8話
午後になり、約束の時間となった。地下室へ呼びに来たメイドに案内されて、私は使い魔のギギと一緒に庭へと足を踏み入れた。
(ま、眩しい……)
薄暗い地下とは違い、柔らかな陽光に思わず目を細める。
メイドはそんな私の様子も気にすることなく「こちらです」と案内され向かうと、庭の中央に白いテーブルが見えてくる。そのテーブルには金色の長い髪をしたアーシャルが座っていた。
「お嬢様、お連れしました」
「アーシャル様、お待たせしました」
メイドと私が声をかける。彼女はテーブルから立ち上がり、迎えるように青い目を細めて微笑んだ。
「嬉しい。ミサノさん、来てくれたのね」
けれど、その目が私の姿を捉えた瞬間わずかに見開かれるも、その表情はすぐに可憐な笑顔へと変わった。
私はドレスのスカートを持ち、アーシャルにカーテシーをした。いつもとは違う、淑女らしいカーテシーにアーシャルの口元がぴくりと動いた。
それを私は見逃さなかった。
「……ミサノさん、あなたの好きなお茶と苺のケーキを用意したわ」
アーシャルはそう言って、優雅な仕草でテーブルへ視線を向けた。
白いテーブルの上には銀のティーセットが並び、香り高い紅茶の湯気が立ち、真っ白な皿には艶やかな苺が飾られたケーキが用意されていた。
「美味しそうなケーキ」
「でしょう? さあ、こちらに座って」
傍から見れば、仲の良い友人同士あるいは親友に見えるかもしれない。けれど実際は違う。彼女はこの屋敷のお嬢様で、私は地下室に閉じ込められている娘。
近くに控えていた、メイドが椅子を引いてくれたので腰を下ろす。するとアーシャルが、ふと私の腕に視線を落として、じっと見つめる。
そして。
「ミサノさん、腕の傷を治した?」
「えっ?」
(あの小さな傷に気づいたの?)
驚いて足元を見ると、ギギもこちらを見上げていた。
〈この娘、魔力がないくせに。なかなか鋭い観察眼ですね〉
記憶を思い出した後、試しに使った癒しの力。
その傷を治したときの魔力で、屋敷を探っていたギギが気付き、私はギギと出会えた。
「傷ですか? アーシャル様どの傷でしょう?」
私はわざと首を傾げながら、腕を差し出す。
その腕には今も彼らに付けられた、無数の傷痕が残っている。その中でも、ひときわ目立つ大きな傷痕を見せると、アーシャルはわずかに身を引いた。
(私だって思うことだもの。こんな酷いキズは見たくないよね)
けれどアーシャルはキズから目を逸らし、すぐに表情を整える。
「ごめんなさい。私の勘違いね」
そして、アーシャルは話題を変えるように「ねぇ、ミサノさんは知ってる?」と微笑んだ。




