4話
うーん。アーシャルだけだったらまだいい。
問題はガタイの良いアーシャルの兄弟たちだ。私は小柄で華奢だし、身長だってそれほど高くない。まともに力比べをしたところで、敵う相手ではない。
(当日の私の衣装がメイド服なら、まだワンチャンあるかもしれないけど……。ひらひらな、ドレスだったら話は別だ)
小説はどうだったのか、思いだせない。まあ、いざとなったらスカートを掴んで、ヒールを脱ぎ捨てて走るしかないから、王城の中を詳しく知りないな。
(小さい頃、かけっこは早かったはず!)
……
…………
「……はぁぁぁぁあ、協力者が欲しい」
私一人ではまじで、力任せに逃げる未来しか思い浮かばない。そんな、自分に不安しかなかった。
〈なら、ぼくがお手伝いします〉
「⁉︎」
いきなり頭の中に響いた声に、私はベッドから飛び起きる。すると私の目の前に淡い光が現れ、ぱんっと弾けて、なかから赤いリボンを首につけた黒猫が現れた。
(猫?)
その猫は私を見ると、深く頭を下げた。
〈ああ、よかった。微量ではありましたが、魔力の痕跡を追って、ようやく見つけましたミサノお嬢様〉
「魔力? ミサノお嬢様⁉︎」
〈はい。あなた様は、魔巣のある辺境の地を治める、ストーリア男爵家のご息女ミサノ・ストーリア様です〉
「魔巣? 男爵? ミサノ・ストーリア?」
その苗字は初めて聞くものだった。
(チラッと男爵の娘って書いてあったけど、ミサノって苗字あったんだ)
黒猫は辺りを見て、尻尾をバシンバシン床に打ち掛けた。
〈まったく、ミサノお嬢様をこんなところへ追いやるなんて、許せませんね。あの人間を呪ってしまいましょうか? それとも、魔法で部屋の中を変えてしまいます?〉
「呪うのはいいけど……部屋の見た目は変えずに、ベッドだけふかふかにしてくれる?」
メイドが食事を運んでくるたび、部屋に異変がないか確認している。あまり部屋の様子を変えてしまえば、怪しまれてしまう。
〈見た目はそのまま、ベッドだけふかふかですね〉
黒猫が嬉しそうに尻尾を揺らすと、ベッドの上に淡い光がふわりと広がった。
〈できました。座って確かめてください〉
「もうできたの?」
〈はい〉
見た目は何も変わっていない、古びたベッドも、薄い毛布もそのままだ。猫の言うとおりに、そっと腰を下ろしてみた。
「わぁ……!」
身体がふわりとベッド沈み込んだ。あんなに固かったベッドが、まるで雲の上に座っているみたいに柔らかい。
「すごい。これなら、ぐっすり眠れそう」
〈ふふん。これくらい簡単ですよ〉
黒猫は得意げに胸を張る。
その横で私はベッドに横になり、ふかふかの感触を堪能する。すると黒猫が、ぴょんとベッドの上へ飛び乗ってきた。
〈それでは、次は枕もふかふかにしましょうか?〉
黒猫が尻尾を一振りすると、枕まで見た目は同じだがふわふわになった。
「ふかふか最高」
思わず頬が緩んだ。
〈人間め。ご主人様が、この公爵家の人々は何かを隠している、見張れと命令を受け。屋敷を見張っていたところ近くで、ご主人様とよく似た魔力を感じ。その気配を追い探し回った結果、地下室であなた様を見つけました〉
私の魔力を感じた? さっき腕の傷を治したときに使った「ヒール魔法」かな。
「微量の魔力で見つけるなんて、凄いね」
〈あたりまえです。ぼくは優秀な使い魔ですから〉
黒猫は嬉しそうに目をつぶる。
「ふふ、そうなんだ」
なら、この子にここを出る手助けをしてもらえるかもしれない。そう思った瞬間、ふと家族のことが頭をよぎった。私の家族。確か小説では、アーシャルが公爵家の娘だと判明した後日、公爵が私の家族を探したものの、すでに亡くなっていたと聞かされていた。
(……それは、小説の内容と同じ)
でもは、それが嘘だった。
胸の奥に、嫌な予感がじわりと広がっていく。
(どうして……? 公爵たちはどうして、そんな嘘をついたの?)
考えると、ひとつの可能性が浮かんだ。
『お前はひとりぼっちだ』
『誰も、お前を助けてはくれない』
そう思い込ませ。
『大丈夫、私がそばにいるよ』
『私と一緒にいようね』
アーシャルに依存させ、私から逃げる道を奪うため。
もう、私の癒しの力を奪う計画が始まっている。そう考えた私の背筋がぞくっとした。




