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漆黒の狩人《イエーガー》アルティメス  作者: 北畑 一矢
第1章
9/90

要求

ある程度ストックができたら、順次投稿させていきます。

 一方、ガルヴァス皇宮の内部に位置する中央管理区画から、大画面のモニターにてガルヴァス軍の戦闘を見届けていたルヴィス達も、ガルディーニ達と同様にアルティメスによるヴィハックの討伐に、驚愕していた。

「あれだけの数を、一瞬で……!」

「…………!」

 帝国が開発したギガンテスでも数機がかりで倒すのがやっとだったヴィハックを、たった一機で全滅させたことに、それを目にしていたルヴィスとケヴィルも、これには黙るしかなかった。

 何しろ、これまで自分達を苦しめ続けた相手をものの数分で、単機で圧倒するなど、尋常ではないのは確かだ。いや、むしろ尋常ではない方が味方としては心強いかもしれないが。

 もっとも、それがあくまで味方であった場合に限る。もちろん、今の場合は、戦況が不利であっただけにそんなに喜べるようなものではなく、むしろ、空を悠然と浮かぶアルティメスに恐れを抱いているといった所である。

 何せ、彼らが見ているのは、彼ら自身ですら知らない、正体不明のシュナイダーなのだ。所属先すら不明で、一体どこから現れたのか分からない今、どう判断すればいいのか、この場での決定権がある二人には難しい決断を迫らせているようなものだ。

 ただ、ルヴィス達が決断するならば、戦場に介入してきたアルティメスの行動次第で判断されると過言ではない。もっともそれは、不利な状況を覆したい彼らからすれば不本意な形となるだろう。現実的・・・に見ても、それが正解とは思えなくもない。しかし、それに縋るしかないのも事実である。

(何者だ……奴は?)

 管理区画の大画面に映り続けるアルティメスを、ルヴィスは警戒心を抱きつつ、敵か味方か、そのどちらかなのかと、じっと見定めるのだった。



 自分の眼下に捉える戦場を片付けたルーヴェだが、余裕というべきか、すぐさま次にしなければならないことに意識を向けていた。

「さて、は……ここだな」

 操縦席のレーダーを通じて周辺を確認するルーヴェは、そこで未だに戦闘を続けていることをその目で捉えると、操縦桿を動かして機体を明後日の方向に向ける。

 操縦桿をそのまま前に倒し、アルティメスの背中から見える二枚の翼を展開させる。さらに、背面のスラスターが噴射され、アルティメスはその方向へと飛翔するかのように飛んでいった・・・・・・

「!」

「正体不明機、移動を開始しました!」

「何だと!?」

 アルティメスが移動する様を、ヴィハックの死骸が転がるこの場に留まっていたガルディーニや、遠くに離れた管理区画のオペレーターが捉える中、アルティメスは一直線に目標の場所へと突き進む。

「場所は?」

「…………! ポイントD7、ベータ部隊が戦闘している場所です!」

「すぐ近くか……アルファ部隊もそこへ向かわせろ」

「イエッサー!」

 他の部隊がヴィハックと戦闘を繰り広げている地点の中で、一番アルファ部隊と距離の近い場所にアルティメスが向かったことを知ったルヴィスは、ただちにガルディーニ達を向かわせることをオペレーターに伝えた。

「…………」

 救援に向かうならば一番距離の近い場所に行くのがセオリーだ。もしも、アルティメスがそのセオリー通りに動いているなら、それに則るのも道理だろう。それを鑑みたルヴィスは、ひとまず閉鎖区の中で散り散りとなった部隊を合流させることを優先した。だが、その目は未だにアルティメスを疑っていた。



「グゥルルル……」

「……ッ!」

 一方、メリア率いるベータ部隊は目の前で睨み合うヴィハックとの膠着状態が続いていた。ヴィハックから発する獣のような鋭い視線がとても痛く、それが周囲から注がれ続けていることは彼女にとっても、嫌な感じであった。

 一応、ギガンテスに装備させている牽制用のマシンガンや高火力を誇るバズーカなどの武器を構えて抵抗できる態勢にあるものの、この状況を脱せられるのは少し考えが甘いのだと彼女は思い知らされる。

 加えてその怯えが躊躇いを生み、一歩も動くことすらままならず、救援が来れば少しでも状況が変わってくるのではないかと期待を寄せていたのだが、少しずつ丸い風船に似た期待が徐々に縮んでいった。

(何か手は……!)

 それでもこの不利な状況を足掻こうとするメリアだが、今の状態でそれを可能にする知恵が働かず、ただ悔しそうに歯噛みするしかなかった。

 それを察知したのか、メリア達を囲んでいた、十体のヴィハックが一斉に襲い掛かろうとしたその時、それよりも先に目で追えない速さを持った一筋の閃光が、その内の一体を貫いた。

「!」

 ヴィハックを貫いた閃光がそのまま地面に直撃して爆発が起き、その爆風が周囲に飛び散る中、メリアはその閃光が放たれた位置である空に目をやった。

「あ、あれは……!?」

 その眼先にはライフルを地上に向けたアルティメスが空中から見下ろしており、そのライフルの銃口からは熱気が噴き出している。

「ギィアァ――!」

「…………」

 一方で地面からの爆風に巻き込まれ、辛うじて身を守った残りのヴィハックも、同胞を殺めたアルティメスへと矛先へ向け、雄叫びを上げる。しかし、ルーヴェはその雄叫びに怯むことも動じることもなかった。

 さらには地上から、誰もが自分に注目しているのを拡大表示されたモニターで確認すると、彼は機体の高度を下げ、立ち並んだ廃墟の中で両者が対峙している地上へと降り始めた。

 アルティメスを重力に身を任せるようにゆっくりと降ろすルーヴェ。誰もがそれに向けて視線を注ぐ中、彼は閉鎖区の大地に、メリア達が乗るギガンテスの前に降りた。

「…………」

 翼を生やした黒い狩人が月が見える真っ黒な空から降りていく様子を、モニターで眺めていたメリアは我を忘れるかのように視線を注ぎ続ける。

 全高はギガンテスと変わらないが、そこから醸し出している雰囲気や全体が細身に目立つ造りを含めて個性的であり、帝国が造るのとは明らかに別物としか言いようがない。

 加えて、機体に所持させている武器もあまり見かけないもので統一されているのか、少なくとも自分達の技術をはるかに超越しているのが分かる。しかし、背中についている翼や奇抜にも思えるその見た目は畏怖を感じさせるほどであり、血を浴びて黒く染まったその姿は、まるで悪鬼にも見えた。

「ガァアアア!」

「ッ――!」

「…………」

 だが、目の前にいる化け物が黙っているわけがなく、雄叫びを上げてメリア達を怯えさせる。しかし、ルーヴェはまたも動じず、むしろ自然体のような余裕を保たせていた。さらにアルティメスの右手に持つライフルにチラリと目を移す。

「これでも引かないとなると……自分達との差がどれほどのものか見せないとなっ!!」

 ゼクトロンライフルによる一撃で同胞を失っても今にも襲い掛かろうとするヴィハックの姿に、ルーヴェはライフルをアルティメスの右腰に仕舞い、左腰から伸びている柄に手を伸ばして引き抜くと、刀身が現れた一本の太刀、【ゼクトロンセイバー】をヴィハックの前に突き出した。

 その黒く塗られた太刀をアルティメスは横に振り、その鋒と刃面が上になるように胸の前に構える。すると、月の光に照らされた刀身が光り、目の先にいるヴィハックを鏡のように映し出した。

「グアァアアア!!」

 集団の中にいる一体のヴィハックは、ルーヴェのいつでも殺せるという分かりやすい挑発に乗っかり、咆哮を上げる。理性よりも本能が勝ったようで、両足を地面に着いたまま一度タメを作るとスタートダッシュの勢いで走り出した。

 地面が抉れてその一部が宙に舞う一方で、ヴィハックが獲物に向かって全力ダッシュをする姿はまさに一匹の猛獣だ。その猛獣が一直線に進み、そのままアルティメスへと向かってくる。

「!」

 それと必然的に相対することとなったルーヴェは迫ってくるヴィハックを見ても、未だに恐怖を抱いておらず、ただ、ジッと相手が距離を詰めるのを待っている。

 そして、両者の距離が一定のものとなった瞬間、

 ――ズパァアン!

 刃物による斬撃が騒音に遮蔽されることも廃墟に阻まれることなく周囲に広く響いた。


 その交錯は一瞬だった。自身の目前まで襲い掛かってきた化け物と相対したアルティメスは太刀を縦に一振りをした状態のまま動こうとしない。

 一方のヴィハックも同様に動こうとしなかったが、一拍置いた後、綺麗な縦一直線の傷跡・・がそのヴィハックの身体に刻まれ、二つに分かれた。その分かれた体はバランスを失い、そのまま断面が上になるように倒れ込む。

 地面から砂塵が小さく舞う中、死んだことを受け入れていないのか、ピクピクと震えつつもようやく死を迎え、死骸と化したヴィハックの身体は断面から特有の黒血が地面に流れ始めた。

「…………!」

 それを後方で傍観していたメリアは絶句する。

 ギガンテスのバトルアックスでヴィハックの頭部に打ち付けたり、マシンガンで撃ち抜いたりと絶命させるのがやっとだったはずなのに、あんな細い武器でこんなにも綺麗に斬れるのかと、アルティメスが持つ太刀の鋭さに恐ろしさを覚えた。

 そのアルティメスはというと、太刀を構えた状態で姿勢を正しつつ、自身の目前に控える数体のヴィハックへと突撃する。

 反対に、同胞の最期をその目に焼き付けたすべてのヴィハックはタイミングを合わせるように目の前にいるアルティメスに向かっていった。この瞬間、こう悟った。

 ――コイツは食われるための〝エサ〟ではない! 逆に自分達を滅ぼす〝敵〟だ! と。

「フン!」

 アルティメスは危険を感じてか距離を詰めてくるヴィハックに向かって太刀を振り下ろす。その切り傷はヴィハックの胴体に刻まれ、今度は胴体が二つに両断される。

 それでも自分に襲い掛かってくる数体のヴィハックを、ルーヴェは決して得物を逃がさぬ表情で迎え撃ち、まさに狩人が狩りを行うがごとく次々と薙ぎ払っていった。

 一方、その場から数歩下がった位置に留まっていたメリア達は一切手を動かすことなく、アルティメスとヴィハックの戦いをただ傍観し続けていた。いや、それしか彼らの頭に残っていなかったのである。

「…………」

 そして、メリアの目にはいつの間にか黒い狩人しか映っていなかった。


 それから数分後、ようやくガルディーニ達のアルファ部隊がメリア達の元に辿り着く。

 空を飛べるアルティメスとは違い、地上は廃墟で満たされているため、道が複雑となっている。それも含めて、到着するのに時間がかかるのも必然だ。

「!」

 その彼らが目にしたのは、彼らが既に目にしていた、戦闘を終えた後の戦場だった。



「――で、既に向こうに行ったということか……」

『はい。アレが我々の所にやって来て、それで……』

「…………」

 アルティメスを追いかけていたガルディーニは、合流したメリアからその時に起きていた事情を聴き出していた。だが、その内容単機によるヴィハックの殲滅という、つい先程、自分達の目の前で起きたことと似たようなものだった。

 それを表すかのごとく、彼らの目前にヴィハックの残骸が溢れ返っていたのである。どれも真っ二つに斬られたり、ハチの巣状にされたりと無残に飛び散っていた。

 しかも彼女の口からアルティメスはほとんど無傷の状態であったと言っていることから、たった一機で圧倒するその凄さを物語らせていた。

 だがもし、この先もアルティメスの行動が変わらないとすれば……とガルディーニは考え込み、一旦状況を整理すべく皇宮に通信を繋いだ。

『ルヴィス殿下。残りの部隊の状況を知りたいのですが』

「状況? オイ、今どうなっている!?」

「ガンマ部隊は戦闘を継続。デルタ部隊はガンマ部隊と合流し、共に戦闘を行っていると……」

『……すぐに合流します』

「そうしてくれ」

『イエッサー!』

 皇宮からの通信を切ったガルディーニは、先に合流したメリア達に指示を出した。

「聞いたか! これより救援に向かうぞ!」

『『『イエッサー!』』』

 その指示の通りに、ガルディーニ達は戦闘が続いている地点へと動き始めた。



 ガルディーニ達が動き出した様子を見ていたルヴィス達は、引き続き戦況を確認していた。そこにオペレーターからの報告が入る。

「正体不明機、ガンマ部隊とデルタ部隊の下でヴィハックと戦闘中! 次々と排除していきます!」

「…………!」

 オペレーターからの報告に、大画面のモニターに映るアルティメスへ視線を向けるルヴィス。その映像には、ガンマ部隊と交戦していたヴィハックと戦っているのが映っていた。それを見て、ルヴィスは深く考える。

(似ている……。アイツら・・・・に……!)

 ヴィハックを殲滅していくアルティメスを見て、ルヴィスはあれと同様にヴィハックを殲滅できる存在を頭に浮かべた。実力からして、相応に値するものだと思わず評価したのである。

 しかし、正体の分からないものに預けるというのは、皇族である彼にとってはプライドが許さないだろう。ヴィハックをも圧倒するその力にあやかるようなものだ。しかし、不利な現状を打破するには、それしか手がないとルヴィスは認めざるを得なかった。


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