた罪悪感はある。ハルの怪我に回復魔法をかけ、近道を教えてくれた恩も忘れていない。だが、もし最悪の場合は……斬るしかない)


 左腰の刀に手を添える。

 いつの間にか砲撃が止んでいる。悲鳴も聞こえない。もしかしたら、もうサランド皇国の兵士は全滅してしまったのかもしれない。


 既に煙は晴れかけている。

 目を凝らし、全身の感覚を研ぎ澄ます。

 前方に気配を感じ、刀の柄を強く握る。




 そして……その手が、だらんと垂れ下がった。





「待って……違う……! その子は―――」



 高台から、その呟きが聞こえたときにはもう遅かった。



 


 煙は晴れ、護身用に手渡されていたのであろう槍の先が、倒れているカイの腹部に突き立てられている姿が肉眼でも確認できた。







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