10話
「よっ、ここで茶会してたのか?」
「僕たちも混ぜてよ」
来ないかと思っていた、アーシャルの兄弟が庭園に現れた。私は見えないよう、小さくため息をついた。
〈お嬢様、嫌な人たちが来ましたね〉
まだギギと内緒話ができない私は、足元のギギの言葉に返せず、小さく頷く。
「まあ、ラールお兄様、スカーイお兄様ごきげんよう」
「ラール様、スカーイ様、ごきげんよう」
アーシャルの後、私は何か言われる前に立ち上がり、スカートの裾を軽く摘まんで兄弟たちに頭を下げた。二人は私を見て何か言おうと口を開きかけたが、そのまま言葉を失う。聞こえたのは息を呑む音だけ。
「で、アーシャルこの女性は誰だ? ……まさか、ミサノか?」
「え、ミサノ?」
私はそうだと頷いた。二人が驚くのも仕方がない、今日の私はサイズ違いのドレスでもなければ、ぼさぼさの髪でもない。しばし庭園に沈黙がつづき。二人は私をまじまじと見つめ、そろって視線を逸らし。
「……似合わねぇな、そのドレス」
「うん。全然似合ってないね」
と軽めの嫌味を言った。
(ギギのおかげで、ドレスも着れたからね)
いつもとは違い、なにも言えなくなった兄達を見たアーシャルはふっと息を吐き微笑んだ。次に彼女が口にする言葉も、もうわかっている。
「ミサノさん。三日後、領地のバザーに行こうと思うの」
「バザー?」
「あら忘れたの? 毎月一回、一緒に行っていたじゃない」
ええ、忘れるはずがない。領地のバザーで私の力を使って人々を癒やす。そして、その功績はすべてアーシャルの名声になる。
(その名声は王都まで届く)
前婚約者が去り、婚約者がいない一目惚れをした殿下の婚約者になるため。ほかの令嬢たちにはない特別な価値を、あなたを悩ます病を癒やすことのできると。
「わかりました。三日後のバザーですね」
「ええ。早朝に迎えに行くから、準備をしておいてちょうだい」
私は小さく頷き、席を立った。ここに彼女の兄弟たちがやって来たし、バザーの話も聞いた。これでお茶会も終わりだろうと、私は頭を下げた。
「アーシャル様、お茶会にお招きいただき、ありがとうございました」
地下室へもどる、私の足元にギギが駆け寄ってきた。
今、スカートを持って走っても、あの兄弟、公爵家の騎士、魔導具に捕まるかな。
逃げ道を探そうと目線だけを巡らせる私に。
〈ミサノお嬢様、後ろに数枚の騎士と魔導具の反応があります〉
後ろから、数名の騎士がついてきているとギギは言った。逃げられないか。まあ、逃げてもまだ殺されはしないだろうけど、痛めつけられる。
痛いのは嫌だし、今は大人しく地下室へ帰って、ノートに思い出してきた内容を書いておこう。その、地下室へ戻る私の背中に、アーシャルのつぶやきが聞こえた。
「ミサノ……少し性格が変わったかしら?」
(私が変わった? そうもね)




