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第八章 また、お前のため

山道の途中で、レオンは足を止めた。


勇者の眼が、前方から近づいてくる三つの強い魔力を捉えている。


「ノア」


「はい」


「俺の後ろへ」


ノアは理由を聞かなかった。


ほどなくして。


木々の間から三人が姿を現した。


エリシア。


セドリック。


ミレイユ。


半年以上、会っていなかった。


エリシアの足が止まる。


二人はしばらく距離を置いたまま向かい合っていた。


「久しぶり」


「そうだな」


エリシアの視線がレオンから離れ、後ろのノアへ移る。


「その子が……魔王?」


「ノアだ」


「レオン」


「名前がある」


エリシアは口を閉じた。


代わりにセドリックが杖を持ち上げる。


「大神殿から正式な魔王討伐命令が下った。引き渡してもらう」


「断る」


返事は短かった。


ミレイユが一歩前へ出た。


「レオンさん。過去の魔王は、いずれも人類へ大きな被害をもたらしました」


「ノアは何かした?」


「今は、まだ」


「なら」


「完全覚醒してからでは遅いのです」


エリシアが口を開いた。


「レオン」


彼女の声には、以前と同じ響きがあった。


何かを決めてから話す時の声。


「その子から離れて」


「嫌だ」


「あなたまで魔王側と見なされる」


「だから」


「処刑対象になる可能性だってあるのよ」


レオンは黙っていた。


「お願い」


エリシアが一歩だけ近づく。


「あなたのために言ってるの」


その言葉を聞いた瞬間。


レオンの表情から何かが消えた。


エリシアも、それに気づいたらしい。


「……またか」


「何が」


「また、俺のためなのか」


エリシアの足が止まった。


「追放した時も」


何も言わない。


「俺の仕事を制限した時も」


「レオン」


「安全なところへ送った時も」


「……」


「村から逃げろって言った時も」


レオンは剣の柄へ手を置いた。


「全部、俺のためだったな」


エリシアの目が揺れる。


「今回は違う。世界が懸かってる」


「それで」


「その子一人を討てば、何万人、何十万人が助かるかもしれない」


レオンは少しだけ目を伏せた。


「また選ぶんだな」


「何を」


「弱い俺と白銀の翼」


ひとつ。


「ルグ村とリューデン」


ふたつ。


そして、ノアへ視線を向ける。


「今度は、ノアと人類」


エリシアの手が、ゆっくり握られた。


「同じじゃない」


「俺には同じに見える」


セドリックが口を挟む。


「極端な感情論だ。限られた戦力で損失を最小化するなら、選択は必要になる」


レオンは頷いた。


「そうだよ」


セドリックが少し意外そうに見る。


「お前はずっと正しい」


次にエリシアを見る。


「多分、お前も」


「なら」


「でも」


剣を抜く。


「正しい奴の言う通りに生きる義務はない」


エリシアも剣へ手を掛けた。


だが抜かない。


「私は、あなたと戦いたくない」


「俺もだ」


「だったら」


「帰れ」


「できない」


そこで。


レオンは少しだけ息を吐いた。


「じゃあ、来い」


銀の剣が鞘から抜かれた。


勇者。


剣聖。


賢者。


聖女。


本来なら肩を並べるはずだった四つの職業。


その中心に。


まだ何も滅ぼしていない魔王の少女が立っていた。


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