12話
「ここに血を垂らすの? 表紙が血で汚れない?」
〈それは大丈夫です〉
昔、そんな場面を小説で読んだことがある。
けれど、地下室にはナイフどころか、刃物らしいものがひとつもない。
どうする? そう考え込んでいたとき部屋の扉をノックする音が響いた、どうやら夕食の時間になったらしい。
(メイドが来た。これらを隠さなくちゃ)
私は慌ててギギが持ってきたノートとペン、魔導書をまとめてベッドのシーツの下へ押し込んだ。
「はい」
返事をすると、しばらくして部屋の鍵が開く音がした。
「ミサノ様、夕食をお持ちいたしました。失礼します」
夕食のトレーを持ったメイドが部屋に入ってくる。
今夜も、いつものパンとスープだけかと思ったが。
今日はそれに加えて、お茶会で出されていたものと同じケーキがトレーに一つ乗っていた。
(珍しい)
「ミサノ様、どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」
「ありがとう」
メイドは一礼すると、部屋を出ていった。
私はその背中を見送りながら、すぐには動かなかった。
ガチャリと扉が閉まり、鍵のかかる音が響く。
私はメイドの足音が遠ざかっていくのを確認してから、ようやくベッドのシーツの下に手を伸ばしてノートとペン、それから魔導書を取り出した。
「ふう……。どこかに隠し場所を作ったほうがいいかな?」
そう呟く私に
〈それでしたらミサノお嬢様、指輪をしまったカバンに入れてください。そのカバンは見た目こそ小さいですが、アイテム収納カバンです〉
ギギが話した。
「アイテム収納カバン?」
私は胸元にしまっていた小さなカバンを取り出し、ノートと魔導書を入れてみると、二つともシュッとカバンの中に吸い込まれる。
「えっ!?」
慌てて中を覗き込む。
けれど、さっき入れたはずのノートも魔導書も見当たらない。
「うそ……」
私は呆然と、小さなカバンを見つめた。
〈取り出すときは、手を入れて探してください〉
「う、うん。わかった」
ギギに言われた通り、カバンの中に手を入れてみる。中は、見た目からは想像もできないほど広い空間が広がっていた。
手探りで中を探していると、指先に硬い感触が伝わってくる。
それをつまんで引き出すと、手の中にはノートがあった。
「ノートを取り出せたわ。……なんて便利な代物なの」
〈ミサノお嬢様。そのアイテム収納カバンには、名前のとおり収納魔法が付与されています〉
「魔法を付与?」
付与魔法のことかな。
たしか、対象に特定の能力や効果を与える魔法だったよね。
前世遊んだ、ファンタジーゲームでそんな説明を見たことがある。
〈見た目が小さいのであまり多くの物は入れられませんが、かなり便利なアイテムです〉
「それなら、なるべく貴重品はこの中に入れておいたほうがよさそうね」
頷くと、隣にいたギギも、
〈そうしてください〉
と頷いた。




