1話
残虐なシーンありです。
痛い。苦しい。身体はぴくりとも動かず、意識だけが暗闇の中を漂っていた。そんな私の耳に、誰かの声が聞こえてくる。
「ハハッ、上手くいったな」
「そうね」
「ミサノの力は奪った。こいつはもう用済みだ。バレる前に、邪魔な存在は消しておかないとな」
「ええ。それがいいわ。後のことはあなたに任せる」
二人の声には、まるで感情がなかった。
(嫌だ……ここから逃げたい……)
そう思っても、身体は動かない。
「わかった。ここは俺がやる。アーシャルはここから出て、外で待っていてくれ」
「わかったわ」
パタンと、扉が閉まる音がした。
続いて、こちらへ近づいてくる足音。
その男の手に握られていたものが、ぼんやりと視界に入る。
ナイフ。
(……嘘)
それを見た瞬間、胸の奥が凍りついた。
(私……殺されるんだ)
癒やしの力を奪われた私は、もう抵抗することすらできない。それまでに受けた暴力の痛みと苦しさで、意識さえ途切れそうだった。
けれど、最後に見えたのは男がナイフを振り上げる姿。
「――っ!」
胸を貫く、とてつもない痛みが全身を襲った。
男は私を見下ろすと、冷たく吐き捨てる。
「あばよ」
そして、そのまま部屋を出ていった。
(痛い、どうして……?)
とくん、とくん、と。
胸の奥で、命の鼓動が弱々しく響いている。
私の命が、終わろうとしていた。
そのときだった。突然、見知らぬ光景が脳裏に流れ込んできた。どこか見覚えのある、小さな部屋。そこに置かれたソファ。
その上で、ラフな格好をした黒髪の女性が寝転んでいる。
(……誰?)
知らないはずなのに、なぜか懐かしい。
その女性が、クッションを抱えて身を起こす。
「ひ、酷い……。嘘、こんな最悪な展開が来るなんて……!」
クッションを何度も叩きながら、悔しそうに叫んだ。
「なんで? なんでよ、力まで奪われて……ミサノが可哀想すぎる!」
(……ミサノ?)
その名前をつぶやいた瞬間、頭の中で何かが繋がった。そうだ。これは私が読んでいた小説。そして今、目の前で繰り広げられているのは、その小説の中でミサノが殺される場面。
(……嘘)
胸から血が溢れる。
「グッ……!」
口から吐血した。
痛い。
苦しい。
こ、これは夢なんかじゃない。
今、私の身に起きている現実?
(嘘、私……自分の部屋にいたんじゃないの? なぜ、ここにいるの? なぜ? ミサノになっているの?)
どうして。
いつから?
そしてなぜ、今? 命が尽きそうなときになって気づいたの?
(そんなぁ、神様、酷すぎるよぉ……)
そう思った瞬間、私の意識は深い暗闇へと沈んでいった。




