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第六章 自由

勇者になってから半年が過ぎた。


レオンは一人で各地を歩いた。


以前なら避けるしかなかった魔物も、一対一なら倒せるようになった。


とはいえ、何もかもができるわけではない。


回復魔法は使えず、セドリックのような広域攻撃もできない。


敵が多ければ罠を張り、狭い場所へ誘い、地形を使う。


勇者になる以前の六年間に覚えたものが、職業を得たことで消えたわけではなかった。


むしろ今になって、ようやく全部がひとつにつながったように思えた。


冬の初め。


山間の小村を訪れた時だった。


宿を探して歩いていると、広場の方から人の声がした。


レオンは足を止めた。


地面に、黒髪の少女が膝をついていた。


十三歳ほどだろうか。


冬が近いというのに薄い服を着せられ、首には鉄の輪がある。


村の男が棒を持って立っていた。


「水桶ひとつ運べないなら、何のためにいるんだ」


少女は俯いたままだった。


「……すみません」


レオンはしばらくその様子を見ていた。


関係のない村だ。


事情も知らない。


そう考えて一度歩き出しかけたが、数歩進んだところで止まった。


振り返る。


「その子」


男がこちらを見る。


「何だ」


「いくらです」


少し後。


金貨八枚と引き換えに、少女の所有権はレオンに移った。


村を出ても、少女は何も尋ねなかった。


ただ数歩後ろを、一定の距離を保って歩いている。


日が暮れ、森の中で野営すると、レオンはパンとスープを差し出した。


少女はそれを見たまま手を出さない。


「食べないのか」


「……命令ですか」


レオンは少し考えた。


「食べろ」


ようやく少女がパンを取った。


食べ始めると、思っていた以上に腹が減っていたらしく、すぐに速度が上がった。


「ゆっくり食べろ」


少女が頷く。


食事を終えた後。


「次は何をすればいいですか」


「寝ればいい」


「仕事は」


「ない」


少女は初めて、はっきりと困った顔をした。


「では、なぜ私を買ったのですか」


レオンは焚き火へ一本枝を入れた。


「見ていて、気分が悪かったから」


それ以上の理由はなかった。


鞄から奴隷所有証書を取り出し、火に差し入れる。


少女が立ち上がった。


「何を」


「これで俺はお前の所有者じゃない」


レオンが剣へ手を伸ばすと、少女の身体が強張った。


それを見て、動きを止める。


「首輪だけ切る。嫌ならやめる」


少女はしばらくレオンを見ていた。


やがて、ほんの少し顎を引いた。


レオンは彼女が動かないことを確かめてから剣を抜き、鉄の輪に刃を添えた。


一度で切る。


首輪が地面へ落ちた。


少女は自分の首へ手を当て、しばらく指を動かしていた。


「名前は」


「……ノア」


「俺はレオン」


「知っています」


「どうして」


「勇者様」


「その呼び方はやめてくれ」


「では、レオン様」


「様も要らない」


少し考えてから。


「レオンさん」


「それでいい」


翌朝。


レオンは荷物を背負い、街道へ出た。


しばらく進む。


後ろから足音が続いていることに気づいた。


足を止める。


ノアも止まった。


「どうしてついてくる」


「昨日、自由だと言われました」


「ああ」


「ですから」


ノアは、少しだけ考えるように間を置いた。


「自由なので、レオンさんについていきます」


レオンは何も言えなかった。


「……好きにしろ」


歩き出す。


再び足音がついてくる。


一人旅を始めてから、


初めてその音を嫌ではないと思った。


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