表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の狩人《イエーガー》アルティメス  作者: 北畑 一矢
第1章
10/90

戦いを終えて

 形勢が逆転し、ガルヴァス軍とヴィハックとの戦いに終わりが見えようとしていた頃、ガルディーニの要求を受け入れたルヴィスはというと、ガルディーニが自分達の意向を逆らい、要求を推し進めたことにどこか不満を感じていた。

「ガルディーニの奴、舐めた真似を言い出すものだな……」

「ですが、奴の言う通り、あのシュナイダーがヴィハックを殲滅してくれるおかげで、我々の負担も軽くなったと考えた方がいいでしょう。まあ、言い換えるとしたら、我々に〝ツキ・・〟があった、ということになりますが……」

「……〝ツキ〟か……。そんな不確定なものに頼りたくはないのにな……」

 先程までは自分達が不利な状況であったにもかかわらず、今こうしてヴィハックと対等に渡り合えていることが、確かに〝ツキ〟があったと言えるだろう。もっとも、それを信じていたわけではないのだが、犠牲者の数を少なくできるのは何とも皮肉である。

 ましてやそれを呼び込んだのが、自分達の知らない機体だったとしても、ルヴィス達にとっては自分達の情けなさが露呈されたも同然だった。

 しかし、その恥を感じるよりも、あることに気づいていたルヴィスはニヤリと笑みを浮かべた。

「――だが、確かに我々にツキがあったと言いたくもないな」

「はい?」

「……改めてだが、よく見つけたもんだ、ケヴィル。あんなもの・・・・・をさ……」

(あんなもの……?)

 ルヴィスからいきなり褒められるような言葉をかけられ、困惑するケヴィル。

 一方で今もモニターに目を移す主を後ろから見て、彼が上機嫌であることは分かるものの、先程の言葉の意味が理解できないからか、その意味を探ろうと、自分もモニターの画面に映り込むアルティメスに視線を向ける。

 アルティメスがヴィハックと対峙している映像をしばらく観察してみると、今の映像にどこか違和感を感じたのか、狙い定めるかのように目を細めた。

「…………! アレは……」

 ケヴィルも何かに気づいたようで、タイミングを合わせるかのように彼の頭に何かが浮かんできた・・・・・・・・・。ついさっき、ルヴィスに指摘されたそれ・・をようやく思い出し、ケヴィルは大きく目を見開いた。

 その何かとは、ヴィハックが襲撃に来る前に二人がしていたやり取りと関わりのあるものだった。

「! まさか……!」

「ああ……。お前が見つけてきた、あの・・巨人だ……!」



 一筋の光が煌き、その煌きに|刻まれたヴィハックの身体が二つに分かれる。

 その奥から姿が見えたアルティメスは太刀を振り抜き、自分に襲い掛かってくるヴィハックを次々と仕留めていく。刃物によって真っ二つに斬られた身体が地面に転がっていき、まるで死体の山を築かんとする勢いでルーヴェは、この場にいる無数のヴィハックを狩り取っていた。

 ちなみに、彼よりも先に交戦していたガンマ部隊はというと、アルティメスがヴィハックを蹴散らしていくのを後方から黙って見届けており、自分達も負けずと攻撃を行おうとしていたのだが、そもそも味方ではない両者に逆に巻き込まれるのではないかと思ったからか、手を動かせなかった。

 その間にもまた、ヴィハックの死骸の一部が地面に転がり、既に大量の死骸がまき散らされていることも含めて、既に形勢は聞くまでもなくこちら側に傾いていた。

「あともう一ヶ所、と言いたい所だが……あちらさんに譲るとするか。面倒になる前に」

 もう少しでこの場にいるヴィハックを蹴散らし、最後の一ヶ所を片付けようとしたルーヴェだが、自身の周辺に他のガルヴァス軍がその場所へ向かっていることを知ると、その手柄を譲ろうとした。向こうのプライドを考慮してのことだろう。

 実際、襲撃が発覚した時と比べて、ヴィハックの数が少なくなっており、途中でルーヴェが乱入したとはいえ、今や人類側が優勢である。ガルディーニをはじめとするガルヴァス軍が、その最後の一ヶ所にいるデルタ部隊と合流すれば、そちらにいる残りのヴィハックを確実に殲滅できるだろう。それが終われば、後はオサラバするだけだ。

「なら、こちらも終わらせるとするか!」

 ルーヴェは自身の目的を再確認し、この戦場に留まるヴィハックの殲滅に改めて乗り出す。その彼が操縦するアルティメスは太刀を構え、背中のスラスターを噴射させると、目の前にいるヴィハックに向かって突撃するのだった。



 ――ドドドドッ!

「ギャアアア―――!!」

 獣とは思えない叫び声が無数の廃墟が立ち並ぶ大地に広く木霊する。その叫び声、いや断末魔を上げたヴィハックは身体に風穴を空けられ、仰向けに倒れ込む。また、その後ろにはそれと似たような死骸で埋め尽くされており、それらにトドメを差したのはもちろん、ガルヴァス軍のギガンテスだった。

『最後の一体を撃破。そちらは?』

『こちらも同様だ。まったく手こずらせてくれる……』

 連絡を取り合う機繰者達の周辺にはそれぞれ、ついさっきまで駆除されたヴィハックの死骸が転がっており、微動だにしない。どれもハチの巣状に風穴を空けられており、しっかりと仕留められているのがよく分かる。

 この惨状からおそらくは、大多数による一斉射によって殲滅させられたとしか言いようがない。それを裏付けるように死骸の傍に留まるギガンテスの数が異常に多かった。

「早めに合流出来て正解だったな」

「はい。我々が目にした時には既に、デルタ部隊が抑え込まれた状況でしたからね。あの時の判断は正しかったと思います」

「だな。ところで、ガンマ部隊との通信は?」

「現在良好です。先程の通信で、黒いシュナイダーがすべて殲滅したと報告が……」

「そうか……」

 その場に留まるヴィハックを殲滅できたのは、ガルディーニやメリア達のいる二つの部隊が救援に来たからだ。その救援によって数の利が逆転し、反撃に転じたのである。もっとも、合流する前に犠牲が出ていたのは辛いところではあるが。

 そして、本来、先に救援に向かうはずだったガンマ部隊にはアルティメスが向かっていたため、あそこにいるヴィハックを殲滅するのではないかとガルディーニは睨んでいたのだが、案の定、殲滅したと報告が来て、ひとまずはホッとしたようだ。

 だが、すぐに表情を引き締めると、彼はメリアに向かって、アルティメスの現在の様子を確認し始めた。

「――で、奴は?」



 一方、そのアルティメスに乗るルーヴェは最後の一体を仕留め、太刀に塗られた黒血を振り払うと元の位置に戻す。

「フゥ……」

 緊張感があったからか、ルーヴェは自分の肺に溜まっていた空気を吐き出すとその足元にあるペダルを踏み、背中のスラスターを噴射させてジャンプするように空へ飛び、一旦そこで佇む。

 地上に留まり続けるギガンテスがそれに気づいて一斉に見上げる中、ルーヴェはもう用はないと言わんばかりにこの場を去っていった。


「……ようやく終えましたね、殿下」

「ああ……。予想外の出撃だったが、収穫はまずまずといったところだ」

 戦いを終えてホッとしていたルヴィス達にも表情に余裕が生まれていた。

 彼らにとって部外者であるアルティメスの介入があったものの、ヴィハックをすべて駆除できたことには、幸運と言っていいだろう。それもあってか、犠牲者を出さずに済んだことも大きかった。ガルヴァスの、本当の援軍はあの機体だと思えてもおかしくもない。

 しかし、ルヴィスはまたも表情を引き締めると、あることを言い出し始めた。

「後は、死体の処理と周囲に拡散する〝ウイルス・・・・〟の除去だけだ。〝駆除隊〟を出動させて、徹底的に処理する! かかれ!」

「「「イエッサー!」」」

 その呼びかけにオペレーター達は皇宮内に待機させている特殊部隊――〝駆除隊〟の出撃を要請する。

 彼らはヴィハックの死骸の処理を任せられた部隊ではあるが、表舞台に出ることはあまり少ない。なぜなら、ヴィハックには死骸となった後にも問題・・となっていることがあり、それを防ぐために彼らがいるのだ。

 その準備を進める駆除隊のメンバーは十数名で構成されており、全身を包む白衣にガスマスクなど、徹底として皮膚に侵入させない完全防備となっている。

 また、除菌用のシャワーなど完全に細菌を撃退するための装備も揃っており、明らかに普通ではなく、危険が伴っていることには確定的だった。

 準備を終えたメンバーが次々と大きなタンクを載せた大型トラックに乗り込んでいく。エンジンをかけ、いつでも走れる状態となった数台のトラックは格納庫を出ていき、皇宮、そしてゲートが開かれたタイタンウォールを通り越していき、そのままガルヴァス軍が留まる閉鎖区へと向かっていった。

 ここからは、彼らの仕事だ。


 ヴィハックの襲撃を食い止めてから数分後、閉鎖区で起きた戦場に駆除隊のメンバーを乗せた複数台のトラックがやって来た。また、他三つの戦場にも同様のトラックが来ている。

「!……来たか」

 それぞれヴィハックの死骸が転がる戦場に留まっていたガルディーニ達は、そのトラックの姿を捉えると、トラックに乗っている駆除隊のメンバーに自分達の場所を伝え、誘導させる。

 時間は既に深夜にもかかわらず、戦場にいたアドヴェンダー達は未だに周囲の警戒に力を注いでいた。

 トラックが到着すると運転席に乗り込んでいた駆除隊のメンバー二人が降りてきて、すぐさま仕事を進め始めた。タンクにホースを取り付け、除菌用のノズルを抱えた二人はすぐさまヴィハックの死骸に向かっていき、ノズルから噴出された液体を浴びせ始めた。

 ノズルからは透明な液体が放出されているが、これはただの除菌水ではなく、ヴィハックの体の中に流れる黒血に含まれた〝あるもの〟を撃退させるために開発された特殊な液体である。

 その〝あるもの〟というのが、ルヴィスの言う〝ウイルス〟なのだ。そして、そのウイルスこそがこの世界全体に影響を及ぼす要因にもなっているのだ。

 この液体には、そのウイルスの汚染を防ぐために開発された成分が存分に含まれており、これを使うことでウイルスの活性を抑え、汚染を防ぐことができる。

 これまでヴィハックを撃退した時にも、必ずこの液体を使用する機会があり、この行為がなければ、たとえすべてを倒したとしても、その跡地だけでなく、周辺そのものをさらに悪化させてしまうからだ。

 その証拠に廃墟の周辺には草木が一本も生えておらず(・・・・・・)、草の根を張らせる土が腐っている(・・・・・)。当然、人が住むには適さず、ここに住んでいたガルヴァス人がこの大地を捨てることになったのも、これが原因だ。また、ヴィハックの口元から垂れる睡液もその一つ。

 この妙な液体、もといそれに含まれる何かが土を腐らせており、大地を汚染させていたのである。これを調査で既に判明させていた帝国は真っ先に除去を優先させるために駆除隊を結成させたのだ。

 まさに地球の外から・・・・・・やって来た・・・・・ヴィハックが世界を脅かす元凶そのものであった。




 ヴィハックの死骸、そして体外に流れる黒血や強酸を含む唾液を駆除隊が丹念に消毒していく。着実に、ウイルスが含まれた黒血や、強酸に似た睡液を浄化させていくことが、これがひとまずの気休めであることは明らかだ。しかし、こうすることしか今の彼らにできることなのだ。

 その消毒を見つめていたガルディーニ達も引き続き、作業を中断させないように周囲を警戒する。すぐに別の襲撃が来ることはないだろうが、油断はできない。彼らは戦いが終わった後も目を光らせ続けた。

 当然、ルヴィス達も同様だ。レーダーの索敵範囲を最大にしつつ警戒を続け、その現場にいる駆除隊に作業を進ませていた。しかし、それとは無関係でありながら、ルヴィスとケヴィルはあることが頭から離れずにいた。

「あの黒いシュナイダーは……消えたか・・・・

「ええ。しかし、アレは、何者でしょうか?」

「わからん。だが、近いうちにまた現れるかもしれん。その時は……」

「力ずくでも捕縛すると?」

「そういうことだ。あれだけの力、あの騎士達・・・・にも匹敵するかもしれん……!」

 アルティメスがまた自分達の前に現れることを予感したルヴィスは、頭の中にある警鐘を鳴らしつつ、自らの願望を叶えるために口元を歪め、その瞳に光を宿すのだった。



 その一方でルーヴェが乗るアルティメスは――ヴィハックとの戦いを終えた戦場から去り、夜の空に飛翔していた。

 自分が倒し、地面に飛び散らせたヴィハックの死骸の後始末までは手伝う気など、ルーヴェにとってはサラサラないだろう。まるで黒い鳥――カラスがエサの残りカスを撒き散らすかのように。

 ただ、その残骸からウイルスがまき散らされる可能性もなくはない。それこそ除菌の処置が必要なのだが、アルティメスにはその必要はない・・・・・・・のだ。なぜなら、既に布石は打っている・・・・・・・・のだから。 

「……余計なことをしてしまったな。これじゃ、計画・・にも支障が……いや、変わらんか」

 ルーヴェは、出動させていた部隊だけでヴィハックを殲滅できる状況に介入したことに後悔していた。だが、自分に課せられた任務を果たすためには、この障害は早めに除去しなければならず、どの道ヴィハックを殲滅することには彼の言葉通り、変わらないのである。

 しかし、今回の襲撃に関しては全くの予想外だった。何かあったのではないかと疑いたくなるのだが、当の本人としては、レディアントに赴く前に、先に閉鎖区に訪れた・・・・・・・ことぐらいだ。その時は、ヴィハックに襲われたこともあるが。

「……また会うことになるだろうが、俺にもまだ、やらなければならない(・・・・・・・・・・)ことがあるんでな……。邪魔するなら――潰す」

 そう、彼の目的は他にある。そのためにも決意を改めたルーヴェはレディアントへと戻っていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ