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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第5章 記憶
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24.一線を越える


 あれ? 私、一体何のためにこんなところまで来たんだっけ?

 あれ? 元々私って、何がしたかったんだっけ?

 あれ? なんで、わたし――





 ―――あ、もう、どうでもいいや。





 マヒユ教も、ビスト帝国も、サランド皇国も…………もう、どうでもいい。


「もう……どうでも――、」





        ×  ×  ×





 ギリッと唇を噛み締めるシュナ。

 垂れ下がった腕に力を込めて、刀を引き抜く。


「ウオオオォォォォォォォ!!!」


「……っ!?」


 シュナの雄叫びに気づいたミュートはカイに刺さっていた槍を抜くと、間一髪でシュナの居合いを受け止める。


「しゅ、シュナさん!? 私だ、ミュートだ!」


「……っ!」


 この様子だと、どうやらミュートはたった今自分が刺した少年がカイであることに気が付いていないらしい。


 シュナは強引にミュートの槍を刀で弾き飛ばし、剣先を首元に突きつける。


「待った待った! だから私はミュートだ。今ここに獣人が攻めてきたことは知っているだろう? 私はここで気を失っていた獣人にとどめを刺しただけ。きっとこいつも敵の1人に違いない!」


「…………」


 その言葉を聞いたシュナは、もう話すことはないと刀を振り上げる。


「ヒィ……!」


「…………っ」


 刃を肩口から叩き込もうと振り下ろすが、その瞬間一瞬だけ脳裏に森の中で礼を言われたときのことを思い出してしまう。

 斬り込む寸前に手首を返し、峰打ちをミュートの首元に叩き込んだ。


 その一発で意識を刈り取ったシュナは倒れたミュートを尻目にカイの横に膝をつく。


「カイ! カイ! 聞こえるか! 目を開けるんだカイ!」


 顔の右側に右腕、右足が赤く焼けただれ、腹部からは先程の刺突による出血が溢れていた。


(息はまだ微かにある。だが、このままでは血が足りない……!)


 急いで止血を試みるが、流れ出す血は簡単には止まってくれない。

 右半身を見るからに、あの兵器による爆風に巻き込まれたことは一目瞭然だった。

 既に煙は完全に晴れている。幸いここは屋台の陰になっているため獣人兵には気付かれていないようだが、逆に言えばここから出れば蜂の巣状態になってしまう。


(とはいえ、カイをこのままにしておくわけにもいかない。今すぐ治療しなければ間に合わなくなる……!)


 ただ、自分達の中に回復魔法が使える者はいないし、唯一この街で回復魔法を使える知り合いは現在横で気を失っている。


 このままではいずれ街の中に進もうと前進を始める獣人兵に見つかってしまうのがオチだ。それならいっそのこと一か八かカイを抱えてハル達の元まで駆け抜けるか本気で悩んでいると、頭上から、見覚えのある光が降り注いだ。



「う……あ、ああ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 そんな叫び声と共に、頭上から物凄い光量が漏れ出す。

 その光にシュナは見覚えがあるどころではなかった。あの光は見間違いようのない絶対的な光だった。


「まさか……こんな時にまた魔力暴発が……!? くそっ!!」


 数日前の魔力暴発では、ハルのいた屋敷は跡形もなく吹き飛び、大きなクレーターを作り上げていた。

 現在ハルの近くにはルル、リリィ、アマネがいるはずだ。あの規模の魔力暴発が起これば必ず巻き込まれてしまう。


 それに――この光を見て、港にいる獣人兵が放っておくはずもない。


 シュナは屋台の陰から僅かに顔を覗かせ、獣人兵の様子を窺う。やはり高台を指差し、何やら指示を出している。

 そしてすぐに1人の獣人兵がロケットランチャーを肩に担ぎ、高台に照準を当て始めた。


「……っ! ルル、リリィ、アマネ! 今すぐそこから離れろ!! 獣人兵に狙われているぞ!」


 高台に向かって叫ぶシュナ。しかし、その声は虚しくも発射された砲声に掻き消され、砲弾は真っ直ぐに高台に放たれた。

 シュナは衝撃と瓦礫などの二次災害からカイを守ろうと、カイに覆い被さるように屋台に身を隠す。



 しかし、予想したタイミングに衝撃は訪れず、数瞬遅れて港に停泊している戦艦の1つが爆発した。



「……!? 何が起こった!? 自爆したのか?」


 訳も分からず何が起こったか確認しようと屋台から顔を出すと、頭上から声が掛かった。


「師匠! 危ない! 今度はそっちが狙われています!!」


 アマネの声が聞こえた頃には既にこちらに照準を合わせた獣人兵と目があった。

 今から逃げても爆風にやられる。万事休すかと諦めかけていると、砲声の数瞬後、再び獣人兵の戦艦が爆発を起こした。


「お前が……やっているのか……? ハル」


「…………」


 いつの間に現れていたのか、屋台の前にはハルが立っていて、無言で右手を前に突き出していた。

 謎の攻撃を連続で受けて混乱している様子の獣人兵達はいったんロケットランチャーをしまい、剣と拳銃を手に取り、一斉に前進を始めた。


 そして拳銃の射程距離まで前進した獣人兵達は屋台の前に立つハルに向かって一斉射撃を始めた。


「ハル! 伏せろ!!」


 しかしハルはシュナの声が届いていないのか、棒立ちのまま獣人兵を睨み付けている。


「おいハル! 聞こえてないのか!! ……っ!!」


 屋台に銃弾が当たる。顔を出すことはできない。シュナにとってはあれも初めて見る武器だが、簡単に屋台の板に穴を開けているところを見ると、人の体くらいは簡単に貫きそうな脅威がある。しかし、屋台の前にはハルが立っている。つまり銃弾の雨に正面から晒されているのだ。


「ハル! 返事しろ! どうなっているんだ!!」


 その声に返事はない。

 くそっ、と敵の武器に対する己の無力さに歯噛みしながら、隠れることしかできない自分に苛立ちを覚える。


(何故ハルは返事をしない……それにさっきの二発の砲弾はどこへ行ったのだ……さっきのハルの光は魔力暴発じゃなかったのか……だがアマネの声が聞こえたということは3人は無事なのか……今屋台の表ではどうなっているんだ……そもそもあの敵の武器は一体なんなのだ……何がどうなっているのか……もう何も分からない!!)


 頭を抱えながら気になることが次から次へと浮かび上がってくる。

 自分は今何をすればいいのか、今の優先事項は一体なんなのか。今の自分に一体何ができるのか。


「…………?」


 気が付くと、銃声は鳴り止んでいた。

 嫌な予感が胸の鼓動を速くする。


 一度目も二度目も、砲撃音が鳴り止んだ時は決まって、獣人兵が相手を殺し終えた時だった。

 つまり、三度目の銃声が鳴り止んだ。これの意味するところは自ずと予想できる。


 だが、その予想はシュナにとっては良い意味で裏切られた。


 いや、本当にこれで良かったのだろうか。


 港街にはもう数えきれない程の死体が転がっている。

 一般人から、国の兵士、そして、獣人兵まで。


 その屍の上に立っていたのは、左腕を包帯で首から釣りながら右手には獣人兵が持っていた剣を握り、ただジッと港にいる残りの獣人兵を見つめているハルただ1人だった。


 何が起きていたのか、見ていないシュナには分かるはずもない。

 それでも、何が起こったのか。その結果だけは、見ていなかったシュナにも理解はできた。


 シュナが屍の上に立っていたハルに声を掛けようとすると、突然ふらつき始めたハルが、剣で体を支えるようにして地面に膝をついた。


「ハル!」


「…………シュナ、カイは?」


 激しく息を切らしながら、シュナの方も見ずにカイの様子を確認するハル。

 だが、ようやく反応してくれたハルにほんの少しだけ安堵しながら、抱えていたカイの容態を伝える。


「……息はある。だが火傷と出血が酷い。このままではもう5分と持たないかもしれない」


「……皆、私の近くに集まって」


「なに?」


「早く! あいつらが来る前に、ここから飛ぶ!!」


 鬼気迫るハルにシュナは高台にいたアマネ達を急いで呼び、ハルの回りに集まらせた。


「こんな目立つところでマズいぞ。向こうがまたあの筒の兵器でこちらを狙っている!」


 シュナがカイを抱きながらハルに教えるが、またもハルは反応を見せない。


「おい、ハル!」


「喋ってると舌噛むよ! この人数とこの距離、ロイドのようには上手くできる自信がない!」


「は……?」


 次の瞬間、ハル達の足元に巨大な魔方陣が展開された。







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