11話
地下室へ戻るなり私はギギに手伝ってもらって、ドレスを脱いだ。ようやく窮屈な装いから解放され、いつもの服に着替えて、ベッドへ身を投げ出し腕を見た。
まさか、治したのは小さな傷だったのに気づくなんて、アーシャルの観察眼はちょっと厄介かも。それに可愛い見た目と口のうまさ。彼女の生まれつきのものなのかは、小説にも書いてなかったからわからないけど。
とにかく、彼女はは人の心をつかむのが上手い。
だから前回、彼女は聖女となり、サーランマ殿下の婚約者の座を手に入れた。今回は上手く立ち回らないと。
だって苦しむのも、死にたくないから。
こっそり殿下と出会い治療して恩を売って、味方になってもらえたら最高なんだけど。地下室にいる私に、第一王子のサーランマ殿下と出会う手段もないかな。
(あ、魔法は? 前回とは違い、今回はたのもしい使い魔のギギもいる)
私はベッドに寝転びながら、側にいるギギに聞いた。
「ねぇ、いまからする話は無理な話かもしれないけど」
〈はい、なんですか?〉
「……誰にも見つからず王城に忍べ込めないかな?」
〈誰にも見つからず、王城に忍び込むのですか? でしたら、転移の魔法陣を利用すればいいのではないでしょうか〉
「え? 転移の魔法陣? そんなものがあるの?」
私はベッドの上で身を起こし、小さな前足でせっせと顔を洗うギギを見つめた。私の視線に気づいたのかその動きを止めて、琥珀色の瞳をこちらへ向ける。
〈えぇ、ありますよ〉
「でも、私の能力じゃ無理じゃない」
癒やしの魔法こそ使えるものの、それ以外の魔法はまだ訓練もしていない。
〈この部屋のどこでもいいです。転移の魔法陣さえ描いていただければ、ぼくが繋げられます〉
「どこかに、転移の魔法陣を描く?」
〈はい〉
こくこく頷くギギ。
描けと言われても描けないよね」
「無理よ。私、魔法陣なんて見たこともないもの」
〈魔法陣を見たことがない? あ、そうでした。旦那様から何かあったときの役に立つかもしれないと、預かっている魔導書がありました〉
「魔導書?」
そうですと。ギギは収納から一冊の古びた本を取り出して、私の前に置いた。私はそれを手に取り読もうとしたが、その魔法陣の本がめくれない。
「うううっ、ギギ、本が開かないけど?」
いくら開こうとしても、開かない。
〈えぇ簡単には開きません。ミサノお嬢様、この魔導書はストーリア男爵家に代々伝わる貴重書。本の表紙に血を垂らし、男爵家の血筋だと分かれば本が開きます〉
さぁ、今すぐここに血を垂らしてくださいと、ギギは表紙をパンと叩いた。




