6話
翌朝、朝食を運んできたメイドが告げた。
「ミサノ様、アーシャルお嬢様が本日の午後、お茶をご一緒したいとのことです」
お茶? 私は一瞬首を傾げたが、すぐに思い出した。アーシャルから領地に行くと伝えられる日。
「わかりました」
「それから、こちらはアーシャルお嬢様がご用意されたドレスでございます」
メイドは朝食のトレーと一緒に、艶やかな黄色のドレスと、それに合わせたヒールをテーブルへ置くと、部屋を出ていった。
(黄色か……)
ドアの鍵が閉まる音を確認してから、私はドレスを手に取り大きくため息を吐いた。鮮やかな色合いは決して嫌いではない。むしろ、黒髪に緑の瞳を持つ私にはよく似合うだろう。
けれど、このドレスには見覚えがあった。
小説の表紙に描かれていた少女の後ろ姿。その少女が身につけていたのが、この黄色のドレスだった。
(あの後ろ姿は、ミサノだったんだ)
そして、このドレスは半年後に開かれる王子の誕生会でも着ることになっている。
(外出するときはいつもメイド服だったし、もしかするとミサノの私服用のドレスは、これしかないのかもしれない)
午後になる前、黒猫が戻ってきた。
〈ただいま戻りました、ミサノお嬢様。旦那様は急用のため、すぐにはお目にかかれないとのことです。半年後に催されるサーランマ殿下の誕生会には、何としてでも会いに来るとおっしゃっていました〉
そうだった。
今朝、手に入れた二枚の新聞にも、ダンジョン探査や魔物討伐のため、父は今とても忙しいと書かれていた。
そして黒猫は両親と再会できる日まで、私の使い魔になってくれるという。私にも頼れる仲間ができた。それがとても嬉しかった。
(これで、ここから逃げ出せる)
〈ミサノお嬢様。旦那様と奥様からの預かり物です〉
黒猫がそう告げると、目の前の空間に穴が開いた。
そこから黒猫は両親からの手紙と、私が欲しいと頼んでいた書くための道具、紫色の石がついた指輪、分厚い数冊の本、小さな布製のカバンを取り出した。
(両親からの手紙。これはあとで読もう)
「空間に穴を開けるなんて、すごい魔法ね。それと、この指輪は何?」
私は銀色の指輪を指さした。
〈空間の穴は収納魔法です。そして、その指輪は使い魔契約の指輪です〉
「空間魔法、契約の指輪?」
黒猫は頷いた。
〈旦那様は現在、四体の使い魔と契約しております。人間が契約できる使い魔は三体までです。その指輪は、生まれたばかりのお嬢様へ贈るために旦那様が契約されたものです〉
「お父様が、私のために?」
〈そうです。しかし、公爵家の人間から、お嬢様は亡くなったと伝えられていました。旦那様は契約したまま、指輪を保管しておられましたが。公爵家が魔導具を大量に購入していると聞き、ぼくをここへ忍ばせたのです〉
魔導具の大量購入?
地下室の鍵や、周囲に置かれていた監視用の魔導具。それ以外にも、何かを買い集めている。
それは私を逃がさないためなのだろうか。
前にも思ったけれど、前回はそんなことをしていなかった。
(騙されていた私は、あなたの言うとおりに動いたのに)
胸の奥に怒りが湧いてくる。
〈ミサノお嬢様、指輪はどうされますか?〉
指輪。これを身につけていることが知られたら、取り上げられるかもしれない。盗んだと疑われる可能性もある。
私は黒猫が持ってきた小さな布製のカバンを手に取った。
「身につけることはできないから、この布製のカバンに入れておいても大丈夫?」
〈はい。このカバンに入れて、体に身につけてください〉
「わかった」
私は頷いた。
(お茶の時間かな。カバンは丸めて胸元に隠しておこう)
私はドレスを手に取ると、黒猫へ向き直った。
「午後、アーシャルにお茶へ誘われているの。ドレスを着るのを手伝ってくれる?」
〈もちろんです、ミサノお嬢様〉
黒猫は長い尻尾をゆらりと揺らしながら答えた。




