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癒やしの力を奪われたモブ少女、死に戻りで復讐を誓う  作者: にのまえ


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2/11

2話

 ……はっ!


「う、うわぁぁぁああーー!!」


 勢いよく目を開き、反射的に胸元へ両手を当てる。刺されたはずの場所を探るように触った。


 あれ? ナイフがない。

 それどころか、体は動く。息もできる。胸を押さえても、あの猛烈な痛みはない。


(嘘……私、生きてるの?)


 けれど、次の瞬間。脳裏に、先ほどの光景が鮮明によみがえった。


 胸に突き刺さるナイフ。

 身体を貫いた鋭い痛み。

 抜けていく力。

 そして、死を覚悟した瞬間の恐怖と絶望。


 ゴクッ。


 恐怖で喉が鳴る。


「私、少し前にナイフで胸を刺されて、前世を思い出しながら、確かに死んだ……」


 なのに、どうして生きているの?

 もしかして、ここは天国?


 私はゆっくりと周囲を見渡した。


 薄暗い部屋。

 入口の扉の横にぶら下がった古びたランタン。

 壊れた家具。

 布団すらない粗末な寝台。


 そして、鼻につくカビの臭い。


「……はぁ」


 どう考えても天国じゃない。

 ここは、あの子が帰ってきてから数日間、そして最後の日まで閉じ込められていた地下室だ。


(小説に書いてあった内容、そのままだ……)


 そう。ここは、WEB小説『彼女の愛する人達』の世界。生まれてすぐ、病院の手違いによって取り違えられた少女、アーシャル。


 これは彼女が本当の家族のもとへ戻り、愛されていく物語。そして私は、そのアーシャルと家族に癒やしの力を奪われ、物語の冒頭であっさり殺されてしまうモブキャラ、ミサノ。


 すでに地下室へ閉じ込められているということは、私の癒やしの力が家族に知られているということだ。


(もっと早く戻っていたら……。アーシャルが帰ってくる前なら、逃げ出すチャンスだってあったかもしれないのに)


 でも、今の私には前世の記憶があるし、この小説の内容もある程度ならわかる。


(だったら……逃げ出すチャンスは、きっとあるはず)


 グッと拳を握る。

 その瞬間、ズキッ! と身体のあちこちに痛みが走った。意味でに受けてきた暴力の痕。ただ、家族に愛されたくて必死に手を伸ばしていただけなのに、返ってきたのは拒絶ばかりだった。


(大嫌いな人たち)


 死の瞬間の痛みも、恐怖も、絶望も。

 私にとっては、ほんのついさっきの出来事のように鮮明だった。


 怖い、怖すぎる。早くここから逃げ出さなくてはいけない。そのためには、もっと具体的に小説の内容を思い出さなければ。


 でもいまは、身体を休めるほうが先だ。

 私は痛む身体を寝台に横たえた。しばらくすると、疲れからか瞼が重くなってくる。


 うとうとし始めた、そのとき。コン、コン、コンと部屋の扉を叩く音がして、ガチャリと部屋の鍵が開く。扉がゆっくりと開き、私は家族の誰かが来たのかと身を固くしたが、入ってきたのは手にトレーを持ったメイドだった。


「ミサノ様、お食事をお持ちしました」


 メイドはそれだけ告げると、中央の汚れたテーブルへトレーを乱暴に置き、ガチャリと鍵をかけて出ていった。


 私はベッドの上で遠ざかっていく足音を聞き、体を起こしてテーブルの上のくしゃくしゃな紙に包まれた固いパンと、クズ野菜の入った薄いスープを見つめた。


(この食事……地下室に閉じ込められてから、そんなに日にちは経っていない?)


 くしゃくしゃな紙で包まれたパンを手に取った。


(これって、新聞紙じゃない)


 私は新聞紙を取り、今日の日付を探した。


「西暦二六九年七月五日……」


 七月……私は必死に小説の記憶をたどる。

 確か、アーシャルが屋敷へ戻ってきたのは四月頃。アーシャルが怪我をする、お茶会が開かれたのは五月。


(ふうっ。癒しの力をアーシャル、家族に見せたあとか)


 その力を見た数日後、アーシャルは私に


『ミサノ、私たち友達になりましょう』


 と言った。その言葉をきっかけに教会、舞踏会、お茶会に私を連れていき。


 耳元で『あの人、怪我しているわ。可哀想ね』一人で寂しかった前の私は頷き、癒やしの力を使う。癒しの力で傷が治った人々は喜び、皆アーシャルに感謝した。


(そのことに私は気づかず。アーシャルが、みんなが優しくしてくれると勘違いして、言われるまま力を使ったのよね)


 粗末だった食事は豪華な料理へ変わり、地下室を出て、綺麗な部屋まで与えられた。


 しかし、物語の第一章の中頃。アーシャルは無色無臭で口にしても気づかない魔女の粉を手に入れ、私の食事に混ぜた。


 その粉は人の魔法を奪う粉。


 何も知らない私はみんなが優しくなったことを、新しい部屋になったことを、豪華な食事に喜んだ。


 笑顔で語る彼らを見て、いつかは本当の家族のもとへ帰りたいと願った。だが、その願いは叶わず、最後には力を奪われて殺された。


 私は目をつぶり、手を胸の上に置き、深く息を吐くも。少し前に見たナイフ、痛みがよみがえり、手がカタカタと震えた。


(そうよね怖いわよね。でも大丈夫。前の記憶と前世の記憶、この世界が小説の中だと知り、内容だって知っている)


 この食事に魔女の粉は入っていない。

 だから食べても安心。


 私はパンを手にとる。


(絶対にあいつらの思い通りになんてならない、生きてここからでてやる)

 

 空腹は考えを鈍らせる。いまを生き抜くために、固いパンへ思いきりかぶりついた。

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